参加したウディネ・ファーイースト映画祭のこと。
ポレポレ東中野で開催中の特集上映のこと。
撮影/野呂美帆
参加したウディネ・ファーイースト映画祭のこと。
ポレポレ東中野で開催中の特集上映のこと。
その声は、世界に届く。映画『一月の声に歓びを刻め(英題:Voice)』は、イタリアのウディネで開催されたウディネ・ファーイースト映画祭のコンペティション部門に正式出品された。現地の熱を直に感じた三島監督は、改めてこう振り返る。
「1,200人の満席の会場に入った瞬間、拍手で迎えていただいて、事前にイタリア語と英語と日本語による挨拶を考えていたんですが、感動のあまり言葉が飛んでしまって。私は最高に幸せだということを伝えたくて、何度も“Felice(幸せ)”と言いながら、涙ぐんでいました」
映画を観た人たちが、
さまざまな感想を
伝えてくれた。
上映後のロビーフロアでは、映画を観終えたばかりの観客たちが三島監督にサインや写真撮影を求めるため、長い列を作った。
「前田敦子さんの演技が日本映画では珍しくからっとしているのに、心の傷みが炙り出されていくプロセスが素晴らしかった。カルーセル麻紀さんの凄みと美しさと孤独が衝撃的! 予備知識なしに観たがラストには希望に包まれて心が震えている。水の音は癒しの音として使われることが多いが、この映画では心のざわめきを表現しており、音の演出効果がとても高かった。映像が美しく記憶に強く残る、といった感想をみなさん興奮して伝えてくださいました。哀川翔さんに関しては、三池崇史監督や黒沢清監督による出演作品がヨーロッパでも観られていて、広く知られているんですけど、この映画では、牛飼いを営む父親の心のさざ波を表現していて、暴力性をも孕んだ“全く新しい哀川翔の誕生”とおっしゃっている方もいました」
映画祭の会期中、三島監督はテレビや雑誌、ウェブメディアなど、多くの媒体から取材を受けた。キャスターや記者が繰り出す質問は、作品の本質に迫るものばかりだったという。
「一つとして同じ質問はありませんでした。時間がない中で、どうしても聞きたいことを一つだけ聞いてくださったのですが、興味深い質問がたくさんありました」
声が成長を表現しているし、
声によって人々が成長していけると
捉えることもできる。
「ある記者の方が『Voice(声)に焦点を当てたところが素晴らしかった。なぜなら、この映画では章ごとに登場人物たちの声が成長している。声で人々の成長を描いていると私は受け取りましたが、どうお考えですか?』という質問をされたんですね。洞爺湖のマキは父親の声として言いたかった言葉を最後に言えるようになった。八丈島の海は罪を背負っている人の子を宿す罪や、母の延命治療を止めた罪を背負っていたけど「人間なんてみんな罪人だ!」と叫ぶことで、自分も周りも赦すことができた。大阪・堂島のれいこは、これまで6歳のときの出来事を誰にも話せなかったけど、聞いてくれる人が現れ、一緒に弔うことで未来に向けて歌うことができた。そういう意味では声が成長を表現しているとも言えるし、声によって人々が成長していけると捉えることもできる。まさにご指摘の通りですと、お答えしました」
映画祭では、こんな学びもあった。
「私は映画を上映していただける監督として、特に何も用意せずに、ウディネを訪れたんですが、映画監督の中には、コンペに呼ばれても呼ばれていなくても、自分の撮りたい映画の企画を持って来ている方もいて。映画祭にはマーケットもありますし、そこで企画をプレゼンしたり、人を紹介してもらったりといった活動をされているんです。アジアだけではなく、ヨーロッパからも大勢の監督やプロデューサーがいらっしゃっていました。
英文の企画書を用意していて、いつでもアピールできるようにされているんですね。映画祭の主役はむしろ企画のアピールなのかもしれないと思いました。渡せるものを用意する。映画を成立させるには、いろんな方法があると、今回遅まきながら改めてとても勉強になりました」
そして、7月20日から8月2日にかけて、東中野の映画館・ポレポレ東中野では『一月の声に歓びを刻め』の公開を記念し、「三島有紀子監督特集上映」が開催される。特集は、本作と三島監督の旧作(短編含む8本)を合わせて1日2本ずつ日替わりで上映するというもので、開催に併せて記念のブックレットも販売される。
「これまで作品ごとに新しい世界に挑戦するように意識して作ってきました。ただ、長編映画の10作目になる『一月の声に歓びを刻め』と旧作を合わせて観ていただくことで、通底するものが鮮明になったり、また違う見え方が生まれたり、三島の描く世界の解像度が高まるのではないか、とポレポレ東中野さんが企画してくださったんですね。『しあわせのパン』のりえには何があったのか。『Red』の塔子はどこへ向かおうとしているのか。そして、この特集上映に今までご一緒に映画を作ってくださったみなさまから、たくさんお言葉をいただきました。わたしの宝物です。今までの自分がやれたこと、やれなかったこと、しっかり整理して次に進みたいと思いますね。心から感謝です。毎日劇場にいます。ぜひ足を運んでください」
三島有紀子 みしまゆきこ 映画監督。大阪市出身。2017年の『幼な子われらに生まれ』で、第41回モントリオール世界映画祭審査員特別賞、第42回報知映画賞監督賞、第41回山路ふみ子賞作品賞など多数受賞。その他の主な監督作品に『しあわせのパン』『繕い裁つ人』『少女』『Red』、短編映画『よろこびのうた Ode to Joy』(U-NEXTで配信中)など。一昨年はイタリアのヴェネツィア、ローマ、ナポリ各地で「YUKIKO MISHIMAの世界」が開催された。2023年、セミドキュメンタリー映画『東京組曲2020』・短編劇映画『IMPERIAL大阪堂島出入橋』公開。最新作『一月の声に歓びを刻め』が全国順次公開中(予告編はこちらから)。【公式HP】
撮影/野呂美帆