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136AUG-SEP 2025.7.20
うつしだすこと
映画監督・三島有紀子
初期の代表作である『しあわせのパン』から、『繕い裁つ人』や『幼な子われらに生まれ』、そして、最新作の『一月の声に歓びを刻め』まで、人間の機微を繊細に描き出してきた映画監督の三島有紀子。表現者として、一人の人間として、今は何を思い、次は何をスクリーンに映し出そうとしているのか。その映像世界を内なる言葉で紡いでいく。
映画監督・三島有紀子の映像作品や言葉から、
「うつしだす世界」を紐解いていく。

 7月1日に「JTマナー広告/私はマナー人 三池崇史編」が、YouTubeのJT公式チャンネルで公開された。三島監督が企画・撮影を手掛けたこの動画は、日本映画界の誇る鬼才・三池崇史が撮影所の一角で弁当を食べるという内容だ。撮影の意図を聞く前に、三島監督は三池作品との出会いを教えてくれた。

「20代のときに映画館で観た『極道戦国志 不動』という映画が初めて触れた三池作品でした。生首のドアップ。その生首が蹴られてサッカーの試合が始まるシーンがある。ある種の社会に対する反骨精神のようなものが描かれていました。グロさの毒性の持つ訴求力には抗えないという映画体験をさせてくれた作品です。この映画で三池崇史という名前を知り、その後も三池作品を拝見してきました」

現場をもっと知らないといけないし、
他の監督のやり方をもっと見てみたい。

 当時、NHKでドキュメンタリー番組の制作に携わっていた三島監督は、時代の先を行くゲストが出演するトーク番組『トップランナー』を担当。同番組でも、三池作品と関わりのあるゲストが登場している。

「千原兄弟をゲストに呼ばせていただいた回があるのですが、お二人が『岸和田少年愚連隊 血煙り純情篇』に出演されていたこともあり、番組では私の大好きなこの映画についても、たくさん話していただきました。映画は1997年に公開された作品で、カット割りも含め、日本映画の王道の演出を踏まえた上で崩すというテクニカルなことをされていると感じました」

 待ち望んでいた三池監督との対面は、映画監督としてデビューしてからだったという。

「知り合いだったキャスティングディレクターの杉野剛さんが、三池さんの主催するワークショップに講師として参加されるという話をお聞きして、私にしては珍しく物怖じせず、「参加させてもらえませんか!」とお願いしました」

 三島監督の長編3作目となる『ぶどうのなみだ』が公開される2014年のことだった。

「役者が対象のワークショップなので、杉野さんには「三島さん、役者じゃないじゃないですか」と言われたんですが、受付でも何でもお手伝いしますし、演出部の皆さんがアシスタントをされるでしょうから、その演出部の方のアシスタントでもいいので、とお伝えしました」

 映画づくりを学びたいという気持ちが原動力だった。

「私はNHKでずっとドキュメンタリーを撮っていたので、他の映画監督の下に付いていた時代が本当に短かったんです。当時は、映画監督としてスタートしたばかりでしたが、自分には勉強が足りていないという思いがありました。現場のことをもっと知らないといけないし、他の監督のやり方をもっと見てみたい。とにかく、三池さんがどういうふうに演出されて、どんなお話をされるのか、生で拝見したいという思いで、参加を熱望しました」

映画監督として
自由になれた気がした。

 晴れてワークショップへの参加が叶った三島監督だが、思わぬ形で対面の瞬間がやってくる。

「ワークショップは、三池さんと関係の深い講師の方々によるアクションや発声の授業などがあって、最後に三池さんによるレクチャーがありました。発声の授業では、呼吸筋を鍛える訓練用のトレーニングツールを役者の皆さんが使っていたんですが、私は役者ではないので、その練習に参加していいものなのだろうかと様子を伺っていたんです。そうしたら、三池さんがトレーニングツールを持ってきてくださって、「やったら?」と。それが初めてお話させていただいた瞬間でした。あと、私が師事したのは猪崎宣昭監督なのですが、名匠として知られる恩地日出夫監督の『四万十川』で、猪崎さんはプロデューサーとして、三池さんはチーフ助監督として、ご一緒されているんです。そうしたこともあり、三池さんに「猪崎さんにいろいろと教えてもらっています」とお伝えしたら、「優しい師匠に付いて良かったね」とおっしゃっていただけました。また、仕事はできるだけ受けた方がいいという言葉も印象的でした。自分にその仕事が来るということは、誰かが自分に撮らせようと思っているからだから、その流れには乗った方がいい。と」

