「うつしだす世界」を紐解いていく。
三島監督が担当した「映画制作論」という講義は、これまで熊切和嘉監督や松岡錠司監督など、多くの映画人が客員教授として学生たちに教えている。この話を引き受けることになった背景にも、複数の映画人の存在があった。一人は、カメラマンの深沢伸行氏。三島監督がドラマ監督としてデビューした際、自ら口説き落としてタッグを組んだ、いわば戦友の一人だ。深沢氏が立命館大学で教えていたことが、今回の縁を繋いだ。
「東映京都撮影所で出会い、映画を撮れるようになってからもずっと応援してくださった深沢さんが、私を映像学部の客員教授にと推薦してくださったんです。ただ、正直に言うと、最初は葛藤がありました。自分が大学の先生という肩書きを背負うことに違和感がありましたし、学生に教えるとなると、中途半端にはできません。果たして、自分はそんな余裕と、伝えられる言葉を持っているのだろうかと悩んでいました」
背中を押したのは、信頼する仲間たちの言葉だった。
「武蔵野美術大学で教えてらっしゃるポレポレ東中野の支配人・大槻貴宏さんや、お亡くなりになったアルファエージェンシーの代表・万代博実さんから、温かい言葉をかけていただきました。大槻さんからは「そんなに難しく考えないで、自分の知っていること、例えば現場でのことを伝えるぐらいの気持ちでやってみたら」と、万代さんからは「松岡さんを紹介するから話を聞いてみたら? それで三島は三島のやり方で、映画を学生たちと一緒に考える感じでやればいいんじゃない」とアドバイスしていただきました。なるほど、知っていることを共有したり、一緒に考えたりすることならできるかもしれないと、お引き受けすることにしたんです」
技術を一方的に授けるのではなく、映画とは何なのか、なぜ物語を紡ぐのか、なぜ残したいのか。「技術の手前にある姿勢」を、学生たちと一緒に探していく。そんな全7回の講義が始まった。ゴールは20人で1本の短編映画を完成させること。講義の皮切りとして、三島監督は学生たちに「自分が作りたい映画の企画をA4用紙1枚に書いてくる」という宿題を出した。
「初回の講義では、書いてきてもらった企画書を一人ひとり全員の前で発表してもらいました。私はもちろん、20人全員がお互いに知り合いというわけではないので、自己紹介を兼ねてです。顔と名前を覚えるのは時間がかかりますが、企画書を読めば、その人が何を大事にして生きているのか、何を見て、何を感じてきたのかが断片であっても理解することができます。20人で1本の映画を完成させるというゴールがある以上、まずは自分を知り、お互いを知ることが不可欠でした。私もそうですが、映画監督であれば、自分の目指していることを掘り下げます。そして撮影に参加するスタッフや俳優たちの過去作を見て研究します。もちろん、作品を観ていて、ご一緒に作ってくれませんか?とお願いすることがほとんどですが……。誰と、どんな人と一緒に作るのか。それを知ることから、すべては始まる気がしています」
誰に見せたいのかを考える。
学生たちの言葉に耳を傾けながら、三島監督は映画制作において立ち返るべき「3本の柱」を伝えた。それは監督自身が常に自問自答し続けている命題でもある。一つは、自分が観たいと考えるその映画は何を目指しているのか、ということ。もう一つは、監督が「これは当たり前のことで、一番大事」だと話す、どんなに大変でも何があっても時代が変わっても作りたいと思えるのか、ということ。テーマや映像的な新機軸といった目指すべきものがありながら、過酷な現場を走り抜ける衝動を持てるかどうかが映画づくりには重要だという。そして、最後の一つは、その映画を誰に見せたいのか、ということだった。
「たった一人の家族や恋人、親友でもいいですし、世界中の人に観てもらいたい、でもいいと思う。最初に出てきた衝動の芽は、どこに向かっているものなのか、きちんと見つめられたらなと。こんなふうな思いで生きている方に向けて、だったり、どこかにいる自分みたいな人に向けて、でもいい。この映画はどこへ向かっていきたいのか、しっかりと分析し、認識する必要があるのかなと感じます。自分たちが今、何をしようとしているのかを自覚することは、プロも学生も変わりません。誰に、何を体験してもらうのか。自分自身も常に自問自答していますし、これから映画を作る学生たちにも、全員でこの問いに向き合ってもらいたかったんです。これらが発信者に必要な覚悟かなと自分にも問いかけています」
常軌を逸した情熱が必要。
