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濱野 もうだいぶ前から、サブカルチャーどころかミニカルチャーしか生まれない状況になってきていますよね。コミュニケーションの範囲はもう、少数のグループが主流になってきています。若者はTwitterもInstagramもやらなくなっていて、基本的にLINEのような、クローズドな空間でしか話さない。消費行動もかなり限定的になっています。
佐藤 権力者にとって非常に統治しやすい状況ですね。小さい塊がバラバラにあっても、威力にはならないから。
濱野 そうですよね。AKB好きの500万人が集まり、怒涛の投票行動に出るというような動きはなくなります。サブカルチャーはかつてカウンターカルチャーとして体制への抵抗勢力にもなりえましたが。
佐藤 ごく一部のエリートがプラットフォームを作り、中でも生き残る知恵を持った人間に全ての富と情報が集まりますね。
濱野 GAFAはまだギリギリ、それぞれの強みが分離していますが、その気になれば統合して巨大な力を持てる時代が来ています。ブームの作り方でいえばもう完全にそうで、SNSでバズらせたかったら、ターゲットのコミュニティごとにどのインフルエンサーに投資すればいいかということが完璧に可視化されています。

濱野 以前は「マスメディアは人工的にブームを作る一方でネットは何が流行るかわからない」と言われていましたが、今はネットも強烈なヤラセ社会になってきているんですよね。
佐藤 統制も、金儲けもしやすい。
濱野 中国は今その最先端国家です。コンテンツも含めて。全国民のデータを持っているし監視も検閲もする。
佐藤 ロシアもそうですよ。国家は普段はそんなに関心を持っていないけれど、目をつけられたら怖い。いかに民間が力を持とうとも国家には軍事力がありますから。
濱野 そういえばInstagramをやってると、不思議とロシアのアカウントがすごく多いんですよね。
佐藤 暇なんですよ。ソ連時代の社会主義の理想が一つだけ実現していて、それは労働時間の短縮なんです。
濱野 それだけ聞くと良いことに思えますね。日本人は時間に追われながらスキマ時間で無理してインスタ映えとか頑張っていて。そういう状況の中で次に何が流行るか――日本のオタクカルチャーの潮流でいえばやはりAIやVRの方向に行きますよね。アイドルやゲーム、アニメというようなオタクカルチャーを好むのは基本的にコミュニケーション能力低めの人間が多いですから、AIやVRとの親和性は高い。若者の恋愛離れとか言われていますけど、今後さらに発展していくだろうなと。

佐藤 外務省でも、生身の女性は耳垢の匂いがするから同じ空間にいることができない、という男性がいました。
濱野 それはミソジニー極めてますね。でも行き着く先はそういうことだと思います。今の時代、MeTooやLGBTの問題がある種カルチャーやポリティカルの要素を強く帯びるようになっていて、逆に「性」を自分のアイデンティティに組み込めない人が増えている。生物としては歪ですけど、複雑なコミュニケーションを必要とせず、自分を全肯定してくれるバーチャル彼女がいたら、僕もそちちを選ばない自信ありません(笑)。
佐藤 行為としては麻薬でトぶのとだいたい一緒ですよね。ガンジャやコカインでキメるか、VRでキメるか。
濱野 そう思います。人間の欲望って結局「キメたい」なのかも。

濱野 今後、ビジネスとしては老人向けのVRサービスとか出て来ると思うんです。かつて好きだったアイドルに介護されていると勘違いしながら死んでいくとか。自分が欲しいですもん。
佐藤 人口的にも需要が多いでしょうね。ただ、みんながラリっていると資本主義が成り立たなくなっちゃいますから、現実で夢を売るビジネスが出てくるわけで。今だと“こんまり”ですね。
濱野 Netflixでは番組を制作したらしいですね。『KonMari』って。それがアメリカでも大ブームになって。
佐藤 平成を代表する文化の一つではあります。巨大資本と結びつきはじめていますし、宗教に近いですよ。片付けて気持ちがスッキリすること自体は、当たり前の話なんだから。

