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 三島監督の最新作『Red』がついに完成した。主婦・塔子(夏帆)がかつての恋人・鞍田(妻夫木聡)との再会で自分に目覚めていく。実力俳優による純度の高いラブストーリーだ。
「孤独なもの同士が出会い、スパークする瞬間が好きなんですかね。原作を読んだとき、塔子と鞍田はそういう二人だと感じました」
 原作は島本理生の同名小説。そこに、三島流の解釈と創造がされている。塔子には家庭があり、鞍田には建築家という仕事の場がある。なのに、どこか居場所がない。そんな二人が再会し、止められない恋に落ちていく。描きたかったものはシンプルだと監督はいう。
「物事をシンプルに考えた時に、何が残るのか…と自分自身よく考えるのですが、好きなテーマなのかもしれません。鞍田には自分のために建てたい家がある。そしてそれが10年前に出会った塔子が描いたスケッチにつながることに気づく。自分の原点を共有できている塔子に、彼はもう一度つながりたいと思うんです」

 セリフは少なく、状況の説明も最小限にそぎ落とされている。鞍田と塔子がどうやって出会ったのか? 互いの何に惹かれたのか? 観客は二人の演技からそれを読み取ることになる。
「実は鞍田と塔子が10年前に出会った場面も撮っているんです。でも、あえて削りました。鞍田はかつて妻がいて塔子を捨てた。でも心の底ではずっと彼女を探し求めていた。そこの部分さえ伝われば、説明はいらないように思いました。もともと私の中で鞍田はあまり話さないイメージだったんです。でも妻夫木さんは本当に『上手い』方なので、セリフがあればそれを自然に言ってくださる。十分に成立するんですが、でもそれだとやっぱり言わんとすることが“濁る”感じがしました。妻夫木さんの芝居力だからこそ、むしろセリフでなく表情だけで勝負したいと」
 削っていくこと。それは二人の愛を「純化」していくプロセスとして必要だった。










 映画はキャスティングで7割が決まると監督は言う。
「まず夏帆さんと妻夫木聡さんの二人をキャスティングできた段階で豊かな映画になる、と思いました。夏帆さんは『ビブリア~』でご一緒して、信頼のおける方だとわかっていた。妻夫木さんは、圧倒的な才能を持ちながらも死ぬ気で努力される方ですから、いつか一緒に映画を作りたいとずっと想っていた方です」

「鞍田は、ストイックで孤独で、上っ面を一枚一枚剥がしていき本質を見いだしていくという愛し方の男。今まで観た事のない妻夫木さんを見せてもらいたいという気持ちも強かったし、きっと実際に夏帆さんの新しい面を引き出してもくれると考えたんです」
 塔子を取り巻く男たちは、ほかに二人。一人は塔子の夫・真役の間宮祥太朗だ。
「間宮くんは人を愛することも愛されることも素直に出来る人。自分が愛されることに疑いを持っていない。夏帆さんもおっしゃっていましたが、それは一つの品だと思うんです。それが真のキャラクターにハマった。そしてそういう人物が、塔子のように愛された経験が薄く、自己肯定感のない人間からすると、避けられない歪になってしまうんです」
 もう一人は、塔子に関心を寄せる設計事務所の同僚・小鷹を演じる柄本佑だ。
「佑さんは以前ドラマでご一緒したんですが、とても色気のある方です。今回も塔子の心を最初に解放してくれる人物として、彼の力が必要でした」










 恋愛に絡む場面はワンシーンごとに、どう演出していくかで意見がわかれたそうだ。
「例えば序盤の塔子と夫・真のベッドシーン。どういう体勢なのか? この状態からセックスに移行することもあるのか? スタッフとずっと話し合っていました。自分はそうじゃない、いやこういうこともあるでしょ、とか。」
 恋愛は誰もが想像しやすい題材。だからこそ、おもしろい。
「たぶんスタッフはみんな、どこか夏帆さんや妻夫木さんに恋しながら撮っていたと思います(笑)」

 さらに俳優たちが作品で「恋愛」できるように、事前の準備も怠らない。
「いきなり『今日から恋人同士でお願いします』といっても、難しいと思うんです。なので、妻夫木さんと夏帆さんの関係性を事前に作ろうと思っていた。私が『二人でご飯でも食べに行きますか?』と言ったら、妻夫木さんから『一緒にご飯を作ってみたい』と提案をいただいたんです。マンションの一室のようなスタジオで、実際に二人で料理を作ってもらいました」
 昨今では珍しいほど「愛」を真っ直ぐに描いた作品でもある。
「言葉にすると少し恥ずかしいのですが、自分はやっぱり人間って“愛する”ために生まれてきてるんじゃないかって思うんですよね」

三島有紀子

三島有紀子 みしまゆきこ 大阪市出身。監督作『幼な子われらに生まれ』('17年)で、第41回モントリオール世界映画祭審査員特別賞、第42回報知映画賞監督賞、第41回山路ふみ子賞作品賞を受賞。他監督作品に『しあわせのパン』('12年)『繕い裁つ人』('15年)『少女』('16年)などがあり、台湾金馬映画祭・韓国全州国際映画祭・ニューヨークJAPAN CUTS・フランクフルトNippon Connection等、各国の映画祭への招待や、韓国・台湾での公開も果たしている。

「“愛される”ことも大事だけれど、でもやっぱり愛せるものがあるって幸せなことかなと。愛する相手は人でも、仕事でもいい。深く愛せるものをどれだけ持てるかで、人は人生の幸福を感じられるんじゃないだろうかと自分は思います。これは塔子と鞍田という男女が、自分の本当の居場所と、愛を見つける話です。もちろん道徳的には否定されてしまう二人ですが、二人を見つめていると、“自分の人生”を生きる権利は誰にでもあるのだろうと感じます」
 人生で二度とないかもしれない愛に出会ってしまったとき、人はどう行動するのか。それまでの自分を、安全な居場所を捨てることができるのか――? そんな男女の刹那の火花が、確かに映画に映っている。

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