今回は、いつもと趣を変えた特別版。佐藤優が「未曾有の事態の心がまえ」を語る。
「コロナ疲れ」しているみなさんをさらにうんざりさせてしまうかもしれませんが、新型コロナウイルス感染症の収束に、1年半はかかると私は見ています。これまでの感染症ワクチン開発の経緯から、有効なワクチンの開発に1年、それから普及に半年。長期戦です。
感染拡大を抑えるために外出自粛や、それに伴う企画やイベント等の延期・中止が続いています。学校の休校・会社の休業、リモートワーク化などで、ライフスタイルが大きく変わった人も多いでしょう。
私自身、3月25日に小池百合子都知事が「不要不急の外出」自粛を要請してから、毎日のようにあった打ち合わせや会食が全くなくなりました。大学の授業も遠隔。通院以外では家族としか会っていません。
それでもさほどストレスとは思ってはいません。そこで今回は、この緊急事態を少しでも穏やかに、したたかに生き抜くヒントをお伝えしたいと思います。
①まずは自己肯定、それから他者にも思いやりを。
いま世界中の誰もが、これまでの人生で経験したことのない未曾有の事態に直面しています。さらにこの緊急事態がいつ収束するのか、収束したあとの世界がどうなるかもわからない。そんな状況下において、これまでと同じように過ごすのは無理だと思ったほうがいい。いままでできていたことができなくても、悲観することはありません。
仕事や家事に手を抜けない、真面目な人ほど焦ってメンタルをやられます。余裕がなくなってきていると感じたら、むしろ自分はこんな大変な中でよくやっている、と自己肯定するところからスタートしてほしい。
そのうえで、家族やまわりの人にもできるだけ思いやりを持てるといいですね。いまは仕事にまわしているエネルギーを削ってでも、自分や身近な人に使ったほうがいい時期だと思います。
②災害対策をしておく。
買い貯めをする必要はないけれど、今後、起きうる危機に備えた備蓄は必要です。家族が1ヵ月ほど暮らせるくらいの飲料水、米やパスタ、缶詰といった食糧は常に用意しておく。寝る前には風呂に水を張っておく。携帯機器などの充電は忘れないようにしておく。
銀行やATMの時間制限によって、お金が引き出しにくくなる可能性もあります。普段キャッシュレス払いの人も、1週間生活できるくらいの現金を手元に用意しておくと安心です。
③情報の取捨選択をする。
いかに流言飛語に惑わされずに過ごすかが、これまで以上に重要な生活の要素になります。
コロナに関する最新情報を追うのであれば、厚生省、首相官邸、各自治体の公式情報だけを見ておけば十分です。こういった局面で政府や官僚は意外と意図的な嘘をつかない。混乱して誤った情報が出ることはあります。けれど積極的に偽の情報を流すことはない。なぜなら生命に関わる内容でデマを流したら、その人の社会的生命が脅かされるから。エリートは保身のかたまりですから、そんなリスクはおかしません。
佐藤 優 さとうまさる 作家。1960年生まれ、東京都出身。元外務省・主任分析官として情報活動に従事したインテリジェンスの第一人者。“知の怪物”と称されるほどの圧倒的な知識と、そこからうかがえる知性に共感する人が多数。近著に『メンタルの強化書』『イスラエルとユダヤ人 考察ノート』など。
④国の方針を知っておく。
私は普段、テレビもインターネットもほとんど見ませんが、国家としての方針を知るため、首相の会見中継はリアルタイムで見るようにしています。
なお国家の総理大臣の発言はその国の代表のことばであり、安倍晋三さん個人のことばではありません。そこを取り違えないほうがいい。
いまはどの国も被害を最小減に抑えようと必死になっている状態です。感情論には意味がありません。
とはいえ新型コロナウイルス対策を機に、世界的にファシズム化が進むでしょう。それが国際社会をどう変えるかは未知数ですが、窮屈な監視社会へ向かう傾向には、自覚的であったほうがいい。情報をうのみにせず、自分の頭で考えることがいっそう重要になってきます。
⑤時間を有効活用する。
私は大学で教えている学生に向けて、すでに1年分ほどの遠隔授業の教材を用意して、これまでの自分の研究の棚卸し作業も始めました。次世代に渡すアーカイブを作りたいとずっと考えていたものの、データが膨大なためになかなか着手できずにいた案件です。
気分転換も必要。さまざまな機関や企業が自宅で楽しめる無料コンテンツを提供していますし、従来の動画配信サービスもいいですね。私はいま仕事の関係で感染症パニック映画ばかり観ていますがみなさんにはおすすめしません。疲れたときには軽いタッチのラブコメディなんてどうですか。最近だとNetflixで配信中の韓国ドラマ『愛の不時着』が面白かった。文在寅政権だからこそ生まれた物語だなと思いながら楽しく観ました。
不安なニュースばかり見ていたら誰でも落ち込みます。夢中になれることや楽しいことに目を向けたいですね。
⑥緊急事態収束後の世界について考える。
私はいまそうして粛々と過ごしつつ、コロナ収束後の世界について考えています。緊急事態が半年以内で収束すれば、一時的な混乱期として社会は元に戻ろうとします。しかし1年続けば常態化し、非日常が日常になる。
今後は家で過ごす時間が増え、それに対応するサービスの需要が増えるはず。例えば外食店ならUberを使った出前システムを導入するなど、新しい工夫が必要になってくると思います。
変わるのはコミュニケーションや経済だけではありません。企業が新卒採用をしなくなり、通年採用が標準となれば、偏差値の高い大学を卒業する意味も、なんのために勉強するのかという意義も変わります。社会のあらゆる価値観が変わる転換期のさなかだと思っていい。
先日、外務省時代から親交のあるモサド(イスラエル諜報特務庁)の元幹部と意見交換をした際に、新型コロナ後の社会は『新自由主義が席捲する中で軽視されていた哲学や宗教に対する関心が強まると思う』という話が出ました。全く同感です。
大量生産大量消費の経済システムは崩れ「ほんとうの幸せとは何か」「いかに生き死ぬべきか」といった内面的な問いへの関心が高まっていく。これまでの価値観が大きく変わる世界で自分はどのように生きたいかを考えることも、とても良い時間の使い方ではないかと思います。
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