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 『Red』が公開し、上映が続く中で映画館が閉鎖。5月には次回作の撮影に入る予定だったが、それも3月末には延期が決まった。
「今回の作品は、地方ロケでしたから地方のみなさま、そしてスタッフや役者の命を考えて、みんなで話し合って製作委員会により延期が決定されました。改めて安全な状態になったら集まろう、と」
 今、映画人として何ができるのか。刻々と社会状況が変わる中で、三島監督が感じていることを語った。
「人は得体の知れない物に対して不安や恐怖を作り上げてしまうものだろうし、簡単にそれらに心が覆い尽くされてしまう気がします。心の拠り所って何だろう、何が生きていくことを支えてくれたんだろう、支えてくれるのだろう。その視点みたいなものを映像で提示していくことがあらためて必要だろうなと強く感じています。そして、映画を観る行為……パチンと指を鳴らして始まるようなお楽しみの時間がとても大切だと」

 現在、インディペンデント映画の定額配信サービス「Cinema Discoveries」では、コロナウイルスの影響で困窮しているミニシアターと連携し、映画10作品を劇場再開までの期間限定で配信中。10作品の中には三島監督の『幼な子われらに生まれ』もラインナップされている。そして、その収益は劇場に還元される。
(※詳しくは→https://cinemadiscoveries.co.jp/
「映画はそもそも上映してくださるみなさま、見てくださるみなさまがいて存在できるもの。それは映画館があって成立してきたし、たくさんのお客さまと映画館が、我々映画人や映画作りを育ててくれているんです。ミニシアターや小さな映画館は、独自に上映作品や上映期間を決めてくれる。そうやって作り手を応援してくれているんですよね。だから残さなければならないという強い気持ちがある。それですぐに、このネット配信と劇場との連携という取り組みを応援したいと思いました」

 2017年に三島監督は、報知映画賞監督賞のスピーチで次のように語った。
「これから、どんな時代になるかわかりません。もしかしたら表現していく上でいろんな制約が増えたり、自由の幅が狭くなるかもしれません。ですが、先人の皆様が突破口を見つけてきたように、私自身もなんらかの突破口を見つけて表現していきたいと思います」
 その想いは今も変わらない。ただ、と三島監督は続ける。
「今は、一気に何も見えない世界に入ってしまいました。生きていけるのかどうかさえわからない世界です」

「でも、映画で描かれる物語はいつも、先が何も見えない所から始まっている。想像もしていなかったことが起こり、入ったことのない世界に迷い込む。そんなとき、あの映画の主人公はどう生きたか。映画は“リアルな夢”。いつだって生きていく人間が描かれる。例え死ぬことがあったとしても、自分の好きな映画は、死ぬまでの時間を必死に生きていこうとしている無様な人間が描かれるのだから。そして、映画が作れない時代、かつての映画人はどうやって作っていたのか。その2つをもう一度辿り、この見えない世界を生きていきたい。その中で、改めてどんな物語を発信するのかを考えたいと思います。映画はずっと我々の生きていく時間、生活、人生と共に存在していくから」
 そして、三島監督は「今まで以上に“私”ではなく“我々”という思考でいたい」と語る。
「我々にとって共通の喜びはどこにあるのか、求めるものってなんだろう。それぞれが提示して、希望する世界を想像して大切にしたい。何も見えないこの世界の中で、我々はちゃんと思考して、目の前の“夢みたいなリアルな世界”に立ち向かうしかないと思うんです」

 今後、経済的なことも含めて本当に映画を作れるのか?と湧き上がってくる不安を、ある映画界の“友人”が三島監督に打ち明けたと言う。その時、監督はこう励ました。
「想像しよう。それも、できるだけ細かく。撮影初日、制作部が探してきた場所と美術部が作った空間で、演出部が役者を紹介する。照明部は灯りを当てて、撮影部がキャメラ位置を決めて、私がスタートをかけて、カットをかける。OKを出して、演出部と目を合わせる。次のカットを撮り、その日の撮影が終わり、私はプロデューサーと目を合わせる。『クランクインできたね』って」

「映画って、いろんな問題をみんなで考えて、解決しながら作っていくんです。これまで楽に作れた映画なんて1本もないし、これからもきっとそう。だけどスタッフみんなと知恵を絞れば、新しいものが生まれる気がしています。とにかく、できる限り想像することで、未来を感じることができるのではないかと思うんです」
 なぜ映画を作るのか。誰のために映画を作るのか。4月、誕生日を迎えた三島監督は自身のSNSにて、お祝いをくれた人へ感謝とともにそのメッセージを伝えていた。
「その日、妻夫木聡さんや田中麗奈さん、今まで一緒に映画を作ってくれた方から“次回作を”というメッセージをいただき、とても有り難くて。夜が更けてもなかなか眠れず、今生まれている自分の感情や皆の感情を想像していたんですね」

三島有紀子

三島有紀子 みしまゆきこ 大阪市出身。監督作『幼な子われらに生まれ』(’17年)で、第41回モントリオール世界映画祭審査員特別賞、第42回報知映画賞監督賞、第41回山路ふみ子賞作品賞を受賞。他監督作品に『しあわせのパン』(’12年)『繕い裁つ人』(’15年)『少女』(’16年)など。最新作の『Red』(出演・夏帆/妻夫木聡)が全国の映画館/ミニシアターで公開中。

「そしたら、朝の4時に泣きじゃくる女の人の声が遠くから聞こえてきたんです。思わずベランダに出て、長く聞こえてくるその泣き声に寄り添いたいと思いました。しばらくすると段々空が白んで夜が明けてきました。その空を見ていて書いたんです」
“私は、きっと、忘れないと思う。みなさんが、くれた、愛情溢れる言葉のひとつひとつ。私は、きっと、忘れないと思う。朝の4時に泣きじゃくる女の人の声がベランダ越しに聞こえたこと。だが、やがて空は白んで朝を迎える。だから私は、この空を見続けているように、見つめ続けたいと思う。いま生まれている、哀しみも怒りも喜びも楽しさも。自分の中に生まれるもの、皆さんの中に生まれるもの、すべて、逃さないように、そらさずに、見つめたいと思う。その時代に生きた人の想いそれが、映画作品に注ぎ込まれる。その志の中でこれからも生きていくしかないのだよね、と。”
 表現者としての宣誓のようにも聞こえるこれらの言葉。三島監督は、すべての人の想いを掬い上げるようにこれからも映画を作り続けるのだろう。

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