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139JAN-FEB 2026.1.10
うつしだすこと
映画監督・三島有紀子
三島監督が企画・撮影を手掛けた「JTマナー広告/俳優・原田龍二篇」が、YouTubeのJT公式チャンネルで公開中だ。動画の撮影は2025年11月頭に、千葉県の館山砂丘で行われた。砂と風の世界で生まれた「感じる」ことへの表現と、あるがままに生きる俳優が見せた自由な動き。人と自然が調和する一瞬を追った舞台裏を、三島監督が振り返る。

 三島監督による2024年公開の映画『一月の声に歓びを刻め』で、原田は哀川翔演じる誠の弟分として振る舞いながらも、どこか諦観を抱えながら他人の戦いに付き合う龍という男を好演。最終的に編集でカットされたものの、劇中では戦いに赴く二人が士気を高めながらも葛藤しておにぎりを食べるシーンがあった。

「トンネルの中で飄々とおにぎりをばくばく食べ続けるシーンで、タイミングを測りながらも勢いよく何個も食べてくださる原田さんの姿を見て、作品に対して、とても誠実な方だと感じました。あのときから、また原田さんを撮りたいと思っていたので、このような機会をいただけて嬉しかったです」

 撮影が行われた館山砂丘は、風が通り抜け、太陽の光が斜面をゆっくりと移動していく静かな場所だ。ここが選ばれたのには、理由があった。

「撮影前の打ち合わせで、原田さんが「ロックな生き方」というキーワードをおっしゃっていまして。そこから、「ロックってなんだろう?」と考え始めました。このワードで考えるのは高校生のとき以来ですね(笑)。自分にとってのロックとは何なのか。突き詰めたら、「自由」という言葉にたどり着きました」

 自由に声を上げる。自由に恋をする。自由に生きる。自由をまっとうしようとする姿が、三島監督の思うロックだった。しかし、自由に生きるには、あまりにも不寛容さが広がっている社会だとも感じる。

「不寛容さはどんどん増している気がするんです。多数の常識に合わない人を裁いたり、声の大きさがそのまま正しさとして捉えられたりする。自分の心情といろんなことが世間と乖離する……そんな時代の中で、どうしたらもっと自由に生きられるのだろうと考えました」

感じる力さえあれば、
自然とマナーを守る行動につながる。

 思いを巡らせた末に生まれたのは、今回の動画にもある「歌うように、踊るように、楽しんで、たばこのマナーも守る」というキャッチコピーだった。「マナーを守る」という言葉には、ルールといった不寛容や窮屈といったニュアンスがあるのかもしれない。しかし、三島監督は「そもそもマナーがあって「自由」は守られる。なぜなら他者との約束を守るから自分との約束も守られる。人間はその信頼関係をもとにそれぞれが守られているんだと思うんです。そしたら、その「自由」は「感じる力」から始まるのではないか」と説く。そして、「自分はどんなことが快適だと思っているのか。他者は何が快適で、何が不快だと思うのか。それを感じる力さえあれば、誰しも自然とマナーを守る行動につながるのではないかと思うんです」と考えを明かした。

 その「感じる力」を最大限ひき出すための舞台となったのが、長い年月をかけて、風が砂を運んで積み重ねた「時間そのもの」のような砂丘だった。三島監督は、この場所で「風」「土」「光」を全身で受け止めながら、自然と身体が動き出す状態を撮りたいと考えた。

「自然の中に置かれた人が、心地よいと感じるままに音楽を口ずさんだり、身体を動かしたりする。振付の決められたダンスではないですが、他者から見れば、それは踊りのように見えるかもしれない。人の感じている瞬間に共鳴してもらえたら、自分も感じていたいわけですから、おのずとマナーを守るという結果が生まれるのではないかと思いました」

風と土と光を、
感じる動きにしたい。

 振付を担当したダンサーの平原慎太郎と共有したのも、あらかじめ決められた演出としての振付ではなく、「自然を感じる動き」という方向性だった。

「平原さんにお伝えしたのは「自然すべて、特に風と土と光を感じる動きにしたい」ということでした。太陽の光は当日の天気次第ですが、あの日は見事に晴れてくれました。自然が作る背景に、原田さんの身体がどう反応するか。それを大事にしたかったんです。原田さんはお仕事で「ダンス」は踊ったことがないとおっしゃっていたんですけど、今回必要なのは振付を覚えることではなく、その場にあるものを感じて体を動かすことでした。そうお伝えしたら、原田さんは本当に自由に感じて、自由に動いてくださいました」

