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 まだ肌寒い春の日、グリーンがかった金髪を元気に揺らし、三島監督は取材場所に現れた。新作の映画『幼な子われらに生まれ』(8/26公開)を完成させたばかり。達成と高揚の残り香を漂わせている。『幼な子~』は1996年発表の重松清氏による同名小説の映画化だ。20年を経て作品に出合った経緯を聞いた。
「はじまりは6年前。尊敬する脚本家の荒井晴彦さんに書いてもらいたいと、ある企画を持って荒井さんを訪ねたんです。でも開口一番『しあわせのパン』の監督がオレに何の用事あんだよ? って言われました(笑)」
 それでも、一緒に朝まで飲んだという。
「好きな映画や小説の話をしては飲み、一軒目の店を出ると何も言わずに次の店へ。結局、朝8時ごろまで飲みました。空もすっかり白んできたときに荒井さんが『こんなホン書いてるんだけどやってみない?』と。それが『幼な子われらに生まれ』の脚本でした。荒井さんは重松さんの原作が出てすぐに脚本を書いていたんです。でもずっと映画化が実現しなかった。そこに私がたまたまやってきたんですね(笑)」

 主人公の田中信は40歳の商社マン。キャリアウーマンの元妻と別れ専業主婦の妻と再婚し、彼女の連れ子である娘2人のよきパパになろうと奮闘。そんな矢先、妻が妊娠し、家族に変化が訪れる。
「脚本を読んで、撮りたいと思いました。ただ、主人公の家庭だけが描かれていたので、彼がどんな仕事をしているのか、生活を描きたいと。そして『自分がやる限りは女性の造詣をもっと深めて書いてもらえませんか。そうしたら賛同者を募って、お金を集めます!』と荒井さんにお願いしました」
 原作に惹かれた理由は、映画の英題にした「Dear étranger(親愛なる異物)」に現れている。
「ちょうど家族や父性というものに自分自身が向き合いたいという時期だったんだと思うんです。私は基本的に家族は“異物同士の集まり”だと思っています。この主人公の家族はステップファミリーで、さらにお互いが異物だと思い込む可能性の多い集まり。その状態でギリギリなんとか形を保とうとしているのに、そこにさらに赤ん坊が登場しようとする。均衡が崩れ始めるんです。そのときの異物同士の化学反応がとてもおもしろかったんです」












 引いてみると、自分だって社会のなかの異物だと監督はいう。
「そもそも社会全体が異物同士の集まりなんですよね。生命が誕生するということは、ひとつの異物がこの世に生まれ、それがほかの異物とどういう化学反応を起こして、最後に死んでいくか、ということなのかなと思います。その化学反応をつぶさに記録したいと、16ミリで撮ることにこだわった。異物は決して排除するものでも、できるものでもなく『親愛なる』ものに成り得るのか。そういう視点で描きたいなと思ったんです」

 主演は浅野忠信に決めていた。
「主人公は最初にキャリアウーマンと結婚し、でも『家にいてほしい』『出張に行ってほしくない』という男で、その女性と別れたあと、専業主婦と再婚する。この役はどこまでも繊細な人にやってもらいたかった。すぐに浅野さんが浮かびました。もともと、浅野さんはいつかご一緒に作りたいと願っていた役者さん。今までの役柄と違う“普通の、でもどこか浮遊しているダメな男”を演じてもらいたかったんです」
 妻・奈苗役は田中麗奈。元夫からDVを受けて、浅野演じる田中と再婚する。子育てをしながら夫を待つ妻の人物像には苦労したという。
「結婚もしてない、子どももいない自分からもっとも遠いキャラクターですしね。奈苗は自分では何も決められず、何かが起こると夫に『ねえ、どうしたらいい?』ってつきまといます。それでも彼女にも、そうしている理由がある。考えていない訳でもなく、自然の摂理に決して抗わない、誰よりも生命力があふれている。それを描き込みながら、多面体の、リアリティある『こういう人、いるよね』という人物像を田中さんが見事に演じてくれました」












 奈苗の元夫・沢田役は宮藤官九郎だ。もともと原作にも脚本にも、沢田の仕事などの背景についてはあまり描かれていなかった。
「日常よりも非日常を願っている男です。だから誤解をおそれず言うと、原作を読んだ時、実は私が一番、共感したのはこの男なんです。この沢田という男はどういう人生を送ってるんだろう? もっと掘り下げたい、と思った。彼はなぜ、そんなにも非日常を求めているのか」
 三島監督が思いついたのは「挫折した料理人」という沢田の過去だった。
「ややクリエィティブな仕事がいい、と思っていました。日常の連続よりも一瞬の非日常を望んでいる。だから、日常が続くとイライラして来る」

「彼の場合は『家で待っている女』が日常の象徴に思えた。台詞でも言ってますが、沢田は日常の象徴である奈苗という女に嫌われたくてDVをしてるんです。そして、信の中にも非日常を求めてしまう故のいらだちがあり、沢田と出会うことで彼自身の押し殺していたその部分があぶり出されていく。例えば私自身暴力も振るわないですし、誰かを責めたいという欲求もありません。ですが、非日常を求めているという部分は共感するし、理解できます。とにかく、まずは、自分がその人間を知る、想像する、あぶり出す、その過程を大事にしたいんです」

三島有紀子

三島有紀子 みしま・ゆきこ 大阪市出身 18歳から自主映画を監督・脚本。大学卒業後 NHK 入局。数々のドキュメンタリーを手掛けたのち、映画を作りたいと独立。最近の代表作に『繕い裁つ人』『オヤジファイト』『少女』、 WOWOW ドラマ『硝子の葦』(原作・桜木紫乃)など。浅野忠信主演の最新監督作『幼な子われらに生まれ』が 2017 年8月26日に公開。

 こうして原作にも描かれていないところを想像し、解釈を広げ、人物の輪郭を確かにしていく。それが「映画作り」なのだと監督はいう。
「映画は、世の中に存在もしない人間を生んでいく作業なのかなってよく思います。だから、そこをつらつらと考える時間が一番おもしろいです。常にそんなことを考えています。この男はどうしてこんなことをするのか、をずっと想像しています。それぞれの人生をイメージしている。最終的には、役者さんが、それぞれの人物を実際に存在しているかのように演じてくださり、一人の人間を作ってくれる。だからこそ、面白いと思うんです」

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