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 観た人が忘れられないシーン、記憶に残る一枚の絵画のようなワンカット。そういうものをいつも目指していると三島監督は教えてくれた。逆に、原作を読んだときに1カットも映像が浮かんでこないものは、映画にすることはできないという。
「原作を映画にするかどうか考えるときに、自分の中の条件の一つにするのが、"映像が浮かぶかどうか"ということなんです。1カットだけでいいんです。これだっていうキメの映像が浮かべば、それは映画化したほうがいいんじゃないかって」
 10月8日に、2人の女子高生の"闇"を描いた最新作『少女』が公開される。原作は湊かなえの同名小説。この小説を読んだときにも、監督の頭の中にはある映像が浮かんでいた。
「映像が鮮明に浮かんだんです。原作の中では、2人が町中を走っていき、その延長線上にある公園で語り合うシーンなんですが、私には、とても綺麗な夕暮れの水辺で、それこそ絵画のような光の中を2人が走っていく映像が浮かんだんです。これはもう、絶対に撮らなければいけないと思いました」

 それは主人公の女子高生2人が走るシーン。物語のクライマックスともいえる、重要な場面だ。しかし、そのシーンを撮影するには「スカイライン狙い」と呼ばれる太陽が沈む直前の、日が暮れ始めてすっかりと暮れるまでの絶妙な時間帯を狙わなければいけない。ところが撮影日の天候は曇り。スケジュールの都合もあり、撮影は決行されたが、やはり思った通りの映像を撮ることはできなかった。
「あのカットは、2人の意思を力強い映像で理解させないといけない大事な場面。曇りでもそれなりに綺麗に撮れているんですけど、思い描いていた力強い美しさじゃなかったですし、もっといい表情が撮れるはずだ、と悔しくて。キメのショットとしては弱いんです。で、何日か考えて、スタッフのみんなに『やっぱりあのシーン、もう一回撮ったほうがいいと思うんだけど』って言ったんです。そうしたら、みんな『そうですね、撮り直しましょう』って言ってくれて」
 スタッフ、キャスト全員の意見が一致。日を改めて、再度、撮影が行われることになった。










「夕暮れだから、明るさや空の表情が刻々と変わっていくんです。待ちすぎると、もう真っ暗になってしまうんです。本当に一瞬。その一瞬の間に、光の都合、カメラを乗せて走っている車の動き、それからもちろん2人のお芝居、すべてがうまくいかないといけない」
 ギリギリの中での撮影は成功。息をのむような美しいシーンが完成する。
「勝負カットというと、ちょっと軽く聞こえるかもしれませんが、そのシーンを感情が揺さぶられるような、映画全体の強度を高めてくれるような1カットで表現したかったんです。本当に良い日でした、あのカットが撮れた日は」

 『少女』の主演を務めるのは、本田翼と山本美月。その走るシーンを筆頭に、彼女たちも、全身全霊で全ての撮影に臨んだ。
「本田さんに関しては、今まではニコニコした役が多かったんですが、今回は、いつも不機嫌そうな文学少女の役をやってもらいました。山本さんもそうですけど、2人の新しい顔を見せるというのも自分の目標にあったので」
 映画は、まさしく2人の存在感が全面に出た物語になっている。夕暮れのシーンと同じく、三島監督は彼女たちのそんな一瞬の季節を映像として切り取ってみせた。
「本田さんも山本さんも若くて、今とても人気があり、キラキラと輝いている時期ですよね。本物のキラキラしている時期を映像に焼き付けることができるというのは、映画監督として幸せなことだし、今の輝きは今しか撮れないものだと思います。しかも、そのキラキラしている子たちが、闇を抱えた女子高生を演じるというのがいいのかなと思ってお願いしました。すごく輝いている子が闇にハマっているほうが面白いと(笑)。その方が観ている人は寄り添えると思うんです」













 主人公こそ2人の女子高生だが、映画は決して少年少女だけに向けられてはいない。大人として、父として、母として――様々な視点で、2人に思いを馳せ、寄り添うことができる。また、夢をあきらめた国語教師や、女子高生に屈折した思いを抱くサラリーマンなど、様々な人の持つ闇が描かれているのも本作の特徴だ。
「観た方の中には、アンジャッシュの児嶋(一哉)さんが演じた国語教師に共感してくださった方もたくさんいました。小説家の夢がかなわず、国語教師をやっていて、でも、そこで圧倒的な才能を見てしまい……という」

「それぞれの年齢の人がそれぞれに闇を抱えているので、どの年代の人も何か感じてもらえるところがあると思います。児島さん自身は、完成したものを観て、『怖い! 女子ってこうなの!?』っておっしゃっていましたけど(笑)」
 また、もしかしたら菅原大吉の演じる住宅展示場のサラリーマンに感情移入する人もいるかもしれない。
「菅原さんが演じてくれたサラリーマンは、親子関係がうまくいっていたら、ああいうことにはならなかったと思うんですよね。自分の娘がなぜ自分のいうことを聞かないのか、その関係が悪化したことから、女子高生に屈折した思いを抱く人になってしまった」

三島有紀子

三島有紀子 みしま・ゆきこ 大阪市出身 18歳から自主映画を監督・脚本。大学卒業後NHK入局。数々のドキュメンタリーを手掛けたのち、映画を作りたいと独立。近作に『繕い裁つ人』『オヤジファイト』など。10月8日、死に囚われた女子高生達の、いびつな青春を描いた『少女』(主演・本田翼、山本美月)が公開。

 それぞれが闇を抱え、苦しみ、ある者は罪を犯してしまう。そして、その罪は、因果応報ともいうべき形で返ってくる。しかし、そんな中で唯一、闇を抱えていない人物が映画には登場する。この仕掛も、作品の大きなキーポイントの一つといっていいかもしれない。
「あの人は何も悪いことをしていないのに、辛い思いをしているんです。皮肉なまでに運命を背負ってしまっている。悲しいくらいに翻弄されていて……でも、みんなが憎しみの輪の中にいるのに、その人だけは輪の中にはいない。そんな崇高さ、そして、その結末を見てほしいですね」

撮影/伊東隆輔
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