佐藤 優 さとうまさる 作家。1960年生まれ、東京都出身。元外務省・主任分析官として情報活動に従事したインテリジェンスの第一人者。“知の怪物”と称されるほどの圧倒的な知識と、そこからうかがえる知性に共感する人が多数。近著に『君たちが忘れてはいけないこと: 未来のエリートとの対話』『希望の源泉・池田思想』など。

佐藤 その手の話だと副島隆彦さんを狙ってみるといいと思う。
濱野 副島先生!お会いしたことありませんが大好きです(笑)。
佐藤 副島さんは本物です。2年に1冊、一緒に本を作ることにしてるんです。濱野さんの『前田敦子はキリストを超えた』を読んだときも「本物だ」と思いましたけれど。実際にあの本が世に出たことでAKBは制度化されて、変わらざるをえなかったわけです。
濱野 ありがとうございます(笑)。たしかに憑依されたように書きました。それで、「地球平面説」の人たちも本物なんです。ガチで信じているから、コミュニティを作り、200万円のジャイロを買って実証を試みたり、学会を開催したりもする。
佐藤 まあ、私も大学で同じようなことをやっています。私はキリスト教徒ですから、死人が3日後に生き返ったと信じているわけです。信者以外の人からしたら地球平面説と一緒でしょう。ほかにもいろいろあるじゃないですか。謎の惑星の「ニビル星」とか、よく『ムー』で特集しているような。陰謀論でも滅亡論でもいろんな意見が出てくるほうがやっぱり面白いですよ。

濱野 『KonMari』と同じカテゴリの『クィア・アイ』っていうオリジナル番組もすごいウケてるんですよね。LGBTの5人組がアメリカ南部に行き、視聴者のライフスタイルやファッションを全改造して、かつ存在を全肯定してくれる番組です。非常に政治的というか「アメリカはリベラルです」とアピールするために作っているような番組。そういう半ドキュメンタリーが増え、虚構と現実が曖昧になってきている気配もあります。
佐藤 ロシアだと、政治的なコンテンツはよくユーチューバーがやっています。でも面白くはない。面白いのはドラマですね。『月の裏側』っていうタイムスリップもので、シーズン1は人気だったけど、続編はディストピアものになってコケた。なぜなら現実と変わらないから。
濱野 それは楽しくないですね(笑)。そういえば、ここ2、3年、「地球平面説を信じる」っていうテーマが、ユーチューバーを中心にアメリカで大ヒットしているらしくて。そのユーチューバーたちが滔々と語り合うドキュメンタリーを先日見たんですよ。

濱野智史 はまのさとし 評論家、社会学者。1980年生まれ、千葉県出身。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。rakumo株式会社シニア・リサーチャー。著書に『前田敦子はキリストを超えた』『アーキテクチャの生態系』など。

濱野 ミニグループに分裂してそのコミュニティの中だけで引きこもっていたら、いろんな意見に出合う確率は低くなりますよね。刺激も少ないし自分を相対化する機会も減る。それを否定するつもりはないけど、本物の面白い人に会えたほうが生きてる喜びは大きいと思うんです。
佐藤 どうせ付き合うなら絶対に本物がいいですよ。凄みが違う。
濱野 でも偉そうに言いながら僕、AKBについて書いて、自分でもアイドルグループを作って失敗して、そこからこれだ、というものに出会えていないし、何にも興味が持てない状況が続いているんです。
佐藤 濱野さんは独創的な知性があるから、それこそ『こんまり論』なんて書かれたらいかがですか。
濱野 あの手のスピリチュアリズムは確かに面白いですよね。水晶やパワースポットではなく日常空間すべてにスピリチュアリズムが満ちているという価値観。
佐藤 スピノザっぽいですよね。それと、消費しないことをビジネス化する手法は、プラットホームビジネスしかないはずなんです。だから『こんまり』と『Netflix』と『地球平面論』とを絡めて書けたら文化論として面白そうだなと、今思いました。
濱野 オタクカルチャーの楽しさって、ファン同士のつながりから生まれる部分も多いです。今日は佐藤さんという本物な方にお会いできて、とても元気をいただきました。VRとは逆ですが、人からエネルギーをもらうという感覚も、改めて見直されていくかもしれませんね。そのうち地球平面説学会の日本支部で活躍し始めるかもしれません(笑)。

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