――内閣支持率は発足直後が一番高いと言われますが、2025年10月に発足した高市内閣は、3ヵ月連続で高い支持率を維持しています。さらに若い世代の支持率が8割という調査報告もあり、高市総理愛用のアイテムやメイク用品を真似る「サナ活」も話題になりました。こうした現象は、私たちが政治リーダーに求めるイメージの変化を表しているのでしょうか。今日はそのあたりから、お話をうかがいたいと思います。
佐藤 若い人の支持うんぬんは、メディアに作られている虚像にすぎないと思いますけれどね。私は高市さん個人を悪人とは思いませんが、政治家としては、厳しいスタンスで論ずることが多々あります。しかし、そういった批判的な発言に対して、読者からの反応はほとんどありません。通常、注目されている事柄には賛否両論がつきものです。批判的な意見にも反応が弱いということはつまり、そこまで関心を持っていないんですよ。まわりの学生を見ていても、言われているような高市旋風は偽の熱狂であり、高市政権はスプーン半分ぐらいのザラメで作った綿菓子のようなものに思えてなりません。
河野 政治的なリテラシーが高い人であれば、高市政権についていろいろ思うところがあると思います。ただ、一般的な有権者のレベルだと、憲政史上初の女性総理という要素がやはり大きいでしょう。女性が国政の中心で常に注目を浴びるということが、まず極めて珍しい。そのことについて好感を持つ人がいるのはおかしいことではありません。「史上初」のボーナス効果はあるのかなと。
佐藤 女性政治家の存在感としては田中眞紀子さん、新政権誕生という意味では長期政権与党だった自民党から民主党に政権交代した、平成21年9月16日の鳩山内閣発足のときにも経験しています。田中さんや鳩山さんのケースのほうが今よりもずっと熱狂的でした。
もっとも、期待感を持つのはわかります。自民党としても、キャッチオールパーティー(包括政党:幅広い層からの支持を得るために、多岐にわたる理念と網羅的な政策を掲げた政党のこと)として機能不全になっている中での試みとして、前回は党内野党といわれる石破さんを立ててみた。ある程度は人気が出たけれど、選挙結果は思うようにはいかなかった。そしてその次が、本来は一本道であるはずの自民党議員としての王道を無視して独自のルートを登ってきた、一種の獣道政治家である高市さんだったわけです。
河野 そうですね。石破さんも高市さんも、自民党生え抜きではなく、その意味で正統性に傷がある。二人とも政治家としては似ていますよね。言っていることもアピールする層も正反対なので違うタイプに見えますが。どちらも自民党内の地盤が弱い。石破さんは田中角栄の直系だと強調していますけれど、1回出ている、つまり裏切った過去があるから。
佐藤 よく似ています。高市さんは、2011年、清和会が一番大変なときに離脱していますからね。
河野 だからこそ一般有権者層にアピールする戦略を取りがちになる。石破さんはリベラル左派寄り、高市さんはタカ派のほうに、それぞれアピールしているのかなと。
佐藤 高市さんは派閥にも所属していない、官僚のレクチャーも聞かない。その独自のスタイルが「信頼」を得、今のところ保ってはいる。人は自分が「信頼」したものはある程度までは好意的に捉えます。自分が選択を間違えた惨めな存在だと認めたくないから。でもハリボテの「信頼」は長持ちしません。だから官僚の多くは半身でやっていますし、永田町の実践のプロたちも「信頼」がいつまで保つか、お手並み拝見と静観しています。高市さんと共に生き残らなければならない人たちは、盛り上げるだけ盛り上げて、支持率が高いうちに解散すればいい、と考えている。そんなところでしょう。
著しく乖離することはない。
――これまでの日本の政治で、人気のあるリーダーの特徴や共通点のようなものはあるのでしょうか。
