連載
144NOV-DEC 2026.11.06
フィルモぐらし
映画監督・白石和彌
11月13日から開催される第20回 田辺・弁慶映画祭で、特別審査員を務める白石監督。映画祭で作品を審査する際、大切にしている“衝動”とは。さらに、12月25日から公開される『BYE BYE LOVE 探偵はBARにいる』では、サカナクションの主題歌や主演を務める大泉洋への思いを語る。最新作の公開を控えながらも、次なる作品へ向けて動き始めた白石監督に、ここ最近の出来事と創作について聞いた。
映画監督の白石和彌が、現在手掛けている
映像作品について語る連載の第37回。

 2026年11月13日から15日にかけて、和歌山県田辺市で開催される第20回 田辺・弁慶映画祭。インディーズ映画の登竜門として知られ、今回で20回目を迎える本映画祭のコンペティション部門にて、白石監督が特別審査員を務めることが発表された。多忙を極める監督だが、今回の就任にはある映画人との縁があった。

「何年も前から、映画祭の審査員もしている東京テアトルの沢村敏さんから「来てほしい」と言われていたんです。この映画祭はテアトルさんもずっと支援されていて、受賞作の上映なども手掛けています。沢村さんとはよく知る仲ですし、ずっと声をかけていただいていたんですが、去年は撮影で台湾にいたりして、毎年この時期はなかなかタイミングが合わなかったんです。今年も編集作業が入っていましたが、少し無理をすれば行けそうだ、ということでお受けしました」

 共に特別審査員を務めるのは、映画にも造詣が深い坂井真紀だ。

「坂井さんとは深夜ドラマの『怪奇恋愛作戦』でご一緒しましたし、若松(孝二)さんの『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』にも出られていたので、昔からときどき顔を合わせたりはしているんです。本当にたまにですけど、タイミングが合えば一緒に飲んだりとかも。素晴らしい俳優であることはよく知っているので、今回ご一緒できるのはめちゃめちゃ楽しみですね。ただ、田辺市は初めて訪れるところですし、熊野古道もあるので、少し散策したかったんですけど、どうやらその時間はなさそうで。みんなで映画を観て、審査して帰る感じになりそうです」

 映画祭で審査をする際、白石監督はどのように作品を評価しているのだろうか。これまでも、ぴあフィルムフェスティバル(PFF)やSKIPシティ国際Dシネマ映画祭などで審査員を務めてきたが、その基準は明確だった。

「海外のプロの作品も多い映画祭であれば技術的なことも加味しますが、田辺・弁慶映画祭などは若手新人監督の作品が多いと思うので、技術的な完成度というよりは「この人は何がやりたいのか」という部分を見ます。一番は“衝動”ですね。これをやらないとどうにもならない、やりたいと思った瞬間に体が動いてしまった、というような衝動がある作品かどうか。パッションのある作品に出会えると、こちらもすごく心が洗われますし、そういう出会いが映画祭ではやっぱり楽しみです」

 綺麗に整えられた作品よりも、作り手の魂が剥き出しになった作品に惹かれる。しかし同時に、映画づくりにおけるリアルな側面も熟知している。

「2019年にPFFの審査員をやったとき、同じく審査員だった山下敦弘監督が「僕も自主映画をやっていたから、長編として完成しているだけで感動してしまう」というようなことをおっしゃっていたんです。確かに、自主映画って途中で空中分解したり、出演者と連絡が取れなくなったり、いろんな苦労がある。長くなればなるほど、完成させるのは大変ですから。ただ、僕は学生時代に長編を作った経験があまりないですし、そういう意味ではプロセス自体を評価に加味するつもりはそんなにないんです」

 映画祭の審査員を引き受ける理由の一つを「映画界への恩返し」と語る白石監督。そんな監督の最新作『BYE BYE LOVE 探偵はBARにいる』が、12月25日に公開される。このほど、本作の主題歌がサカナクションの楽曲「グッドバイ」に決定。これには北海道出身者が多く集う本作ならではの背景があったという。

「プロデューサーの須藤泰司さんが、サカナクションの「グッドバイ」の歌詞がこの映画にピッタリだと思うんだけど、どう?と言ってくれて。小樽出身の山口一郎さんをはじめ、大半のメンバーが北海道出身ということもあって、「ぜひ!お願いしましょう!」と。ご快諾いただけるまでドキドキの日々でしたが、いざ編集で当ててみたら「これはなかなか凄いエンディングになったね」となりました。大泉さんと山口さんが、いつも楽しいやり取りをされているのも広く知られていますし、きっとファンの方も喜んでくれると思います」

