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 12人の映画監督による映画製作プロジェクト『DIVOC-12(ディボック-トゥエルブ)』(今秋公開)より、三島監督の手掛ける一遍『よろこびのうた』が完成した。プロジェクトでは12人が3チームに分かれて、テーマに沿った作品を制作。三島監督のチームは“共有”をテーマに掲げている。
「これだけ救いのない状況を世界中が共有することってなかったと思うんです。ただ、このプロジェクトといった救いと思えるようなものも生まれてきていて、そういった新しい希望も共有できるようになっていく。コロナ禍を共有した我々は何を共有していくのか、またできるのか。そういうことを見つめたかったし、みんなでディスカッションしながら作品を作ることができればと思って、このテーマに決めました。表現の自由度も高いと思いますしね」

 タイトルはベートーヴェン交響曲第9番第4楽章「Ode to Joy(よろこびのうた)」から。
「昨年の8月、心が閉じ込められた気分でしたから海が見たくなり九十九里浜に行ったんですね。お年を召した方が散歩しては海を眺めていたのをずっと見ていました。一方で、ある食堂で70歳くらいの女性お二人が“あと30年も生きなきゃなんない、どうする?”と話していて“たくましいな”と感じたのと同時に“長く生きるということの不安”をテーマに考え始めました。そんなとき、ある方からかつてインドでボランティアをしていた話を聞いたんです。それがどうも、路上で死にそうになっている方を会館に連れて来て、亡くなるまでずっと抱っこしていてあげるというボランティアだと言うんです。それが衝撃で。それはひとつの安心と言えるものかもしれないと強く感じたんですよね。それで書き始めたのがこの脚本でした。『Ode to Joy』は非常に祝祭的な音楽です。どうしようもない日常に突然現れる他者との祝祭的な瞬間。この瞬間こそがよろこびではないのか、ということを意思表示したくなりました」

 撮影が行われたのは、昨年の12月中旬。三島監督の代表作のひとつ『繕い裁つ人』のスタッフが再集結した。
「当時、『繕い裁つ人』で制作部として頑張ってくれた山田真史がプロデューサーをやってくれました。撮影の阿部一孝も照明の常谷良男も『繕い裁つ人』のメンバーです。今回のプロジェクトに参加してくれている山嵜晋平監督も、『繕い裁つ人』のときは制作部で、今回私の作品ではチーフ助監督を担当してくれています」

 主演を務めるのは、富司純子と藤原季節。二人とも三島作品には初めての参加となる。
「富司さんが演じるのは、生活に困窮している女性です。100歳まで生きられるのが珍しくない時代に入って、逆にあと30年どうやって生きて行こうと経済的に不安を抱えています。かと言って彼女は、同情を許しません。個として自立しており、欲望の深いたくましい女性。それでいて恋する少女のような可愛らしさと人を包み込むような母性もあり、人間の美しさも醜さも持ち合わせています。人間についてのいくつかの真実を理解しており、それに基づいて当たり前のように行動する高潔な存在。それらを表現できる方と考えたときに、富司さんしかいないと思いました。昨年は映画制作もコロナの影響で一時中止になり、みんなが生活に困って、ある種日本映画全体が疲弊している中で、富司さんは“日本映画界にとってこのプロジェクトが一つの希望になるのであれば何でもしたい”とおっしゃって、オファーを受けてくださいました」

「作品への向き合い方も素晴らしくて、今回、撮影の前日にロケ場所をご自身でご覧になっているんです。“前乗りさせてください”とおっしゃって、一泊して演じる人物が住んでいる場所や暮らしている町を見てまわられました。私も、役者さんにはできる限り早めに来ていただき、場所や空間を感じてもらえることを理想としているのですが、富司さんはどんな作品もそうされているそうで、本当に頭の下がる思いでした。個人的には『幼な子われらに生まれ』で寺島しのぶさんを撮らせていただいているので、二代に渡りご一緒に作品を作らせてもらえたことも勝手に誇りに思っています」

 富司の扮する女性と対峙するのは、藤原季節が演じる東北出身の青年だ。
「藤原さんは私がかつて審査員もやらせていただいたことのある田辺・弁慶映画祭(和歌山県田辺市)で上映されていた『中村屋酒店の兄弟』に出られていて、それを拝見した時に、とても繊細な表情のお芝居をされていたんですね。『よろこびのうた』の青年は、どこか諦めたところがあり、底しれぬ不安みたいなものを抱えている。富司さんが演じる女性の少し変った人間愛に出会うことによって、自分の中のやり切れなさや怒りや悲しみすべての感情があぶり出されてしまう。その瞬間を高いエネルギーで一緒にぶつかってくれる役者さんは……と思ったときに、藤原さんがいいなと思って、お願いしました」

三島有紀子

三島有紀子 みしまゆきこ 映画監督。大阪市出身。2017年の『幼な子われらに生まれ』で、第41回モントリオール世界映画祭審査員特別賞、第42回報知映画賞監督賞、第41回山路ふみ子賞作品賞など多数を受賞。その他の主な監督作品に『しあわせのパン』『繕い裁つ人』『少女』『Red』などがある。今秋には映画製作プロジェクト『DIVOC-12(ディボック-トゥエルブ)』(ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント)が全国で公開予定。"共有"というテーマを掲げる三島有紀子監督チームは、以下の4作品。三島有紀子監督作品『よろこびのうた Ode to Joy』(富司純子、藤原季節)、山嵜晋平監督作品『YEN』(蒔田彩珠、中村守里)、齋藤栄美監督作品『海にそらごと』(中村ゆり、髙田万作)、加藤拓人監督作品『睡眠倶楽部のすすめ』(前田敦子)。

「藤原さんはキャスト発表で“頭が真っ白になった”とコメントしていましたが、現場でも真っ白になるくらい没頭してくれました。準備段階でも役にあわせて髪を切って、メガネも度の入っている自前のものを持ってきて、衣装が決まってから撮影まではずっと役の衣装を着てくれていました。藤原さんはとても自然体な方ですが、キャメラに愛された人で、映画的な“色気”みたいなものがあると感じます。とにかく、富司さんとの共演に緊張されていました。富司さんは“映画”そのものみたいな大きい存在ですからね。私自身もお二人に生まれるお芝居の化学反応を全て撮るんだという緊張感の中で、撮影に挑んだのを覚えています。“頭が真っ白になった”藤原さんは全てをさらけ出してお芝居をしてくれました。お二人を撮れて幸せです。富司さんと藤原さん、お二人の感情が重なるところをぜひ観てください」

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