FILT

三島有紀子

三島有紀子

三島有紀子

撮影/伊東隆輔 取材・文/中村千晶
スタイリング/谷崎 彩
衣装協力/シャツ pas de calais 六本木 03-6455-5570、ニットカーディガン・パンツ共にBLESS(Diptrics)03-5464-8736、ブーツ KATIM 03-6303-4622 Instagram@katimshoes/ #katim

昨年のドラマの仕事のこと。

新しい年の始めにやること、思うこと。

 昨年の締めくくりに三島監督は新たな挑戦をした。K-POPアイドルを目指して奮闘する男子高校生6人を描いたGYAO! 配信のドラマ『KBOYS』で総監督を務めたのだ。

「コメディの要素もあり、今までの“三島”と違う面もあるかもしれませんが、根底は同じだと思います。ドラマは映画と違いまとまった時間の中で描くものではなく、1話と1話の間で時間が経ってしまう。監督も1話ごとに違います。やりにくさもありそれが面白さでもある」

 初めての体験もあったという。

「オーディションで主演のメンバーたちを選ばせていただけたんですけど、素材としての個性と魅力で選ぶことができました。彼らのダンスやお芝居が半年でどこまで成長していくのか。異なる個性を持つ6人がどんなグループに成長していくのか。その化学反応を追うドキュメンタリーでもあると思いました」

 彼らにベースのシーンをまずアドリブで演じてもらい、その感触から、キャラクターを固めていった。

密な関係の中で

どんな化学反応が起こるのかを

観察し、盛り込んでいった。

三島有紀子

「それぞれキャラクターが違うので、例えば同じクラスにいても友達にならない同士だったりするわけです。でも目的に向かって一緒にやっていかなきゃいけない。そうなると摩擦も起こってくる。お芝居だけじゃなく『全く知らない世界を知った』『こういうところが合わない』とか。摩擦も含めて密な関係の中でどんな化学反応が起こるのか、それをつぶさに観察して物語に盛り込みました」

 本当にドキュメンタリーのようだ。そして、物語の中でも彼らの成長を嘘なく描こうと決めた。

「実際、素人の若者がダンスや歌を練習して、半年でK-POPアイドルと同じレベルまでいけるのか? 当たり前ですが、いけませんよね。もちろん撮影ではやろうと思えば別のダンサーに踊ってもらうなど“作る”ことはできる。でも、それは“嘘”です。それに、実際10年もの血の滲む努力をしてきているK-POPアイドルたちに失礼ですし。そうではなく半年の成果で彼らがどこまでいき何を選択するのか、彼らが一番輝く“彼らだけの良さ”というものがどこにあるのか、“彼らのスタイル”を、作りながらひたすら考えていきました」

「私と彼らはいい作品を撮るという同じ目的があることしか共通項がない。世代も違うし男の子で理解しにくい部分もある。自分は監督だから当然厳しいですしね。彼らの中で意見の食い違いがあったり、LINE上でもめ事が起こったりする度に『ケンカするなら直接やれ!』と言ったりしました。作品の方向性も含めて、話し合いに時間を割きました。クレバーできちんと言葉にできるメンバーだったので、彼らと正面から向き合いたいと思いました。それに彼らが持っている、それぞれの力や魅力を信じ続けられたのは大きかったと思います」

人生の優先順位を決めるために

会社を辞めたから、

それを明確にしておきたい。

三島有紀子

 2019年もスタートを切った。2017年は『幼な子われらに生まれ』、2018年には『ビブリア古書堂の事件手帖』と、コンスタントに作品を発表し、走り続けてきた。今年はどんな作品と向き合っていくのだろうか。

「まずは今進めている自分の企画があるので、その実現に向けて動いていきます。やっぱり年を重ねてきて『あと何本撮れるのか』と考えますから。その中で今何をやりたいか、何をやるべきか、これは絶対にやらないといけないな、という企画のために多くの時間を割いて動いていきたいんです」

 今の時代や社会情勢を含めて、発信していくべきことを発信していかなければ、と強い口調で言う。

「もちろんありがたいことにオファーをいただけた作品であっても、そうした感触が得られたり、ご一緒に作るプロデューサーの方と見つけていけそうであれば、自分が参加させていただく必然性があると思っています。とにかく映画って、どんな映画も実現するまで何年もかかりますから、本当に大変なんです」

 監督には年の初めに、必ずやることが二つある。作りたい映画の優先順位を10本決めること。そして「自分が死んだとき、誰に連絡してほしいか」のリストを作ること。

「別に暗い話じゃないですよ(笑)。独り身ですからね。どちらもNHKを辞めて、フリーになったときからやっています。人生の優先順位を決めるために会社を辞めたから、それを明確にしておきたいんだと思う」

 人生、何が起こるかわからない。こんなエピソードを話してくれた。

「10年以上前ですけど、日本酒を一升瓶一本飲んでしまい、意識なく家に帰ったことがあるんです。朝起きたら、携帯がなくなっていた。探しても見つからないので、仕方なく交番に行ったら、夜勤明けのお巡りさんが出てきて『あー! あなた昨夜電話ボックスに寝てた人でしょう!』って」

 1月の寒い日、電話ボックスの中で酔って寝ていた監督に、お巡りさんが声をかけてくれたのだ。ちなみに携帯電話は電話ボックスでキンキンに冷えた状態で見つかった。

「それ以来、交番の人とも顔見知りというか。この間も落とし物で交番に立ち寄ったら『あ、三島さん!』と言われて(笑)。ま、それは笑い話で済みますけどね。でも人生は何が起こるかわかりませんから。神戸の震災の時からそんな心持ちでいます」

三島有紀子

「自分に何かあったとき、手間のかからないように」と考えるのは、ある種の「覚悟」なのかも、という。

「三池崇史監督の『十三人の刺客』じゃないですけど『自分の屍を拾ってくれる人って、誰なんだろう』っていつも思うんです。例えば自分がいろんなことを教わった大事な先輩が亡くなって、もし屍を拾う人がいなかったら、そのときは自分が行こうという気持ちがある。自分には、拾ってくれる人はいるだろうか、と問いかけています」

 2019年も覚悟を決めて、走り続ける。

「今年は自分の内面をもう一度、深く見つめ直して、ものを作っていきたいと思っています」

三島有紀子

三島有紀子 みしまゆきこ 大阪市出身  18 歳から自主映画を監督・脚本。大学卒業後 NHK 入局。数々のドキュメンタリーを手掛けたのち、映画を作りたいと独立。最近の代表作に『繕い裁つ人』『幼な子われらに生まれ』など。上梓した小説には『しあわせのパン』(ポプラ社)、『ぶどうのなみだ』(PARCO出版)がある。2017 年に第42回報知映画賞監督賞、2018年はエル ベストディレクター賞を受賞。

撮影/伊東隆輔 取材・文/中村千晶
スタイリング/谷崎 彩
衣装協力/シャツ pas de calais 六本木 03-6455-5570、ニットカーディガン・パンツ共にBLESS(Diptrics)03-5464-8736、ブーツ KATIM 03-6303-4622 Instagram@katimshoes/ #katim