三島監督の手掛けた映画『Red』が『THE HOUSEWIFE』というタイトルで、3月9日よりフランスの各地で上映されている。
「女性の自立を描いた作品であることを打ち出していきたいというフランスの配給会社からの強い要望があり、このタイトルになりました。もちろん、そういうふうに観ていただくことが目的でもあったのですが、とても新鮮でした。最新のジェンダーギャップ指数だと日本は156カ国中120位で、フランスは16位です。120位の国の女性の自立を、16位の国の方たちにどのように観ていただけるのか、そして、どういった思いを抱くのか、とても興味深いです」
フランスは三島監督が敬愛する映画監督たちの国でもある。
「子供の頃から作品に触れていたフランソワ・トリュフォー監督と、尊敬しているアニエス・ヴァルダ監督のお二人を生んだ土地で自分たちの映画が上映されるということに、言葉にできない緊張と喜びがあります」
一方、改めてその偉大さに気づいた日本の映画監督もいる。三島監督は、1月に京都で行われた「京都ヒストリカ国際映画祭」のトークショーに参加。国内外の歴史映画を集めた映画祭でトークショーの題材となったのは、1982年公開の映画『鬼龍院花子の生涯』だった。人間の情念を描き続けた五社英雄監督の代表作だ。
「当時、莫大な借金を抱えて、仕事も会社も辞めさせられた五社監督の起死回生の作品で、夏目雅子さんが患っていたバセドー病を押して出演された映画でもあります。技術部の仕事ぶりも役者さんたちの芝居も素晴らしい作品なんですけど、2人が命を懸けて挑んだ映画だけあり、それらの想いが映っていると感じ、今の自分にも必要な作品に思えました」
『鬼龍院花子の生涯』は、大正と昭和の2つの時代を舞台に、一人の侠客を取り巻く人間模様を描いた任侠映画だ。
「自分たちの地平につながる同じような人たちに共鳴するのも映画の一つの見方だと思いますが、この映画のように、圧倒的で個性的な人物像を前にすると“自分はこうは生きたくない”とか“この人みたいに生きたい”とか、人生を選択する一つの指針になるのかもしれないと思うんです。『鬼龍院花子の生涯』のような、一つの生き方の尺度となる破天荒な人物をリアルに描くというのは、今の時代ではなかなか難しく、時代劇という世界だからこそ可能なのかもしれません」
「五社監督の映画は、音の付け方がもともと好きでしたが、今回、脚本と資料を読み、現場で何が変わっていったのか、少し理解できたんです。例えば有名な『なめたらいかんぜよ』という台詞は脚本になく、現場で監督が夏目さんに耳打ちされ、テストせずに撮影したそうです。脚本の高田宏治さんは、その台詞を夏目さんの演じた松恵が子供時代に聞いて衝撃を受けるシーンは書かれていて、それが生かされていった形です。そういう映画作りの連携プレイを学べた事も感謝しています」
映画祭では、こんなうれしい再会も。
「『繕い裁つ人』にも出ていただいた峰蘭太郎さんがトークショーを見に来てくださいました。東映京都撮影所の東映剣会に所属している俳優さんで、私が助監督のときから関わりのある方なので、とてもうれしかったですし、また御一緒に映画を作りたいと思いました」
東映京都撮影所は、三島監督にとっても思い出の地。助監督として過ごし、ドラマの監督デビューを飾った場所でもある。
「昔はフィルムで撮影していたので、“ラッシュ”と言って、毎日その日撮ったものを上映して、スタッフ全員でそのラッシュを見ながら、明日の撮影について話し合っていたんですね。ラッシュをかける映写技師さんは撮影所ごとにいらっしゃって、私が東映京都撮影所ではじめてテレビドラマを撮ったときの映写技師の東敏亘さんもトークショーを見に来てくださいました」
三島監督がはじめて監督したテレビドラマのラッシュは、テレビ局の関係者をざわつかせたという。
「よくわからないんですが、ドラマっぽくない、まるで映画みたいだと言われ…。撮りたいように撮れとプロデユーサーが言ってくれていたので、当時は思い切り撮りたいように撮ってしまい…局のお一人が、しばらく無言でいらっしゃったんですね」
三島有紀子 みしまゆきこ 映画監督。大阪市出身。2017年の『幼な子われらに生まれ』で、第41回モントリオール世界映画祭審査員特別賞、第42回報知映画賞監督賞、第41回山路ふみ子賞作品賞など多数受賞。その他の主な監督作品に『しあわせのパン』『繕い裁つ人』『少女』、短編映画『よろこびのうた Ode to Joy』『IMPERIAL大阪堂島出入橋』などがある。3月9日より『Red』(仏タイトル『THE HOUSEWIFE』)がフランスで劇場公開 。
【公式HP】https://www.yukikomishima.com
「でも、その映写技師さんは“ええ写真やないか!”って楽しそうに笑ってくれたんですよね。それが救いでした。まだ何もわかっていなかった自分をなんとなく導いてくださったり、面白がってくださった方たちと再会できて、ふるさとに帰ったというか、原点に戻れた気がした映画祭でした」
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