「うつしだす世界」を紐解いていく。
一人の映画人として、毎年のように東京国際映画祭へ足を運ぶという三島監督。2016年には『少女』、2017年には『幼な子われらに生まれ』が同映画祭で上映された。観客との質疑応答や、他の映画人との交流を通じて、自分では意識していなかった作家性に気付かされたこともあるという。
「自分は映画をこう撮りたい、こう構築したいと考えているだけで、それが他の監督とどう違うのか認識していないこともあります。比べるものではないですから。でも上映を決めてくださった理由をお聞きしたときや、映画を観てくださった方との質疑応答などで、「あなたは手や足を意識的に撮っている」「人間を残酷なまでに映し出すのに慈愛に満ちている」「理解しやすいのに、それでいて芸術性の高さを保つ稀有なバランスがある」「フィックスでも手持ちでも長いカットを多用する」といった自分の作家性を言葉にしていただくことがあって。そうした言葉を通じて、自分が大切にしてきた表現の中にある作家性が、少しずつ輪郭を持って見えてくるような感覚がありました。映画を注意深く観てくださる方たちに、自分では意識していなかった表現の特徴を言語化していただけたことは、とても大きかったんです。また、映画祭の期間中は、なるべくたくさん映画を観るようにしています。その映画の監督に感想を伝えて、一緒にお酒を飲みに行くこともあります。海外の監督とは、通訳してくれる方に間に入ってもらいながら話をするんです。今、世界では何が起こっていて、私たちは何を心にとどめ、何を映画として発信していくのか。そうすることで、世界はもちろん、映画そのものと出会い直したような感覚になることがあります」
映画祭で自分の作品を上映してもらうことは、次の作品を作るための励みにもなる。
「映画祭で上映していただけることは、「これからも映画を作ってください」と言っていただけているような、「映画の国」に入れてもらえたような感覚になることができ、大きな励みをいただいてきました。今回、『男ともだち』をコンペティションに選んでいただけたことは、私にとって新しいスタートに立てたような、また違う歓びがあります。大学時代には8ミリフィルムで自主映画を作っていましたが、その後、NHKの局員として人間ドキュメンタリー制作を経験し、東映京都撮影所で6年ほど助監督を務めて、商業映画の監督としてデビューしました。その中でずっと大切にしてきたのは、自分の視点と表現をいかに深めていくか、ということでした。もちろん制約もありましたが、その中だからこそ発見できた表現もあって、一本一本作家性のグラデーションを濃くしていくような映画づくりを目指してきたと思います。前作『一月の声に歓びを刻め』では商業映画の枠組みを離れて、インディペンデントで制作し、今回はその経験を携えて、杉本雄介プロデューサーにお声がけいただいて、再び商業映画の中で多くの皆さんに深く届くことを目指しながら、作家性も濃厚に表現することができた。自分にとっても新しいフェーズが始まったというタイミングを、映画祭のプログラミング・ディレクターを務める市山尚三さんを含む審査される皆さまがよく見ていてくださっていて、コンペティションに選んでいただけたことに心から感謝していますし、光をいただけました」
『男ともだち』は、男女の間に友情は成立するのかという古典的なテーマを扱いながら、人間の持つ複雑な欲望を描き出した点が評価された。
「これから映画をご覧になる方は、タイトルの通り、神名と“男ともだち”であるハセオとの関係性を軸に物語を追っていくと思うんです。でも同時にこれは自分がどういう絵を描いたらいいのか見失っているイラストレーターの女性の生き方の話でもあります。神名がハセオとかけがえのない3つの夜を過ごすことで、自分や自分の周囲ばかりに向いていた目が、世界へと向いていく。つまり、彼女が自分の目で世界を見るまでの物語でもあるんです」
その先にある変化が意味を持つ。
英題の『Two Cigarettes, Three Nights』は、日本語訳で「2本のたばこと3つの夜」。邦題とは異なる角度から、物語の核心をそっと示唆している。
「2本のたばこと聞いて、皆さんは何を想像するでしょうか。たばこは火を付けて、燃え尽きたら灰になり、なくなってしまうものです。私たちの人生も、いつかは終わる。その限られた時間の中で、二人が一緒にいられることや、神名が描くものを見つけることも、燃え尽きるまでの時間の中にあるのかなと。もちろん、意味をどう受け取るかは観てくださった方に委ねたいので、これ以上はなるべくしゃべりたくないです(笑)。ぜひご覧になった方は、感想を聞かせてください」