 ワークショップでは、三池監督による映画の作り方も目の当たりにする。

「そのときは、まず演出部がある程度ベーシックな演出を付けて、三池さんにバトンタッチするやり方をとっていました。三池さんはそこからベーシックな形を崩すという作業をされているように感じました。“乱調”ですね。そこにオリジナリティが宿っていました。私が『岸和田少年愚連隊』で、王道の演出を踏まえた上で崩していったように感じたのは、間違っていなかったのかもしれないと、勉強になりました。自分としては最初に役者さんがどうしたいかを確認するようにしているんです。もちろん、撮影に入るまでに私の方でもベーシックなパターンを考えるのですが、初めから決めつけずに、まずはその役者さんから何が生まれるのかを見てから、相手役の方やみんなで一緒に作っていく演出をさらに心掛けるようになりました」

 そして、ワークショップから10年以上が経ち、今度は10本の長編映画を撮ってきた映画監督として再会を果たす。「JTマナー広告/私はマナー人 三池崇史編」の撮影は、2025年2月23日に、大泉の東映東京撮影所で行われた。

「映画監督として三池さんを撮れたのは、私の人生の中でとてもドラマチックな瞬間でした。撮影に際してはいろいろなパターンを考えていたんです。三池さんは男性を撮らせても素晴らしい映画監督の一人だと思いますが、そんな三池さん自身を最高にかっこよい監督として撮りたいという思いがありました。最初は、日本映画界の第一線を走り続けてこられた方なので、竹藪の中を走る様子や砂漠を歩いていく姿を撮りたいと思い、提案もさせていただいたのですが、三池さんサイドからは「淡々と映画を撮っています」と返ってきました。なるほど、三池さんにとって、映画は非日常ではなく、日常の延長なんだと。走るというよりも、息を吸うように淡々と撮ってこられたんだなと。おもしろいなと思いました」

 生活の中に映画があり、映画の中に生活がある。完成した動画は「淡々と撮り続ける。淡々とたばこのマナーも守る」というキャッチコピーに併せて、三池監督の撮影所での日常を映し出している。

「撮影所にはスタッフやキャストといった大勢の仲間がいますが、やっぱり監督は最終的に孤独なんだろうと感じます。最後は自分が判断しなきゃいけない。いろいろと相談はできますけど、決めなければいけない瞬間は結局一人なので、三池さん一人を撮りました。シチュエーションは撮影中ではなく、撮影が始まる前の休憩中。つまり、人間が生きるために必要な「食べる」という行為にフォーカスし、その食べるという日常の行為が終わった後に、淡々と「撮る」という流れにしたかったんです。三池さんはすべてを理解してくださり、優しい感じで応えてくださいました。珠玉の30秒になったので、ぜひ淡々と観ていただけるとうれしいです」

 食事も、撮影も、三池監督にとっては作品を生み出すためのプロセスの一部であり、そのすべてが繋がっているということを、ワンカットの映像は伝えている。

三島有紀子 みしまゆきこ 映画監督。大阪市出身。2017年の『幼な子われらに生まれ』で、第41回モントリオール世界映画祭審査員特別賞、第42回報知映画賞監督賞、第41回山路ふみ子賞作品賞など多数受賞。その他の主な監督作品に『しあわせのパン』『繕い裁つ人』『少女』『Red』、短編映画『よろこびのうた Ode to Joy』(U-NEXTで配信中)など。2021年イタリアのヴェネツィア、ローマ、ナポリ各地で「YUKIKO MISHIMAの世界」が開催された。2023年セミドキュメンタリー映画『東京組曲2020』・短編劇映画『IMPERIAL大阪堂島出入橋』公開。最新作『一月の声に歓びを刻め』がイタリアウディネファーイースト映画祭にコンペ部門に正式招待された他、U-NEXTなどで配信中予告編はこちらから)。また、封入特典のブックレットが付いたDVDが7月30日に発売予定。ポレポレ東中野ではDVDの発売を記念して、7月30日に特別上映を実施。詳細はポレポレ東中野のHPへ。【三島監督公式HP

撮影/野呂美帆