映画祭の審査員のこと、新連載のエッセイのこと。
始動した短編映画プロジェクトのこと。
撮影/伊東隆輔
スタイリング/谷崎 彩
撮影協力/てぬぐいカフェ 一花屋、力餅家(共に鎌倉市坂ノ下)
映画祭の審査員のこと、新連載のエッセイのこと。
始動した短編映画プロジェクトのこと。
10月初旬にSKIPシティ国際Dシネマ映画祭が開催され、国際コンペティション部門の最優秀作品賞に『願い』、監督賞と審査員特別賞に『ザ・ペンシル』が選ばれた。審査員を務めた三島監督は、こう振り返る。
「今回選ばれたのは、両方とも女性の監督の作品でしたが、審査員は誰も女性の監督の作品であると意識して観てはいませんでした。性別も年齢も関係なく、力強い作品が生まれてきていると改めて実感していますね。 さまざまな人達が映画を通して“きちんと今の世の中を見つめていくんだ”と世界と対峙し、そこから生まれた“叫び”のような作品を創り出していました。私自身がこの時期にそれらの作品に触れられたのは、とても意義深いものでした」
同時期には、自主映画をメインとした下北沢映画祭にも審査員として携わった。
「両映画祭に参加させていただいて、商業であろうと自主映画であろうと、何を見つめて、何を発信していくかが一番大切なことだと感じましたし、好きなものは好きでよいのだ、と。改めてそんな気持ちでより覚悟を持って映画を作っていきたいという気持ちになりました」
エッセイの連載は
初めてなので、
新鮮で面白いです。
コロナ禍においても、新しい作品や人との出会いは途切れなかった。神戸新聞では、三島監督による連載エッセイがスタート。これも人との縁が生んだ出来事だった。
「神戸新聞の記者の方に『Red』の取材をしていただいたことがきっかけで、月2回のエッセイを書くことになりました。月に2回だと、意外とすぐに締め切りがやってくるんですよね(笑)。今まで小説などを書くことはあったんですけど、エッセイの連載は初めてなので、新鮮で面白いです」
あるエッセイでは「有り難う」というタイトルで、これまで人に“迷惑”を掛けた話が綴られている。印象的なのは、10年ほど前に映画祭でインドのムンバイによばれたときのエピソードだ。
「ドビーガードという村全体が洗濯場になっている場所に連れて行ってもらったんですね。そこの村では、みんなが青空の下、ホテルのリネンなどを足で踏みながら洗っていて、圧巻の景色が広がっていました。本当は脱水をする場所やアイロンをかける棟など、いろいろな場所があるんですけど、村長からは『ここしか見せられない』と言われていて、最初は指定された場所だけを見ていたんです」
「その時、一面に干された白いシーツが風に吹かれている間から、一人の少年が走ってきて、その風景があまりに美しくて、見とれてしまったんですね。私は、『これは写真に撮らないと!』と思って少年の前を走ったんです。そうしたら、突然、排水溝に落ちてしまって……。死にそうになったんですけど、村のみんなに引っ張り上げてもらいました。大迷惑ですね(笑)。私の撮りたいという欲求のために大勢の人の手を止めてしまったと思って、平身低頭で謝ったんですね」
新しい希望も
共有できるように
なっていく。
「そうしたら村長が大爆笑して『お前はそんなにその写真が撮りたかったのか?』って。『そこまで撮りたいんだったら、もう全部撮っていい』と言っていただいて、村中を撮らせてもらいました。そして、本当に迷惑をかけてすみませんと謝ったら、村長は『みんな、誰かに迷惑を掛けて生きている。だから、有り難うだけ言えばいい』と言うんですね。それがとても思い出に残っていて、他のエピソードを加えて、1本のエッセイにしました。エッセイは日々の面白かったことや感じたこと、考えていることや知っていることなどを過去や現在のエピソードなどを交えながら“おでん”のように一つに繋げていく作業だと思っているので、その繋げるための“串”をどうしようかと、毎回、楽しみながら書いています」
そして本業である映画監督としても、大きな動きがあった。10月19日にクリエイターの創作活動を応援する目的で、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントによる短編映画プロジェクト「DIVOC-12」が始動。12人の映画監督が参加するこのプロジェクトは、三島監督を含めた3人の監督がそれぞれリーダーとなり、テーマごとに1チーム4作品を制作する。
チームはリーダーの監督と新人監督2名、公募で選ばれた監督1名という構成だ。
「それぞれの監督が10分ほどの短編映画を作るんですが、何より後輩の新しい監督達に撮るチャンスを持ってもらえることが大事かなと参加を決めました。自分も先輩の監督にプロデューサーを紹介していただいたりして今がありますし、撮影所の演出部で勉強させていただいていた時から、演出部にはとても優秀でセンスのいい方がたくさんいることを知っていますから、そんな方に撮っていただきたいと。また、作りたいものを作る自由さ、性別・年齢・国籍関係なく参加できるという考え方にも賛同しました。そして、スタッフも監督も俳優も、自分たちが作品を作ってそのギャラをもらうという形での支援は、非常に健康的なんじゃないかなと思いました」
三島監督のチームはプロジェクトと話し合い、テーマを「共有」に決定した。
「これだけ救いのない状況を世界中が共有することってなかったと思うんです。ただ、このプロジェクトといった救いと思えるようなものも生まれてきていて、そういった新しい希望も共有できるようになっていく。コロナ渦を共有した我々は、何を共有していくのか、またできるのか。そういうことを見つめたかったし、みんなでディスカッションしながら作品を作ることができればと思って、このテーマに決めました。表現の自由度も高いと思いますしね」
完成した映画は、2021年に全国公開される。
三島有紀子 みしまゆきこ 映画監督。大阪市出身。2017年の『幼な子われらに生まれ』で、第41回モントリオール世界映画祭審査員特別賞、第42回報知映画賞監督賞、第41回山路ふみ子賞作品賞を受賞。その他の主な監督作品に『しあわせのパン』『繕い裁つ人』『少女』などがある。最新作『Red』(出演・夏帆/妻夫木聡)のBlu-ray&DVDも発売中。
撮影/伊東隆輔
スタイリング/谷崎 彩
撮影協力/てぬぐいカフェ 一花屋、力餅家(共に鎌倉市坂ノ下)