 実は白石監督も、仕事場でサカナクションの曲をBGMにするほどの大ファン。主題歌決定後には、クリエイター同士のこんな交流があったという。

「ダビングのときに、全員ではないですけどサカナクションのメンバーの皆さんが東映のダビングルームまで来てくれたんです。エンドロールの音を一緒に聴いて、意見交換しながら少し直したりして。わざわざダビングルームまで足を運んでくれるアーティストって、普通はなかなかいませんからね。音楽は基本的に2MIX(ツーミックス)で作りますが、映画用に書き下ろす場合は、劇場の5.1ch環境でどう聴かせるかをアーティスト側が考えることもあるんです。今回は既存の曲だったこともあり、こちらで調整したのですが、直接確認したかったのだと思います。でも、それだけサカナクションにとっても大切な曲なんだと強く感じました。ツアーの準備で忙しいにも関わらず、本当にありがたいですし、僕も大興奮でした」

生きている北海道を
アーカイブとして残す。

 原作、キャスト、スタッフ、主題歌、舞台と、北海道づくしの本作だが、旭川出身の監督自身は「そこまで郷土愛は強くはないんですが、改めて北海道を感じて、考えるきっかけになりました」と笑う。同時に、映画を通してその土地の“今”を記録することには、明確な意義を感じているという。

「今回、札幌市街はもちろん、エスコンフィールドHOKKAIDOや、赤平市の炭鉱跡(旧住友赤平炭鉱)などで撮影しています。意識して北海道らしさを出そうとしたわけではないですが、“生きている北海道”をアーカイブとして残すことも映画の持つ重要な役割だと思っています。僕たちも昔の映画を観て、当時の街並みはこうだったんだと学びますからね」

 そして、本作を語る上で欠かせないのが、大泉洋の存在だ。第3作から実に9年のときを経て、大泉演じる探偵は新たなフェーズへと突入している。

「先日、初号試写が行われたんですが、反響としては「少し大人になって、今までとは違う探偵になっている」という声や、「大泉さんが今までで一番カッコよかった」という声が多くて安心しました。大泉さんはコミカルなこともシリアスなことも、何でもできる方です。4作目ということでキャラクターも出来上がっていますし、セリフ一つ一つを僕ら以上に吟味してくれました。50代になってよりカッコよくなり、同時に少し寂しさのようなものも漂うようになったのが良かったですね。アクションは「体が動かないから無理」とおっしゃっていましたが、まったくそんなことない。少なくとも還暦までは楽勝で動けるだろうというアクションを見せてくれています(笑)」

 さらに監督は、クリエイターとしての大泉洋にも、大きな期待を寄せている。

「大泉さんはクリエイターの資質がめちゃくちゃある方なので、あるとき、監督とかどうですか?って何気なく聞いたんです。「いやあ、できるかなあ」なんて笑いながら言ってましたけど、まんざらではないように感じました。僕はぜひ見てみたい。大泉さん自身が内包している世界観で、それが例えば『探偵』だったとしたら絶対に面白いと思うし、作り手としての才能もあると思います」

 怒涛のスケジュールで作品を撮り続けた2026年。監督にとって、今年はどんな1年だったのだろうか。

「去年の夏からずっと撮影が続いていて、ようやく解放されました。今は人間らしい生活を取り戻している最中ですね(笑)。これまで読めていなかった本を読みあさっているんですけど、最近、『バルザック《人間喜劇》全訳』が出はじめているのを知りました。毎月1冊ずつ刊行されているので、それを買ってちょこちょこ読んだりしてますね」

 忙しい日々の合間を縫ってのインプット。そこからまた、新たなアイデアが湧いてくる。

「再来年に向けて、温めていた企画のプロットを書き終えました。この企画は海外からの出資を募る方向で動いています。あとは、その延長で連続ドラマの企画も思いついてしまって。全部自分で監督するのは疲れるので(笑)、ショーランナー(製作総指揮)のような立場で若い監督に入ってもらいながら動かしてみたいなと。そういう新しいやり方にも、ちょっと挑戦してみたいですね」

白石和彌 しらいしかずや 映画監督。1974年生まれ、北海道出身。2010年に長編映画監督デビュー。近年の監督作品に『孤狼の血LEVEL2』『死刑にいたる病』『仮面ライダーBLACK SUN』『碁盤斬り』Netflixシリーズ「極悪女王」『十一人の賊軍』など。プロデュース映画に『渇水』がある。最新作の『BYE BYE LOVE 探偵はBARにいる』が2026年12月25日に公開予定。

映画『BYE BYE LOVE 探偵はBARにいる』
12月25日(金)から全国ロードショー
東直己の小説「ススキノ探偵」シリーズを実写映画化した『探偵はBARにいる』シリーズの第4弾。探偵(大泉洋)は、25年前に自分の前から姿を消した元恋人の純子(鈴木京香)から依頼を受け、ある人へ手紙を渡すため、雪に閉ざされた北の町・斗古誕へ向かう。同じ頃、相棒の高田(松田龍平)も、女子高校生のアケミ(蒔田彩珠)を家に帰すという依頼を受けて斗古誕に向かっていた。 配給/東映
(C)2026 「BYE BYE LOVE 探偵はBARにいる」製作委員会
映画『BYE BYE LOVE 探偵はBARにいる』公式サイトはこちら
撮影/野呂美帆