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三島有紀子

三島有紀子

三島有紀子

撮影/野呂美帆
スタイリング/谷崎 彩
衣装/ブルゾン Marmot マーモット(デサントジャパンお客様相談室 0120-46-0310)、ワンピース スタイリスト私物、スニーカー 本人私物

北海道の洞爺湖のこと。

そこで過ごして感じたこと。

 訪れた瞬間、運命を感じずにはいられない場所がある。北海道の洞爺湖は三島監督にとって、そんな場所の一つ。2012年に公開された長編監督デビュー作『しあわせのパン』の舞台にもなっており、ここで休暇を過ごすのが毎年の恒例になっている。

「最初に洞爺湖を訪れたのは、2009年の5月頃だったと思います。北海道を舞台に映画を撮るためにプロデューサーの皆様とロケハンで道内各地を回っていて、最後にたどり着いたのが洞爺湖の町でした。月浦にある坂道をのぼり、洞爺湖を一望して思わず息をのみました。ハッとするほど美しいって、こういうことなんだなと。ここで映画を撮りたいと、思いました」

だんだんと

五感が研ぎ

澄まされていく。

三島有紀子

 映画が紡いだ洞爺湖との縁。湖の中心には中島と呼ばれる4つの島からなる群島が浮かんでいる。三島監督は中島を含めた洞爺湖の全景を望む小高い丘の中腹がお気に入りなのだとか。

「私の中では中島が近すぎないほうが美しいと思うんです。洞爺湖に来ると、いつも朝は散歩して、ここに座って中島をずっと眺めています。ここから見る洞爺湖がとても神秘的で、私は一番好きです」

 今年の休暇も、三島監督は雄大な洞爺湖見渡すこの場所で多くの時間を過ごした。

「座って風に吹かれていると、本当にいろんな自然の音が耳に届きます。遠くの木々の葉っぱが擦れる音や鳥の鳴き声を聞いていると、だんだん五感が研ぎ澄まされていくのがわかるんです」

 思い出すのは、とてもシンプルなこと。

「東京で暮らしていると、人との関係性だったり、仕事にまつわる雑事だったり、いろいろなものが自分に張り付いていく感じがします。それらはもちろん大事なもので、普段は求めていたりもするんですが、忙しさに追い立てられ、頭を回転させながら生きていると、疲れてしまうこともある。そんなときに洞爺湖を訪れると、張り付いていたものがどんどん剥がれていき、自分という一つの生命体に戻れた感覚になります」

場所が、

映画の強度を

高めてくれる。

三島有紀子

「自分は何が本当に好きなのか、何を大切にしたいのか。そして、この一瞬一瞬をどういうふうに過ごしたいのか。体で体感しながらきちんと考えられる場所が、私にとっては洞爺湖なんです」

 第二の故郷と呼ぶほど惚れ込んだ洞爺湖の町。2021年、三島監督は「とうや湖観光大使」に委嘱される。前年の2020年には、三島監督が上梓した『しあわせのパン』の小説を題材に演出した朗読劇『カラマツのように君を愛す』が好評を博していた。

「ずっと洞爺湖を好きでいたから選んでいただけたのかなと、とても嬉しかったです。役場で行われた委嘱状の交付式にも出席させていただきました。『しあわせのパン』は、最初に洞爺湖のみなさまに観ていただきたくて先行上映をしたんですね。場所は洞爺湖文化センターだったんですが、1300席では足らず、立ち見の方もいて1500人ほどの町民のみなさまが観に来てくださったんです。町の方たちの協力なくして映画は完成しませんでしたし、撮影しているときも洞爺湖という場所と町のみなさまにたくさんの力をいただきました」

 場所は映画づくりの根幹をなす部分でもある。

「同じ台詞でも発する人によって全く違うように、内容が同じでも場所によって全く違う映画になります。洞爺湖に来てもらえばわかっていただけるように思うんです。原田知世さんの演じてくださったりえさんが東京から移り住んで、ここでカフェを開いた理由や、そのときの気持ちが。映画は観てくださる方に感じてもらうことが一番大事で、場所が説得力を持たせることも多い。私は映画の強度を高めてくれるという言い方をよくしますけど、洞爺湖はまさにそういう場所でした」

 三島監督が洞爺湖を訪れるのは、初夏から夏にかけての季節か冬が多いという。

「夏はカラッとしていて、とても過ごしやすいですね。訪れるたびに、できれば3ヵ月くらい滞在して脚本を書きたいといつも思うんです」

三島有紀子

 そして、冬はまた別の顔を見せる。

「冬はふんわりした雪がこんもりと積もって、湖の碧と白い雪の世界が広がります。空気を吸い込むと、しんとした冷たい空気が体に入ってきて、全てが清められ澄んだ心持ちになっていくのを感じます。映画でやっていたように、積もった雪の上に後ろから倒れ込むと雪に包まれた感じで気持ちいいですし、そりですべるのも楽しいです。春夏秋冬、楽しめる素敵な場所なので、ぜひ足を運んでみてください」

三島有紀子

三島有紀子 みしまゆきこ 映画監督。大阪市出身。2017年の『幼な子われらに生まれ』で、第41回モントリオール世界映画祭審査員特別賞、第42回報知映画賞監督賞、第41回山路ふみ子賞作品賞など多数受賞。その他の主な監督作品に『しあわせのパン』『繕い裁つ人』『少女』『Red』、短編映画『よろこびのうた Ode to Joy』(U-NEXTで配信中⇒ https://video.unext.jp/title/SID0064256)『IMPERIAL大阪堂島出入橋』(「MIRRORLIAR FILMS Season2」の一篇としてDVD発売中!)などがある。
【公式HP】https://www.yukikomishima.com

撮影/野呂美帆
スタイリング/谷崎 彩
衣装/ブルゾン Marmot マーモット(デサントジャパンお客様相談室 0120-46-0310)、ワンピース スタイリスト私物、スニーカー 本人私物