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 今年の初夏、洞爺湖に滞在した三島監督は、湖の中心に浮かぶ中島へ向かう船内で、ある年配のご夫婦から目が離せなくなってしまう。
「お着物にショールをお召しの女性と、スーツにお帽子の男性が並んで座ってらして、まるで小津安二郎監督の映画に出てくるようなお二人だと思ったんです。その日は雨で、船にも2、3組しか乗っていませんでした」
 船を降りるタイミングで声をかけてきたのはご夫婦のほうだった。三島監督に同行していたスタッフに、写真を撮ってくれませんかと、カメラを渡してきたのだ。
「洞爺湖には56年前に新婚旅行で来たことがあり、56年ぶりにもう一度来ましたとおっしゃるんです。なんて素敵な時間の経ち方なんだろうと思いました」
 あいにくの雨ということもあり、ご夫婦は屋根のある桟橋のベンチに座って、長いこと二人だけの時間を過ごしていたという。

「一昨年、演出した朗読劇で、小説『しあわせのパン』の一遍でもある『カラマツのように君を愛す』では、お互いがお互いの欠けているところを補完しあいながら、支え合う夫婦の物語を描きました。洞爺湖で出会ったお二人がどういうご夫婦で、これまでにどのような時間を過ごしてきたのかはわかりませんが、人と人や、人と土地が長く一緒にいるということに、改めて思いを巡らせるきっかけになりました」
 また、今年の8月末には香川県の三豊市であるプロジェクトに参加。三豊市では、プロの映画監督や脚本家らの指導を受けながら、地元の中学生が映画製作に挑戦する取り組みを毎年行っており、今年は三島監督らが講師として生徒たちの映画づくりに携わった。

「まず、中学生たちが脚本家の指導を受けながら、1人1本脚本を書いて、その中から映画にしたいものをみんなで2本選ぶんです。脚本が決まったら、2班に分かれて、監督の生徒にはプロの監督が、カメラマンの生徒にはプロのカメラマンがついて、アドバイスをしながら映画を撮っていきます。映画の出演者も全員中学生です」
 参加した中学生は通う学校もバラバラの22人。7月の脚本選びから始まって、撮影期間は8月末の2日間。主な撮影場所は閉校になった小学校の校舎だった。

「みんな最初は撮影の効率を考えて、大変じゃない脚本を選ぼうとしていて。効率を考えるのももちろん大切なんですが、思わず言ってしまったんです。“撮影はどれを選んでも大変。だから、自分達が観たい作品、本当に作りたい作品はどれなのか、で選んでもいいんじゃない? せっかく作るんだし”と」
 選ばれたのは、理想の自分になりたい中学生を描いた『タブレットの秘密』と、進学前の中学生同士の複雑な人間模様を描いた『木苺の箱庭』の2本。
「『木苺の箱庭』は尺が25分くらいあったので、とにかく撮りきることも意識しました。プロでも2日間で撮るのは難しいボリュームですから。当然、みんな映画を撮るのははじめてなので、やりたいことを話してもらい、カット割もお芝居も、いくつかのパターンを提案し、選んでもらいながら進めていく手法をとりました。撮影では、オーケーが出たらみんなで拍手をしました(笑)」

 中学生の映画づくりを全面的にバックアップする中で、三島監督は次第に“映画人”になっていく生徒たちを目の当たりにする。
「みんな1日目はやることを覚えるだけで精一杯なんですけど、2日目からは、役割もわかってきて、自分でどんどん考えながら動けるようになっていました」

「例えば、助監督の生徒もいるのですが、私が“助監督は監督を助けてあげる仕事だよ”と話すと、その子は、監督の生徒に“監督がやりたいことはこういうことだと思うんですけど、今はそうなっていませんけどいいですか”と進言していて。生徒たちの吸収力の早さにはびっくりしました」
 中学生を指導する上で特に意識したのは、映画づくりの喜びを感じてもらうことだったと語る三島監督。そして、映画が完成し、10月23日には三豊市で完成上映会が行われた。

三島有紀子

三島有紀子 みしまゆきこ 映画監督。大阪市出身。2017年の『幼な子われらに生まれ』で、第41回モントリオール世界映画祭審査員特別賞、第42回報知映画賞監督賞、第41回山路ふみ子賞作品賞など多数受賞。その他の主な監督作品に『しあわせのパン』『繕い裁つ人』『少女』『Red』、短編映画『よろこびのうた Ode to Joy』(U-NEXTで配信中⇒ https://video.unext.jp/title/SID0064256)『IMPERIAL大阪堂島出入橋』(「MIRRORLIAR FILMS Season2」の一篇としてDVD発売中!)などがある。
【公式HP】https://www.yukikomishima.com

「上映会でエンドロールのあとに拍手が起こり、みんなの嬉しそうな歓声を聴いて、ほんとによかったなと思いました。感じたのは、映画ってやっぱり全部映るということです。監督や役者さんの頑張りはもちろん、朝早くから教室を飾った美術部やカチンコをうっていた助監督、荷物を一緒に運んだ制作部や畦道でこけたりしながら音を録った録音部。全部が映るんだな、とあらためて感じ入りました。“大変だったけど、楽しかった”。生徒たちの感想です。私にとっても特別な時間になりました。また、三豊を訪れたいと思います」
 三島監督と洞爺湖は長い付き合いだが、これからは香川県三豊とも長い時間が積み重なっていくのかもしれない。

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