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 今回は、いつもと趣を変えた特別版。佐藤優が「コロナ禍での自己投資」を語る。
 2020年3月25日に小池百合子都知事が「不急不要の外出自粛」要請をしてから、早1年が経とうとしています。ワクチンの開発も進んでいますが、コロナ禍が地球規模で解決するまで今からさらに2年は続くと覚悟したほうがいいでしょう。この2年は忍耐の期間です。社会全体の消費が落ち込み、経済の停滞が続く。以前にも述べましたが、資本に余裕のない中小企業・個人事業主には非常に厳しい期間となります。耐えて生き延びたとしても、アフターコロナの新しい時代は、以前とは全く違う社会に再編される可能性が極めて高い。
 ではこの停滞する時間をどう過ごすべきか。コロナ後の時代に生き残るうえで何が武器になるのかについて、今回は述べたいと思います。なおFILTの105号と107号(連載vol.33vol.34)では、「未曾有の事態の心がまえ」について述べました。基本的な考え方、対策についてはこちらのバックナンバーも合わせて確認してみてください。

①スマホを見るのは1日に1時間まで。
 まずスマホを触る時間を限定することだと思います。特にLINEなどのチャットアプリ、あるいはinstagramなど各種SNSやソーシャルゲームを見る時間を制限する。SNSやゲームは、そもそも時間をつぶすためのもの、退屈を紛らわすためのものです。サービス提供側は自分たちのサービスに時間やお金を使ってもらうようにあらゆる工夫を凝らしているわけですから、みんながやっているから、と同じように漫然と見ていたら、あっという間に時間を消費してしまいます。
 何かを勉強するために時間を作りたいのであれば、1日1時間程度に抑えたほうがいいと僕は思う。これは若い世代であるほど難しいことかもしれませんが、僕のゼミでは空き時間にスマホを眺めている学生はいません。SNSのアカウントを持っていても、連絡用ツールとして割り切って使っています。それくらい時間を大切にしなければ、授業についていけないからです。
 仕事にしろ勉強にしろ趣味にしろ、何か目的がある人は、みな同じではないでしょうか。

②文字チャットよりもメールかビデオ通話を使う。
 とはいえ、コロナ禍において遠隔コミュニケーションの重要性は高まっています。そこで意識してほしいのが、ツールごとの時間感覚の文化の違いです。チャットアプリは即時性が求められるので、1日でも放っておくと未読スルーだなんだと角が立ちますね。けれど従来のEメールであれば相手が都合の良い時間に見ることが前提ですから、1日2日返事がなくても別に問題にはならない。至急の用件であれば電話をすればいいのですから。時間感覚の短い文化をメインに使っているとそれだけ周囲に振り回されやすくなります。グループチャットは使い方によっては便利ではありますが、一方で無駄な雑談が続くケースも多い。もしグループでのトークが必要なら、チャットアプリよりもZoomやTeams、あるいはFaceTimeなど、顔の見えるツールを使ったほうがいいでしょう。文字だけのコミュニケーションよりも短時間で、ずっと多くの情報を共有できます。

③スマホ依存気味の人は瞑想の時間を作る。
 最近ではスマホの依存性の怖さも問題視されてきました。スキマ時間に必ずスマホをチェックしなければ気がすまない、常に情報を受け取り発信しなければいられないような状態は、すでにかなり危険な状態です。
 もし何もやる気がしない、やりたいことがないからスマホを見てしまうという場合は、何もせずにぼうっとする時間を作ったほうがいい。1時間でも2時間でも、ただ座って、目を閉じて、瞑想する時間を作ることをお勧めします。いらない情報を頭の中から追い出せば、自然と本当にやりたいことが出てきます。

佐藤 優 さとうまさる 作家。1960年生まれ、東京都出身。元外務省主任分析官として情報活動に従事したインテリジェンスの第一人者。“知の怪物”と称されるほどの圧倒的な知識と、そこからうかがえる知性に共感する人が多数。近著に『見抜く力――びびらない、騙されない。』など。

④金融資産はリスク分散と塩漬け戦法。
 以前も述べましたが、余剰資産がある人は塩漬けにする良い機会です。株、ビットコイン、金を買って、5年寝かすことができれば、まず損をすることはないと思います。変動があるものですから絶対はありませんが、リスク分散という意味でも複数の投資を考えたほうがいい。
 初歩からマネー系の勉強がしたい人は、いま売れている『本当の自由を手に入れる お金の大学』(両@リベ大学長/朝日新聞出版)がいいかと思います。非常に堅実な方法が実にわかりやすく書かれています。

⑤資格の勉強をするなら簿記と数学検定。
 資格や語学の勉強は必要に迫られていないのであればしなくていいと思っています。ただ何かを学びたいのであれば簿記はいいですね。日商簿記2級に合格する知識があれば、企業価値の計算ができるようになりますし、社会の流れもだいぶ読み取れるようになる。
 もう一つは、数学検定です。まず中学生までの数学でこぼれているものがないか、数学検定3級でチェックします。それから準2級で高校1年生、2級で高校2年生くらいまでに習う範囲をちゃんと押さえておく。なぜなら今後はIT化、ビッグデータの取り扱いで統計の知識が非常に重要になってきます。高校2年生程度の数学知識がないと、情報の精査すらできない。理系出身でも数学系、工学系以外は学び直しの機会を設けたほうがいいでしょう。これから数学を学び直すのであれば、長岡亮介さんが社会人向けに書いた『高校数学の教科書』(旺文社)をおすすめします。長岡さんがオンライン時代の学び方について書いた『君たちは,数学で何を学ぶべきか』(日本評論社)もいい本です。

⑥空き時間には静かにこの先を考える。
 停滞は決して悪いことばかりではありません。これまで20代、30代のビジネスパーソンは、仕事に追われるように前進せざるを得ない人が多かった。なかなか立ち止まって考える機会はありませんでした。けれどこの先、特にコロナが落ち着いた後の2年、3年先は時代が激変します。停滞していた物事が急速に動き出す。会社は相当再編されるでしょうし、社会の仕組み自体も確実に変わる。業界を問わず、この時代に生きる誰もが様々な選択や決断を迫られるでしょう。
 誰でも、生き抜く力は持っています。“人間の労働力が価値を生み、労働力が商品の価値を決める”という労働価値説に立てば、人は自分一人が食べていく以上の価値を作り出す力を絶対にみんな持っている。だからこそ人類史は発展してきました。その原点を押さえておけば、社会が変わろうが会社がなくなろうが、何も怖くはありません。その上で、自分はどう働きたいのか、どのように生きたいかをしっかり考えておくのに、いまはとても良い機会だと思います。
 仕事や住環境に違いはあれど、時間は誰にも平等です。在宅時間が長くなるほど、時間の使い方で1日24時間の価値が大きく変わってしまいます。長期戦の緊急事態は、ただでさえストレスの多いもの。学ばなければと焦るのは逆効果です。自分への投資、あるいはセルフケアの一環として、楽しみながらよりよい時間の使い方ができるといいですね。

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