河野 個人的には、小泉純一郎さんの登場が強く印象に残っています。やはりそれまでの自民党リーダーとは一線を画していた。「自民党をぶっ壊す!」を始めとする、短く印象的なワンフレーズ・ポリティクスを多用し、あえて敵を設定して、刺激的な小泉劇場を作った。自民党基盤の論理ではなく、メディアの視聴者、有権者にわかりやすい構図を提供することで、支持を調達しました。
安倍晋三さんも小泉さん型の強い総理のイメージを作った人です。たぶん高市さんは、小泉さん、安倍さんに続いて3匹目のドジョウをすくいたい。でもうまくいくとは思えないんですよね。衆議院や参議院での議席数などが伴っていないから。体力がないのに人気だけあるというのは、崩れやすい、危うい構造だと思います。
逆に、これは佐藤先生にお聞きしたかったのですが。田中角栄は今でこそ再評価されていますが、当時、まさに自民党が55年体制華やかなりし頃、田中角栄を理想の首相だと答える人はあまりいなかったのではないですか。
佐藤 私の学生時代、すなわち1980年代前半において、田中角栄といえば、東條英機、岸信介とならぶ3悪人の一人というイメージでしたよ。なにしろ、3割以上も物価が上がり続けて給料は上がらない。オイルショックでトイレットペーパーがなくなるような騒動もあり、「あの野郎、生活をめちゃくちゃにしやがって! 最低な首相だ!」というのが当時のリアルな感覚じゃないですか。庶民の代表ではなく、強欲な悪代官という感じでした。
河野 それが今は、小泉さん、安倍さん型リーダーシップに対する、ある種のアンチテーゼとして再評価されている。決断力、実行力があり、真に日本国民のことを考えていた政治家だった、というような。
佐藤 人気や評価なんてそんなものです。それに、政治家を目指すような人間は皆、それなりに日本のことは考えているんですよ。そんなにひどい人間はいない。善い人間かというと、また違う話ではあるけれども。そして、民主主義的な国家において、一国の総理大臣が国民の標準的な水準から著しく乖離することはありません。つまり現総理である高市さんの姿は、我々の自画像なんです。軽さ、いい加減さ、根拠のない外国人犯罪が野放しになっているという批判、外国人が奈良のシカを蹴ったという言説、高市さんが「推し活」なんて言葉で語られるところも含めて。このままだと来年の今頃はみんな「あの高市旋風ってなんだったんだろう」「まあいいや、忘れちゃいましょう」となるでしょうね。軽くていい加減だから。
人を知っていて人を使える人。
河野 高市さんはあの世代の日本の女性の典型というイメージも強いです。キャリアを追求して、周囲に休めと言われても、夜も寝ずに仕事の準備をしちゃう感じ。頑張っても要領が悪くていまいち報われなかった同世代女性が共感して応援している部分もあるのではないかと思いました。
佐藤 男女雇用均等法世代初期の標準的エリート像ですよね。同世代の超エリートである東京大学教授の歴史学者・加藤陽子さんは、かなり突き放した見方をしていました。高市さんの「働いて、働いて、働いて」発言に対して、「軍隊の中隊長の発想ですね。負けた軍隊の」と。
それに高市さんは神戸大学経営学部の出身でしょう。神戸大学は東京でいうところの一橋大学で、実務の世界で活躍する努力家の人が多い。さらに彼女は松下政経塾出身です。後輩の面倒もものすごく見ているから、政経塾つながりで彼女を悪く言う人間は誰一人私は見たことがありません。
河野 立憲民主党の野田党首も高市さんの先輩ですね。
佐藤 そう、政経塾出身の政治家が非常に多い。そしてみんな松下幸之助の写真を飾っている。松下政経塾出身者の文化が高市さんという政治家に体現されているように思えます。
