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三島有紀子

三島有紀子

三島有紀子

撮影/野呂美帆
スタイリング/谷崎 彩
衣装協力/シューズ¥23,100、BONDI 7(ボンダイ 7)HOKA ONE ONE(ホカ オネオネ)

イタリアで感じたこと。

映画を見てもらうということ。

 5月4日から5月7日にかけて、イタリアのベネチアで「第12回カフォスカリ短編映画祭」が開催された。ボランティアの学生たちによって運営されているこの映画祭では、特集『三島有紀子の世界(IL MONDO DI YUKIKO MISHIMA)』が組まれており、三島監督は各地でのトークイベントやマスタークラスに参加するため、4月末から5月末までの1ヵ月ほどイタリアに滞在した。

「映画を勉強している学生や、映画業界、もしくはそこで働きたい人たちが集まる映画祭で、映画への熱量もとても高かったです。映画を作る喜びや映画を上映していただけることの幸せ、映画を観ることの豊かさ…自分にとって原点みたいなものに触れたように思いました。そして、イタリアはウクライナとも地続きですし、あらためて、映画を観られること、作れること、観ていただけることは当たり前ではないのかもしれないと感じ、これらが永遠に続くことを心から願わずにはいられませんでした」

映画は人間を理解するための

表現の一つ、

という考え方がある。

三島有紀子

 5月3日には前夜祭が行われ、まずは『Red』が上映された。

「イタリアはカトリック教会がそこここにたくさんある国です。それが理由かはわかりませんが、はっきりとした規律がベースとして存在している印象です。だからこそ逆に、“規律は破られるものでもある”という自由さも浸透しているように感じました。『Red』は女性の生き方を描いた映画ですが、主人公の不倫に対しても、“こういう生き方はダメだ”という意見と同時に、“人間ってそういうこともあるよね”という、映画が人間を理解していく一つの表現という考え方がベースにあるなあと。それがとても興味深かったです」

 満席の会場では、どちらかといえば女性のほうが熱狂的だったという。

「イタリアで母親はマンマ(mamma)と呼ばれ、家事も仕事もすべてをパワフルにこなすスーパーウーマンが多いイメージでした。 ある女性が着ていたTシャツのデザインも面白くて、『Wife Mother Boss(妻であり母でありボスである)』や『Dreamer Lover Fighter(夢見る人であり愛する人であり戦う人である)』と書かれていたりして、くすりと唇が緩みました。でも、女性であるがゆえに出世できなかったり、家事が大きな負担になっていたりする現状もまだまだあるようです。その中で、迷いながらも一生懸命自分の生き方を探っていく『Red』の主人公に対しては“共鳴する”という受け止め方をしてくれる方が多かったです」

考え方や生き方の

違いを話せる雰囲気が

守られていると感じた。

三島有紀子

「イタリアでは映画を自由に捉える印象で、他にも、“女性だからといって必ずしも母性があるわけではない”、“母性があっても、それを超えてしまう愛もあるよね”など、いろんな考え方や生き方の違いを自由に話せる雰囲気が守られていると感じる事が多かったです」

 期間中はカフォスカリ大学でマスタークラスが開かれ、三島監督の他に、『ウォレスとグルミット』のピーター・ロード監督と、『トスカーナの贋作』の撮影監督を務めたルカ・ビガッツィさんが登壇した。

「どのお話も印象的でしたが、ビガッツィさんの話が特に印象的で。“監督や俳優たちといかにつながれるか、はとても大切だ”と語られました。そして、俳優は撮影前に役への準備を1人でしなければいけないし、大きなプレッシャーと不安の中で現場にやってくる。だから、時間の90%を役者の芝居を作るために使いたいと。だから自分たちは10%くらいでできるように、現場までに準備を丁寧にするとおっしゃっていて頭が下がりました。 そしてとにかく、機材が何であれ、どう工夫すればできるか考える事が重要だと。白い壁を使えば、一つのライトは二つになる。あとはiPhoneででもいますぐ撮り始める事だと語られていました。日本でもこんな風に、撮影部やいろんな部のスタッフのインタビューがもっと増えればよいのに、と心底思いましたね。私もですし、誰もがお聞きしたいと思いますから」

 三島監督のクラスでは『よろこびのうた Ode to Joy』などを題材に講義を行った。

「みなさん、監督は何を意図して撮ったのかをものすごい集中力で探ってくださいます。多くの観客の皆様が『よろこびのうた』に関して“この映画はラブストーリーだ”という分析をしてくれていました。私も富司純子さんと藤原季節くんに“これはラブストーリーです”と説明していたので、ああ、届いたんだなと思い、とてもうれしかったです。映画のラストカットの続きをいろいろ想像してくれ、抱きしめにいったのか、殺しにいったのかといろいろ議論してくださって」

三島有紀子

「『よろこびのうた』は、犯罪という同じ恐怖を体験することにより、2人が愛に向かっていく希望の物語だったんですが、“三島の他の作品と比べても強烈に希望を感じる”と言ってくださいました。アイスを2人で食べるシーンが象徴的だったと反応してくれる方も多かったです」

 滞在中、女性の新聞記者からインタビューを受けたことも。

「“私は『Red』に恋した”と特集記事を書いてくださいました。なぜその場所から人物を撮ったのか?や母親と父親の比重、ジェンダーギャップなどについての質問があり、われわれの映画をきっかけに[母性と父性][自己愛と利己愛][芸術の自由さ]について語り合えた至福の時間でした」

三島有紀子

三島有紀子 みしまゆきこ 映画監督。大阪市出身。2017年の『幼な子われらに生まれ』で、第41回モントリオール世界映画祭審査員特別賞、第42回報知映画賞監督賞、第41回山路ふみ子賞作品賞など多数受賞。その他の主な監督作品に『しあわせのパン』『繕い裁つ人』『少女』『Red』、短編映画『よろこびのうた Ode to Joy』(U-NEXTで配信中⇒ https://video.unext.jp/title/SID0064256)『IMPERIAL大阪堂島出入橋』(「MIRRORLIAR FILMS Season2」の一篇としてDVD発売中!)などがある。
【公式HP】https://www.yukikomishima.com

撮影/野呂美帆
スタイリング/谷崎 彩
衣装協力/シューズ¥23,100、BONDI 7(ボンダイ 7)HOKA ONE ONE(ホカ オネオネ)