FILT

 2020年6月、ドイツ・フランクフルト日本映画祭「Nippon Connection」で行われた複数の女性の監督によるトークセッションにリモートで参加した三島監督は、あるメッセージを発信した。
「コロナ禍において、今後映画は撮れるのか、果たして私たちはどうなっていくのかという不安に包まれていました。実際に映画業界は苦しい状況でしたし、自分の仕事も周囲の人達も大きく影響を受けていました。確かにいまやりたいように映画を作ることは難しい。けれど、もっと長い目で見れば、きっと自分たちが映画を作りたいという気持ちや、作りたい作品があるということは変わらないから、そんなにこの状況を悲観的に思ってないんです。それさえあれば、新しい世界の扉は開くと思っている、という話をしたんです。そうしたら、ある監督から“人に会うことができない状況が続き、これからの制作に不安やもどかしさを抱えていたのですが、三島監督の映画監督としての肝の座り方に希望をもらいました”と言っていただいたんですね」

 10月に始動したソニー・ピクチャーズエンタテインメントによる短編映画プロジェクト「DIVOC-12」も希望を与える一助となった。三島監督のチームは2名の監督がすでに決定。
「プロジェクトがスタートして、映画を撮る機会も生まれ、さらに公開も決まっているというのは、短編とはいえ映画監督にとって希望ですよね。実際クランクインの日にチーフ助監督が「三島組クランクインです」と言ったとき、何度もイメージしてきたこの日を迎えられたんだなと、新しい扉が開いた感じがして心が引き締まりました。でも、このプロジェクトを今回だけで終わらせてはいけないと強く思っています。私を含めた3名の監督がそれぞれ3人を選ぶので、9人の新人監督が映画を撮ることができる訳です。これを継続して、毎年9人の新しい映画監督が新作映画を発表できるという状態になったら、さらに大きな意味が出てくる。さまざまな監督が、いろんな映画を発信していくことができれば、例えば十年後、日本映画界はより幅を広げていける気がしますし、自分自身も含めて未来への希望も持てると思うんです」

 そして12月、「DIVOC-12」と平行して、もう一つの映像作品も動き出した。
「こちらの準備が短編映画プロジェクトと完全に重なっているので、かなり忙しい状態ですが、短編の他の監督たちの脚本やキャスティングの相談をし合ったり、オーディションもリモートで参加したりと、みんなで一緒に作っています。少人数で何でもやるという体制は、かつて自主映画を撮っていた頃を思い出しますし、助監督を経て『作品を撮りたい』という情熱や希望を持っている監督たちと接することって、自分の希望にもなったりしますから勉強になります」

 人と接することが希望になる。三島監督は、11月のある出来事を振り返る。
「お向かいに住む70代半ばの女性が建物の下で買い物袋を重たそうに持って立ちすくんでいたんですね。尋ねるとぎっくり腰になったみたいなので、買い物袋を持って部屋にお連れしようとしたら『そんな、バチがあたります』と。なので先に行って、その女性の部屋のドアノブに買い物袋をかけておいたら、しばらくしてチャイムが鳴り、『たどり着きました。ありがとうございます』とおっしゃるので、ドアまで手を引いてあげたんです。そうしたら、顔をくしゃっとさせて、『笑ってるんじゃないんです』と涙ぐまれたんです。そして『こんな顔、お恥ずかしいから見ないでください。お気の毒なことをさせてしまった』と。全然普通のことだったんですが、女性と別れてから、私も涙ぐんでしまって」

「先日もお会いできて、『大丈夫ですか?』とお声をかけたら、『まぁ、今日も素敵』と言ってくださって。『気にかけてくださってありがとうございます。もう年だから、いろいろとね』とおっしゃるんですけど、毎日とても素敵に髪を整えられ、口紅をひいて、スカーフを巻き、ブローチを着けている、とってもお洒落な方なんです。私なんてジーンズにノーメイクなのに(笑)」

「私が『もっと甘えてください』と言ったら、女性も笑顔で、『私のほうにも甘えてくださいね』っておっしゃっていただいて。どことなく大好きなヴァネッサ・レッドグレイヴに似ている方なんです。東京でまさかそんなご近所付き合いが始まるとは思ってもいなかったんですが、例えば、女性の先輩としてその方にアドバイスを伺うこともできるわけですし、この出会いは、私にとっても希望なんだと思ったんです」

三島有紀子

三島有紀子 みしまゆきこ 映画監督。大阪市出身。2017年の『幼な子われらに生まれ』で、第41回モントリオール世界映画祭審査員特別賞、第42回報知映画賞監督賞、第41回山路ふみ子賞作品賞など多数受賞。その他の主な監督作品に『しあわせのパン』『繕い裁つ人』『少女』などがある。最新作『Red』(出演・夏帆/妻夫木聡)のBlu-ray&DVDも発売中。台湾での公開、韓国全州映画祭、ベルギーゲント国際映画祭など多数の映画祭で上映され、Asianmoviepulseでは、2020年BEST20の9位に選出された。

 コロナ禍では新しい出会いや巡り合わせがたくさんあった。
「もちろん悔しいことやつらいことはたくさんあります。でもたぶん、コロナじゃなかったら、毎日余裕もないので、その方とも出会わなかったかもしれません。仕事に関しても、“映画命”なわけですけど、新聞や雑誌でのエッセイ連載や演劇の作・演出のお仕事をいただいたりして、幅が広がってきている。新しい世界の扉も次々に開いていると実感しています」

CONTENTS