特集
144NOV-DEC 2026.11.06
表現を探る道のりと、
映画づくりの至福。
俳優・中島 歩 × 映画監督・三島有紀子

 作家・千早茜の同名小説を映画化した『男ともだち』が公開された。三島有紀子監督の手掛けた本作は、人生に生きづらさを感じている松岡茉優演じるイラストレーターの神名が、成田凌演じる“男ともだち”のハセオと過ごすかけがえのない3つの夜を通して、自分の目で世界を見るまでの旅の映画である。そんな神名と関係を持つ医師の真司を演じたのが、数々の映像作品で存在感を発揮してきた中島歩だ。以前から中島の出演作を追い、その演技に注目していたという三島監督。本作で念願のタッグが実現した二人に、まずは互いの印象から語ってもらった。

中島 歩(以下、中島) オファーが来たとき、ついに三島さんからお話をいただけるようになったんだなと思いました。現場に入ってからも、三島さんは僕の意見をすごく尊重してくださって。衣装合わせの段階で、僕のほうから「真司はこういう数珠をつけているんじゃないか」みたいな提案をさせてもらったこともありました。

三島有紀子(以下、三島) 中島さんは真司の人物像を積極的に提案してくださって、私も「それ、おもしろいですね」と、そのアイデアに真司の一面が見えたと感じました。

中島 演技に関してもそうですね。僕が現場でふと思いついたことを言うと、三島さんは「いいですね、やってみましょう」と受け入れてくれる。とても理解のある監督だなと思ったし、風通しの良い現場でした。

三島 中島さんとは、以前からご一緒したくて、岨手由貴子監督の『グッド・ストライプス』や濱口竜介監督の『偶然と想像』、横浜聡子監督の『いとみち』など、たくさんの作品を拝見していました。いつも、なんて存在感のある役者さんなんだろうと思っていたんです。何よりも惹かれたのは、中島さんがお持ちの独特のリズム感でした。あ、そこで間を取るんだ、その台詞で切るんだ、というような独自のテンポがある。以前落語をやられていたと知って、なるほど、あのリズム感はそこから生まれているのかと納得しました。このリズム感を持った中島さんのお芝居をいつか撮ってみたいというのが、最初のきっかけでした。あとは声の音域が自分にとても心地よく、オリジナリティを感じました。自分は声に特徴のある方を好んでキャスティングすることが多いんです。それに、過去のインタビュー記事などを読んでいると、中島さんはとても言葉が好きな方ですよね。

中島 実は僕、その言葉から離れようとしているんですよ、最近。

三島 そうなんですね! 言葉を重んじていて、言葉で思考する方だと思っていて。

中島 そうなんですよ。もともと理屈っぽい性格なんですが、今はそこから解き放たれようとしていて。もっと直感的に、「イエーイ」みたいなノリの方に行こうと努めているところです。

三島 なるほど。それは興味深いですね。私自身、監督でありながら少し憑依型なところがあるんです。だからこそ、論理的で言葉の選び方にセンスを感じる中島さんに興味を惹かれたし、ご一緒したいと思っていました。実際に現場に入ってさらに強く感じたのは、中島さんが作品自体、そして映画を作っている人たちを本当に愛しているということです。

中島 あぁ……それはもう、愛していますね。愛してる、間違いなく。

三島 映画を「作っている時間」そのものを愛してくださっている。そういう姿勢を目の当たりにして、本当に美しい人だなと思いました。「私はこの人を美しいと言いたい」という気持ちになれたのは、現場でご一緒してからのさらなる大きな発見でした。

 映画への愛はもちろんのこと、俳優・中島歩の「身体性」についても、監督は独特の表現を用いて語り始めた。

三島 中島さんのお芝居で面白いのは、閉じたお芝居ではないんですね。「体ごと開いている」とでも言うんでしょうか。心を開くという意味ではなく、体自体が開いている。体ごと開いているというのは、言語化が難しいんですけど、日常的な感覚で言うと、例えば興味のあるものにただ素直に吸い寄せられていく。撮影初日、私の目を見て近づいてこられたので、ああ、お芝居の話をしようとされているんだな、と思って迎えたら、じっと目を見て「その眼鏡、いいですね」と(笑)。そのとき文豪みたいな丸眼鏡をかけていたんです。もちろん、コミュニケーションを取りやすくしようとされたのかもしれませんが、それが体が素直に反応したまま動く、開いている状態だと思うんですよね。社会生活の中では、本当は興味があっても、近づくのはやめようとか、今はこの話やめようとか、本能的な体の反応を理性が抑え込んでしまっていることが多いと思うんです。でも中島さんは、その体の感覚を抑え込まず、松岡さんのお芝居に対して、体が自然に反応するままに動ける方でした。心や脳で考える前に、体が反応している。その繊細で自然な表現ができることを、「体が開いている」と表現しました。

