韓国三大映画祭のひとつ「2023チョンジュ国際映画祭」でワールドプレミアを迎えたドキュメンタリー映画『東京組曲2020』は、一般の観客はもとより、映画関係者からも絶賛された。映画祭に参加した三島監督の印象に残っているのは、こんな声だったという。
「韓国映画界の美術スタッフの方に、コロナ禍でも映画を作る方法があったんだ、と言っていただいたのはとてもうれしかったです。とにかく今の状況を映像として残しておかなきゃいけないという強い思いだけで始めたプロジェクトだったので、そう言っていただいたことで、自分たちはあの最悪なときもちゃんと映画を作ることを考えていたんだな、とあらためて気づかせてもらいました」
また、英語タイトルの「Alone Together」も大きな反響を呼んだ。
「ひとりだけど誰かと一緒にいる、でも誰かと一緒にいても孤独を感じる。Alone Togetherこそ、コロナ禍で色濃く浮き彫りになった感情であり、世界中のみんなの孤独な気持ちを表現している映画だった、とおっしゃっていただいたのも印象的でした」
映画祭では、出演者と共に上映を祝ったという。
「私はみなさんから送っていただいたプライベート映像素材を何度も見ているので、よく知っている気持ちになっていたんですけど(笑)、撮影時は緊急事態だったので、実際にはしばらくお会いしていなかったわけです。ただ今回、映画の舞台挨拶やチョンジュ国際映画祭などで再会して、まるで撮影現場で同じときを過ごしたかのような結束がありました。それはきっと観てくれた方も同じで、“私たち頑張ったよね”というような、コロナ禍を生きてきた者同士の不思議な結束が生まれているのかなと思います」
三島監督は、出演者20名が外出自粛期間中に各自で撮影した映像を組み上げていった。
「オンタイムで起きていることを撮影してくれた方もいれば、実際に体験したことを元に、その様子を再現してくれた方もいます。でも、再現だとしても自分が体験したこと感じたことなので、もう一度感情が戻ってくるのが興味深かったです。再現に付随するリアルがあり、そこから予定調和じゃない展開や化学反応が生まれたりする。そしてラストシーンには共通の出来事を描き、群像劇にしました。そういうこともあってか、コロナが生んだ新しい形のドキュメンタリーだとおっしゃってくださる方もいます」
映画は2020年春の緊急事態宣言下の記録。当時の状況が生々しく映し出されている。
「2023年の今、あの頃の気持ちをわざわざ振り返るのは、辛いことでもあると思うんです。でも一度きちんと“私たち傷ついたよね”と認めてもいいのかなって」
「ただ、観ていただいた方の中には、当時の気持ちを思い出しながらこれからのことを考えた、とおっしゃってくださった方も多くて。このタイミングでみなさんにこの映画をお届けできて、よかったなと思いました。過去のことだけど、みんなが見ているのは未来だった。そのことに私自身が元気づけられています」
三島監督はこれまでの作品でも「記録すること」を強く意識している。『繕い裁つ人』では震災から20年経った神戸の街を、『IMPERIAL大阪堂島出入橋』では取り壊される直前の洋食店を記録した。
「記録したいという気持ちは、映画を撮る動機の大きな部分を占めるかもしれません。今回も、医療現場などではないコロナ禍の普通の生活は記録に残らないかもしれないという思いがありました」
三島有紀子 みしまゆきこ 映画監督。大阪市出身。2017年の『幼な子われらに生まれ』で、第41回モントリオール世界映画祭審査員特別賞、第42回報知映画賞監督賞、第41回山路ふみ子賞作品賞など多数受賞。その他の主な監督作品に『しあわせのパン』『繕い裁つ人』『少女』『Red』、短編映画『よろこびのうた Ode to Joy』(U-NEXTで配信中)など。昨年はイタリア各地で「YUKIKO MISHIMAの世界」が開催された。ドキュメンタリー映画『東京組曲2020』・短編劇映画『IMPERIAL大阪堂島出入橋』が全国順次公開中。新作長編劇映画の仕上げも快調!【公式HP】
「コロナ禍という厳しい状況の中で、なんとか喜びを見出したり、楽しんで生きていこうとしたりする人々の営みすらも、記録に残さないと失われてしまうと思ったんです。コロナ禍は世界中の誰も経験していないことでした。どうなるかもわからない。映画は、そんな先の見えない状況に放り込まれた人たちが頑張って生きた記録なのかなと感じています。10年後や20年後、さらに100年後の人たちが観てどう感じていただけるのか、とても興味があります」
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