人生には限りがある。誰もが知っているはずなのに、普段の暮らしの中では、なかなか実感できない。けれど、劇中の「世界の終わりの日が来たら、何したい?」というハセオの問いは、そんな当たり前の事実を自分のすぐそばに引き寄せる。
「昔は「世界の終わり」という言葉をどこか寓話的な言葉として捉えていた気がしますが、2020年以降はそう遠い話ではなくなりました。コロナパンデミックもそうですし、世界情勢もそうですよね。気候の変化も含めて、何かが突然起こることを以前より身近に感じるようになりました。でも世界の終わりを想像することは、必ずしも絶望を意味しないと思うんです。むしろ、終わりがあると知ることで、今ここにある時間のかけがえのなさが見えてくる。神名が過ごす3つの夜も、やがて終わるからこそ、その先にある変化が意味を持つのだろうと考えています」
生きていかなければいけない。
本作では、劇中に登場する映画も重要な役割を果たしている。『西部戦線異状なし』や、セリフとして『ヒロシマ・モナムール』といった作品が物語の中に織り込まれ、神名とハセオが広島へ向かう流れにもつながっていく。小説の展開をそのままなぞるのではなく、映画として物語を構築する上で、三島監督はそれぞれの要素を結び付けていった。
「映画の中で映画を使うことには、いくつか意味があると思っています。一つは、今の社会情勢を映し出すこと。例えば、『西部戦線異状なし』のような作品が名画座で上映されているということには、今の時代だからこそ伝えたい何かがある。そういう映画が選ばれている時代なんだということも含めて、表現できる方法の一つだと思うんです」
映画という表現そのものを、登場人物たちが生きる現実と対比させる意図もあった。物語の中で人生が一つの区切りを迎えることと、現実の人生がその後も続いていくこと。その違いを意識させることで、神名が抱えている迷いや葛藤が、より切実なものとして立ち上がってくる。
「映画は、どんなに悲惨な人生を描いていても、だいたい2時間という枠の中で整えられていますよね。でも観ている人が生きている現実の人生は、もっと複雑で、終わりの見えない時間を生きていかなければいけない。エンドマークは出てきません。映画の中の世界と、彼女が今生きている時間との境界線を強調することで、主人公の現実の人生の大変さを浮かび上がらせるという狙いがありました」
神名が抱える迷いは、決して20代や30代だけのものではない。自分の人生を生きられていないと感じる瞬間や、この先どう進んでいけばいいのか分からなくなる時期は、年齢を重ねても訪れるはずだ。
「30代でも40代でも50代でも、自分はどうやって生きていこうかな、どういう方向に進んでいこうかなと迷うことはありますよね。人生の中で、そういう時期は何度もやってくると思うんです。そんなとき、ちょっとだけ向きを変えてもらえたらいいなと思います。見る世界が少しズレるだけで、全然違う世界が広がっていくことがある。そこから世界とつながっていける瞬間が生まれるんじゃないかなって。かけがえのない“男ともだち”との3つの夜を通して、神名が見つけたこと。それは、最後に神名が描く絵に、我々がこの映画を通して伝えたい2026年のメッセージとして表れています。そこから何かを感じ取っていただけたらうれしいですね」
2本のたばこが燃え尽きるまでの時間も、神名がハセオと過ごす3つの夜も、永遠には続かない。しかし、限られた時間の中で誰かと出会い、言葉を交わし、何かを感じ取ることで、見えてくる世界は変わっていく。
「観てくださった方の中には“男ともだち”や“女ともだち”という存在について、話してくださる方もいました。自分にもそういう人がいると思いながら観ていただけるかもしれない。観終わる頃には、いつの間にか、関係性に名前なんてなくてもいいと感じていただけたら。成田さんのおっしゃっていたことですが、今作が「人を愛したくなる作品」になってくだされば、そして、世代に関係なく、自分の人生をどう生きていこうかと考えているすべての方に観ていただけたらうれしいです」
30歳目前、人生に行き詰まるイラストレーター・神名(松岡茉優)と“男ともだち”・ハセオ(成田凌)の曖昧で確かな関係性を綴る千早茜の同名小説を三島有紀子監督が映像化。京都、富山、広島――あの頃も今も変わらない温度で接してくれるハセオと過ごす“3つの夜”が、神名の人生を大きく変えていく。
配給/ハピネットファントム・スタジオ
(C)2026『男ともだち』製作委員会
映画『男ともだち』公式サイトはこちら
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