講義の中盤、クラスは4グループに分かれ、グループごとに1本の企画に絞り込むプロセスに入る。しかし、ここでトラブルが発生。あるグループで、2人の学生の意見が真っ向から対立してしまう。一人は「これを監督人生の第一歩にしたい」と燃える学生。もう一人は「大学生活の最後に自分の脚本で映画を撮りたい」と譲らない学生だった。
「スタートにしたい人間と、最後にしたい人間では、どちらも引けないですよね(笑)。あまりの熱量に2人ともオーバーヒート気味だったので、間に入りました。でも、よくよく話を聞いてみると、2人が描こうとしている根底のテーマは同じだったんです。何も争う必要なんてないじゃないですか。2人には、「映画は一人で作るものじゃない。監督は基本いいとこ取りをする仕事なんだよ」と伝えました。誰かの意見を取り入れることで、自分の企画でなくなると思うなら一人で作るしかない。けれど、他者の視点が入ることで、自分の想像を超えて面白くなっていくのが共同作業の醍醐味です。「お互いのいいとこ取りをしてみたら?」と伝えた瞬間、2人の顔から霧が晴れたのがわかりました」
しかし、物語はそこで終わらない。その後の授業で議論を深めるうちに、結末を「希望」で終わりたい学生と、「問題提起」で終わらせたい学生の間に、どうしても埋められない溝が再燃。最終的に三島監督は「4本から2本に絞る」というルールを曲げ、2本ではなく、3本の企画を最終候補として残す決断をした。
「ルールを逸脱しているのはわかっていました。でも、映画作りには、ルールをなぎ倒していくような常軌を逸した情熱が必要なのかなと。その情熱を抑え込んでしまったら、面白いものは生まれません。譲れない想いを受け入れていくことが映画づくりだと思うので。学生たちに経緯を説明して、最後はその3本の中から、全員に投票してもらい、短編映画を撮る1本の企画を決めました」
選ばれたのは、楽しくわかりやすく、それでいて独創的な企画だった。発案者の学生は、コミュニケーション能力も高く、すでに短編映画を撮っており、多くの仲間の支持を集めた。一方、選ばれなかった中には、内向的で自分を出すのが苦手な作家性の強い企画を出した学生もいた。三島監督は、講義の後に残っていたその学生とのやり取りを振り返る。
「私は選ばれなかった企画も、学生時代は時間があるわけだし、脚本を書いた限りはブラッシュアップして自主映画で撮ってみればいいと伝えていたんです。撮ることで見えてくることはたくさんありますしね。でも、ある一人の学生は「自分は友達が少ないから、自主映画なんて無理ですよ」と言うんです。でも、私ははっきり伝えました。「それは違うよ。友達がいるから映画を作るんじゃなくて、映画を作るから友達ができるんだよ」と。自分もそうですが、すぐに友達になれたり、友達が多いタイプではない自分みたいな人間は「一緒に映画作ってくれへん?」と誘ってみればいい、断られてもええやん、と。誰かが「ええよ。作ろう」と言ってくれたらそこから始まる。自分はむしろ、そうしてできた友達のほうが多いのかもしれません」
3ヵ月間に及ぶ立命館大学での日々。それは三島監督にとって、2月からの新作の撮影に向けた、何よりの準備となった。
「学生たちに「映画とは何か」を問いかけながら、それは常に自分へのブーメランとして返ってきました。自分が積み重ねてきた土壌を、もう一度、深く本気で耕し直した感覚です。新作の準備中だったこともあり、改めて本当に作りたい映画なのか、衝動がどこから生まれたのか、映画館のみなさんにかけていただける映画にするにはどうしたらいいのかというのを、毎回立ち返る3ヵ月でした。ヴイム・ヴェンダース監督は「イメージの論理」の中でこう語っています。「あらゆる現象と世界は徐々に破壊されていくが、その破壊行為が、ほんの一瞬間、ストップさせられる。カメラは、事物の悲惨さ、即ち、消滅という運命に立ち向かうための武器なのだ。なぜ映画を撮るのか?もう少しましな質問は考えつかないのだろうか?」。自分自身、カメラをまわすことは当たり前のことのようにも感じています。新作映画でも、その世界と現象を記録したいと思いました。撮影では、学生たちがエキストラとしても参加してくれたのも嬉しかったですね。「勉強になりました」と帰っていくので「どんな?」と聞くと「なにもかも」「経験の大きさ」と「あきらめない心」と口々に(笑)。もっと聞きたかったですね。学生たちも3月頃から映画を撮り始めるそうなので、私も編集に立ち会おうと思っています」
撮影/森田直樹(アフロスポーツ)
Photo by Naoki Morita(AFLO SPORT)
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