中島 あら~、うれしいことをたくさん言ってくださって、ありがとうございます(笑)。

三島 中島さん自身は真司を演じてみて、どんな感覚でしたか? 単純に聞いてみたくて(笑)。

中島 そうですね、今の話にも通じますが、やっぱり松岡さんが演じる神名の芝居があって、真司というキャラクターが決まっていったという感覚があります。現場での神名は常にカリカリしていて、ピリピリとした空気を纏っていました。だから真司としては、常に彼女のご機嫌をうかがっている状態になる。彼女に笑ってもらえるように必死に頑張った、という感じです。

三島 なるほど、中島さんはそう感じていらっしゃったんですね(笑)。私は少し違う視点も持っていました。もちろん神名という女性は、映画の冒頭から満たされていない状態からスタートします。何が足りないのか自分でもわかっていないから、手当たり次第にさまざまなものを闇雲に手に入れようとしている。真司との関係もその一つ。ただ、真司という人は、いろんな世界を見たいという好奇心にあふれた人なので、神名という独特な感性を持つ女性が与えてくれる世界を結構好きだったんだろうなと思いながら撮っていました。中島さんご自身も、興味があることに対して、てらいなく飛び込んでいく方だというイメージがあったんです。気になる演劇人の方に会いに行ったり、ワークショップに足を運んだり。そういう中島さんの探求心が真司というキャラクターにも見事に反映されていたと思います。それに、神名と真司のシーンって、会話の内容も含めてシビアなものが多いじゃないですか。

中島 そうですね、かなりシビアです。

三島 松岡さんも「満たされない感じ」を前面に出して演じていたので、一歩間違えると、ただカッコつけたようなシーンになってしまう危険性がありました。私はそういうカッコつきすぎたシーンが、見ていて少し気恥ずかしくなってしまうところがあるんです。でも中島さんは、随所に絶妙なユーモアを交えて演じてくださった。あれは中島さんでなければ生まれなかった真司の魅力だと確信しています。

中島 いやだって、あれだけピリピリしていたら耐えられないですよ。なんとか笑ってもらわないと、あの空間にいられないですから(笑)。

 映画の中盤、神名とハセオ、そして真司にとって非常に重要なシーンがある。台本にして約8ページにも及ぶ長尺のシーンの撮影は、映画づくりを愛する二人にとって忘れられない至福の時間となった。

中島 あそこは大変でしたね。

三島 私は現場でお芝居を作っていく過程をとても楽しむタイプだと思います。本当に繊細な感情のやり取りが大事なシーンでしたから、あのときも1時間くらいかけて段取りをして、「こういうパターンもやってみようか」「ああいうパターンはどうだろう」と、いろいろ試行錯誤しました。そんな私のやり方に、中島さんは一緒になって「やってみましょう!」と楽しんでくださったんです。

中島 そりゃやりますよ。映画を作っていく過程が大好きですから。

三島 成田さんも一緒になって考えてくださって、松岡さんが「そうならばこうする」とお芝居を展開され、それが中島さんのお芝居を微細に変化させていきました。いろいろ試した中で、「やっぱりこの動きがいいかな」と言ったとき、中島さんが私のすぐ隣に立って、真剣な顔で「その方がハセオはカッコよかったですね」と言ってくださったんです。まるで演出助手のように(笑)。今回もそうですが、一緒になってみんなでお芝居を作れていると実感できる時間が、私にとって映画づくりの至福の時間ですね。

中島 こうでもない、ああでもないって広げていって、最終的に「これだ!」と見つける過程が好きなんです。三島さんも同じようにその過程を愛している方だから、同じ熱量を持った方と一緒に作れたのは、僕にとっても幸せなことでした。そこまで大げさなものではないですけど、僕自身はあまり監督と俳優という垣根を意識しないようにはしています。もちろん、監督のスタイルにもよりますよ。監督の言う通りに完璧に動いた方がいい場合もありますし、それはそれで楽しい挑戦だと思います。でも今回は、三島さんとスタンスが近かったからこそ、一緒に探りながら作っていくというアプローチになったんだと思います。

三島 おかげさまでとても良いシーンになりました。

中島 あと、あのシーンに立ち会って、僕もハセオをやりたかったなって(笑)。

三島 おっしゃってましたもんね、成田さんがかっこいいって(笑)。

中島 あのシーンがかっこよすぎて、「ずるーい」みたいな、「出た出た、成田」みたいな(笑)。僕はこういう役を演じてこなかったなっていう、ハセオというよりも成田くんへの嫉妬みたいなものはありましたね。