 現場で撮影を見ていたスタッフも思わず息をのむほど、その身体は風を受け取るように、伸び、しなり、舞った。

「ファーストテイクでは本当に感じたまま動いてくださっていたんです。でも2テイク目を撮影するとき、俳優として当然ですが「同じ動きをしなければ」という意識が働いてしまったようなんです。その瞬間、動きが段取りのようになり、「感じる」ことが薄れてしまいました。そこで、原田さんに「前と違っていて、いいんです。感じることが一番大事です!」とお伝えしたら、再び自由な身体の動きを取り戻されました。私がNGを出したのは、唯一そこだけです。すぐに切り替えられるのは本当に素敵なことです。身体能力なのか、身体表現の蓄積なのか。普段から舞台や映像で身体を使う仕事をされているからこそ、できることなのだと思います」

 砂をすくい、空にこぼす。そのわずかな所作も、自然と生まれた動きの一つだった。

「砂に触れていただくというのは、前もって平原さんが作ってくださった動きでしたが、すくってサラサラと手のひらからこぼすという動きは、原田さんの感じるままにやっていただいたことです。今回は、原田さんの言葉にヒントをいただくことが少なくありませんでした。たとえば、私は「純粋な意思の表れ」として、両目に白いアイラインを入れたいと思っていたんです。でも、原田さんからは「矛盾」という言葉が出てきました。純粋な意思があるときもあれば、ないときもある。純粋な自分もいるし、そうじゃない自分もいる。その矛盾を表現するために、片方だけに白いアイラインを入れました」

 今回の撮影では、衣装も既製品ではなく、特別なものを用意した。

「アーティストの衣装などを手掛けている宮坂青さんというクリエイターの方にお願いしました。TPOに合わせた自分を良く見せるための服ではなく、もっと自由な、動くその人の内面が出るような服がいいと思ったんです。黒地に赤色のしぶきを飛ばした意匠ですが、赤を「情熱」として入れてくれました。自由を表現する服なので、衣装合わせでは実際に原田さんに着ていただき、動きやすさを確認しました。少しでも動きづらければ、自由にはなれないので」

 撮影は山崎裕。太陽をバックにしたカットは、氏のアイデアだと三島監督は語る。完成した映像は、多くを語らずとも、確実にテーマを伝えている。

「何度も観ていただけますし、面白がっていただける映像になったと思います。特に最後の太陽の光を浴びたときの原田さんの表情に注目していただきたいです。「感じる」ということをそれこそ感覚的に受け取っていただけるのではないでしょうか」

 こうして一つの映像作品を撮り終えた三島監督は、すでに次の作品へと歩みを進めている。現在は、長編映画の撮影に向けた準備中だ。人が何を感じ、どのように世界と関係を結ぶのか。その答えは、やがて別の物語へと受け継がれていく。

三島有紀子 みしまゆきこ 映画監督。大阪市出身。2017年の『幼な子われらに生まれ』で、第41回モントリオール世界映画祭審査員特別賞、第42回報知映画賞監督賞、第41回山路ふみ子賞作品賞など多数受賞。その他の主な監督作品に『しあわせのパン』『繕い裁つ人』『少女』『Red』、短編映画『よろこびのうた Ode to Joy』など。2021年イタリアのヴェネツィア、ローマ、ナポリ各地で「YUKIKO MISHIMAの世界」が開催された。2023年セミドキュメンタリー映画『東京組曲2020』・短編劇映画『IMPERIAL大阪堂島出入橋』公開。最新作『一月の声に歓びを刻め』がイタリアウディネファーイースト映画祭のコンペ部門、アメリカアジアンワールド映画祭アジアンビジョンのコンペ部門に正式招待された他、ロサンジェルスJFFでベストディレクター賞、イタリアトロペア映画祭でベストディレクター賞を受賞。同作は、U-NEXTなどで配信中予告編はこちらから)。また、封入特典のブックレットが付いた『一月の声に歓びを刻め』のDVDが発売中。【三島監督公式HP】

撮影/森田直樹(アフロスポーツ)
Photo by Naoki Morita(AFLO SPORT)