河野 リーダーは孤独になりがちで、官邸も情報過疎が常に課題になります。今は世界全体、トランプにせよ、プーチンにせよ、習近平にせよ、部下を信用していないし、部下もリーダーに何も言えない状態になっている。石破さんも高市さんも、そういう意味では非常に小型ではあるけど似ていて、自分でいろいろやっちゃうんですよね。リーダーの条件の一つは、人を知っていて人を使える人です。その才が見失われている感じはあります。安倍晋三さんの良かったところがあるとすれば、自分では何もしなかったところ。官邸官僚や、茂木敏充さん、甘利明さんのような有能な政治家を相互に競わせて、自分では走らずに他人に走らせたのが、彼の政権が長持ちした秘訣の一つだったと思います。
佐藤 安倍政権のときにもう一つできたのが家産国家的文化です。家族と国家が分かれていない、サウジアラビアのような形態の国。岸田政権にもその要素はあったし、高市政権も家産国家化しています。危ういのは、安倍政権のときのような政府のラインが機能していないこと。広い視野を持った専門家の意見も聞かず、身近な人の意見だけでリアルな政治が動いている。だから衆院予算委員会において「戦艦」などというワードも出る。そんな言葉が現職の首相の口から出ること自体、極めて異常な事態です。
河野 ただ、衆議院こそ過半数をかろうじて回復したものの参議院は依然として少数与党なので、野党が賛成しない法案はそもそも通せない。石破政権もそうでしたが、高市政権も実質できることは何もないに近いと思うのですが。
佐藤 問題は外交関係です。高市政権はポピュリズムを背景に外交にかなりの変化をもたらすことができます。日本国家の孤立と近隣諸国との緊張、それから日米同盟の弱体化が、綿菓子のような高支持率の背景で起きていることについて、もっと真剣に考えないといけない。「推し活」のような軽いノリで若い人たちが支持を続けて、その結果、戦争が起きたら戦地に行くのは若者たち自身です。
河野 「推し活」という意味では、国民民主党の玉木さんや榛葉さんは、TikTokやInstagramなどで露出して、かなり意識的にファンダムを作ろうとしていると思います。私も名刺交換直後にメルマガに登録させられました(笑)。そして頻繁にメールが来るんですよ。これって、それこそ田中角栄や小沢一郎といった昔ながらの自民党議員が、人の少ない農村部でミカン箱の上に立って演説をして、来てくれた人全員に握手をしていたようなのと同じじゃないかと思いました。ある意味、最近の新しい政党は、インターネットを使ってそういうネットドブ板選挙を熱心にやっているのではないかと。
政治学者としては、どんなきっかけであれ政治に関心を持つ人が増えてくれたら嬉しいという気持ちではあります。政策をすべて理解している人は、有権者の中でもごく一部です。というか、おそらく政治学者の頭の中にしかいません。それに、「にわか」に冷たいジャンルは衰退するだけですからね。古参としてのあるべき振る舞いは、ご新規の人の「推し活」を笑うのではなく、自分たちの経験を語り継いでいくことではないかと。あの時のあいつはこうだったとか。自分たちの失敗談も込みで。
佐藤 民衆は短期的にはおかしなほうに行くことがあっても、中期、長期的には誤らないと信じています。私も、現役を離れて長いけれども、霞が関や永田町の友達はたくさんいる。情報網として独特なネットワークがあります。『韓非子』の冒頭の言葉「知りもしないのに話すのはばか者であって、知って話さないのは不誠実だ」にならい、これまで以上に発信していくつもりです。わかっている人は言わないと。
河野 そうですよね。有権者も、うわべのイメージだけではなく、その人が何を言っているか、しているかを見てほしいです。そのうちに自分なりの良い政治家、良くない政治家の基準ができてきたら、それはもう立派な政治参加ですから。そして、なにかあったらすぐ推し変をするような「推しショッピング」を繰り返すのではなく、不満や改善してほしい点があるなら、それを自分のボイスとして伝えて、より良い方向に一緒に成長していくのが、理想的な関係だと思います。
撮影/野呂美帆 構成/藤崎美穂
スタイリング(佐藤)/森外玖水子
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