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三島有紀子

三島有紀子

三島有紀子

撮影/野呂美帆
スタイリング/谷崎 彩
衣装協力/シューズ¥23,100、BONDI 7(ボンダイ 7)HOKA ONE ONE(ホカ オネオネ)

新作映画のこと、撮影のこと。

みんながひとつになった瞬間のこと。

 最新作の短編映画『IMPERIAL大阪堂島出入橋』で主演を務めるのは、日本を代表する名優の一人、佐藤浩市。三島監督は佐藤さんとの出会いをこう振り返る。

「お会いしたのは2年くらい前だったと思います。原田芳雄さん邸でおこなわれている餅つきに参加させていただいた時、緊張して小さくなっていたら、浩市さんのほうから声をかけてくださいました。最初は私のことなんてご存知ないだろうなと思っていたんですけど、『幼な子われらに生まれ』の話をしてくださり、“あ、知っていただいているんだ”と驚きましたし嬉しかったです。そこから私も、浩市さんの出演されている瀬々監督の『楽園』という映画のお芝居についてお話をした記憶があります。いつか映画を御一緒に作りたいと願っていたので、今回、ダメもとで出演をお願いしました」

早朝4時16分、

ワンカットでの

撮影がスタート。

三島有紀子

 映画は、800メートルを移動しながらの夜明けねらいの長回しで、一人の男の物語を綴っていく本番一発勝負。スタッフもキャストも、これまでにない緊張感の中での撮影となった。

「撮影前、浩市さんには“何があっても止めません”とお伝えしました。もちろん、誰かの命に関わることだとか、危険が及ぶことであれば止めますけど、それ以外では、スタッフが映り込んでも、セリフを間違えても、止めるつもりはありませんでした。そうしたら4秒くらい間があって、浩市さんから“わかった”と。そこからは一人の世界に入られて、とても集中されているご様子が神々しいほどでした」

 夜明け前の早朝4時16分、ワンカットでの撮影がスタートした。佐藤浩市演じるレストランの店主が、夜の街を歩き続けるというシーンだ。

「撮影の数日前から何度も演出部や私が浩市さんの役をやりながらテストはしていますけど、800メートルですから、リハーサルだって何回もできないので、成否のほとんどは浩市さんにかかっていました」

ああ、

映画の神様は

いたんだ。

三島有紀子

 夜から始まり、空が白んでくるまでを狙うカット。やり直しは許されなかった。

「いろんなタイミングが合わないといけないのでとても緊張しましたが、全てのスタッフ、役者を信じてスタートをかけました。私の仕事は、作品と人を信じ抜くことかなと思っています。信号や車……いろんなタイミングにみんなが対応しながら、一瞬一瞬が記録されていきます。私はキャメラ横で、一瞬一瞬に“OK”“ここもOK”“OK”……と頷きながら、最後まで辿り着いていったイメージですね」

 実はこのとき、三島監督は右肩の関節を骨折中。

「本当は照明部の常谷良男さんが車椅子を押してくれる予定だったんですけど、もうアドレナリンが出ていたので、気づいたら撮影部の山村卓也さんの横で浩市さんや他のスタッフと一緒に走っていました。72歳の録音技師の浦田和治さんも気づいたら走っておられ……痛みなどはもう忘れてしまって、最後は“カット!OKー!”と。 本当に奇跡がいくつも重なって、無事に撮り終えることができ、“ああ、映画の神様はいたんだ”と思いました。もちろん、後日お医者さんにはすごく怒られました(笑)。生まれたときから映画の国に生きているようなベテランの浩市さんが本番前に練習を重ねて集中してくださり、みんながそれぞれの仕事に集中し、生まれたカットだと思っています。おかげで非常に映画的な現場になりました」

三島有紀子

「10代の頃から、浩市さんが出演されている『魚影の群れ』や『人間の約束』『忠臣蔵外伝 四谷怪談』『トカレフ』などを観て、“いつか、この方が存在している映画を撮りたい”と思っていましたから、今回ご一緒させていただいたことは私の人生の長い歴史の積み重ねの中で叶った、とても大きな出来事なんですよね。今作では“全てを失った男が、どうやって微かな光を手繰り寄せるのか”、その繊細なお芝居を長い道のりの中で紡いでくださいました。起点となるシーンを演じてくれた宮田圭子さん、『痛くない死に方』や数々のロマンポルノを拝見してきた下元史朗さん、『岬の兄妹』『なん・なんだ』の和田光沙さん……最高のキャスト、寄り添ってくれるスタッフに囲まれて幸せな時間でした。完成後に、またニコッと目線を交わせるような、今度は長編の作品をみなさんと御一緒に作れるよう精進しようと思います」

三島有紀子

三島有紀子 みしまゆきこ 映画監督。大阪市出身。2017年の『幼な子われらに生まれ』で、第41回モントリオール世界映画祭審査員特別賞、第42回報知映画賞監督賞、第41回山路ふみ子賞作品賞など多数受賞。その他の主な監督作品に『しあわせのパン』『繕い裁つ人』『少女』『Red』『よろこびのうた Ode to Joy』などがある。最新作の『IMPERIAL大阪堂島出入橋』が「MIRRORLIARFILMS Season2」の一篇として2月18日公開。
【公式HP】https://www.yukikomishima.com

撮影/野呂美帆
スタイリング/谷崎 彩
衣装協力/シューズ¥23,100、BONDI 7(ボンダイ 7)HOKA ONE ONE(ホカ オネオネ)