 丁寧に積み上げられた芝居の数々。では、完成した映画本編を見たとき、どのような感想を抱いたのだろうか。

中島 僕、映画が完成して初めて本編を観たとき、「なんだこりゃ」って思ったんですよ(笑)。もっと素敵に見えるのかなと想像していたら、神名とハセオの二人の関係性が、全然ロマンチックにさせない方向に転がっていく。神名のあの感じが、決して甘いムードにさせない。でも、そのロマンチックにさせない生々しさこそが、この映画の最大の魅力なんだろうなと感じて、すごく面白かったです。

三島 そう言っていただけてうれしいです。私自身、この映画をいわゆるラブストーリーだと思って撮っていなかったんです。

中島 まぁそうですよね。

三島 神名は今、自分がなぜ満たされていないのかが分かっていない。でもハセオからの問いかけをきっかけに、初めて自分自身と世界を見つめ直すことになる。神名に見えている世界の向きが少しだけ変わるまでの物語なのだなと。

中島 あと、池畑慎之介さんがめちゃくちゃ良かったですね。池畑さんの演じる美術館のキュレーターの楢崎は、あきらかに神名よりも素直に生きている。この人の説得力がすごかったです。そこに存在しているだけで圧倒的でしたね。

三島 池畑さんにどうしてもあの役をやってもらいたかったんです。確かな審美眼を持って自分の目で見て自分を信じている人で、圧倒的な凄みがありながら、相手を否定しない優しさを持っている人。池畑さんのお芝居には、まさにそれがありました。

中島 いやぁ、本当に良かったです(しみじみと)。

 最後に、中島自身の俳優としてのアプローチについても話してもらった。三島監督は中島の「声」や「独特のリズム」を高く評価しているが、自身はどのようにコントロールしているのだろうか。

中島 作品によっては意識してコントロールするようにしていますね。以前、オーディオにハマった時期があって、そのときは自分の声の音域をすごく意識しました。低音の響きは人の感じ方を変えますから。ただ、映画館ならドシッと響く低音も、テレビのスピーカーでは再現しきれず、音がボヤけてしまうこともある。本来はメディアによって使い分けた方がいいのかもしれませんが、僕はそんな器用なことはできないから(笑)。今回の『男ともだち』に関しては、頭であれこれ考えるよりも、神名と一緒にいて、自分がどういう場所で何を言うのか、素直に反応していくことだけを心掛けました。

三島 私は今回、松岡さんと毎朝30分から1時間ほど、その日の芝居について話し合って、中島さんや成田さんとも個別に話をしていました。そこで仕込んだものを現場でぶつけ合ったときに、どんな化学反応が生まれるかを見たかったんです。中島さんが松岡さんの演じる神名に対して、どう反応してくれるのか。現場で一緒に答えを見つけていく過程が本当に楽しかったです。ありがとうございます。

中島 僕もすごく楽しかったです。ありがとうございました。

中島 歩 なかじま あゆむ 俳優。1988年生まれ、宮城県出身。『グッド・ストライプス』で映画初主演。『サタデー・フィクション』では初の海外作品出演を果たす。2022年には『偶然と想像』、『いとみち』で第35回高崎映画祭 最優秀助演俳優賞を受賞。その他の主な映画出演作に『四月になれば彼女は』、『ナミビアの砂漠』、『敵』、『ルノワール』などがある。ドラマでは『不適切にもほどがある!』、NHK連続テレビ小説『あんぱん』、Netflixシリーズ『地獄に堕ちるわよ』、NHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』、『Tシャツが乾くまで』などに出演。

三島有紀子 みしまゆきこ 映画監督。大阪市出身。2017年の『幼な子われらに生まれ』で、第41回モントリオール世界映画祭審査員特別賞、第42回報知映画賞監督賞、第41回山路ふみ子賞作品賞など多数受賞。その他の主な監督作品に『しあわせのパン』『繕い裁つ人』『少女』『Red』『一月の声に歓びを刻め』、短編映画『よろこびのうた Ode to Joy』『IMPERIAL大阪堂島出入橋』、セミドキュメンタリー映画『東京組曲2020』など。最新監督作『男ともだち』が公開中。
映画『男ともだち』公開中
30歳目前、人生に行き詰まるイラストレーター・神名(松岡茉優)と“男ともだち”・ハセオ(成田凌)の曖昧で確かな関係性を綴る千早茜の同名小説を三島有紀子監督が映像化。京都、富山、広島――あの頃も今も変わらない温度で接してくれるハセオと過ごす“3つの夜”が、神名の人生を大きく変えていく。
配給/ハピネットファントム・スタジオ
(C)2026『男ともだち』製作委員会
映画『男ともだち』公式サイトはこちら
撮影/森田直樹(アフロスポーツ)
スタイリング(中島)/上野健太郎 ヘアメイク(中島)/小林雄美