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 三島監督の新作映画の全貌が明らかになってきた。タイトルは『Red』。島本理生の同名小説が原作だ。公開は来年2月。主演は夏帆、相手役に妻夫木聡を配した。
「どうしようもない男と女の、どうしようもないラブストーリーです。だけど、それこそが宿命的とも言えるのかもしれないなと」
 夫と可愛い娘に囲まれ、恵まれた環境にいるはずの主婦の前に、かつての恋人が現れて――という物語だ。
「『幼な子われらに生まれ』を撮ってから、いつか“男と女”というテーマに向き合わなければと思っていました。心と体のつながりを通して、一人の女がひとつひとつの人生の選択をどう決めていくのかを見つめてみたかったのかもしれません。さらに、自分に課したのは“人はいつも、自分の内側に潜んでいるものを目覚めさせてくれる誰かを探し求めているのではないか”そんなテーマでした」

「心底愛した人に“知っているのか? キミハキミヲ”と問いかけられたら、心の奥底に押し込めていたものを見つめざるを得ません。だけど、押し込んでしまっていた自分の本当の欲求や本質を見るのは怖い事でもありますよね。いま信じているものが崩れていくかもしれないんですから」
 主人公の女性は、自分の感情を抑え込んでいるうちに、だんだんと自分が見えなくなっていく。
「そういう日本の女性は少なくないと思うんです。多かれ少なかれそういう部分があるんじゃないかなと。嫌いじゃないと言ってる間に、これもありかなと思い込んでしまう事って。日本には欲求や個性を出すのは恥ずかしいこと、という教育や文化が残っているように感じる事があるもんですから」
 だが出会ってしまった相手に導かれ、次々と扉を開けていくうちに、自分でも知らない……いや、真の自分を知っていく。映画はそんなヒロインの“旅路”でもある。
「同時に相手を本当にちゃんと見ているのか? という問いかけでもありますよね。自分の事を知ってほしいと言いながら、実は相手の事を全然見てなかったと、ふと、気づく事もあると思うんです」












「相手と本当につながるためには、相手を本気で観察するところからしか始まらないのかなって。自分が常に映画でやろうとしていることは、人間観察です。だから今回は特に、自分自身が撮影現場で出演者のお二人をどこまでも知ろうと思いましたし、自分の事も素直にぶつけていこうと……。そうやって、二人を愛し抜いて創りあげた映画になりました」
 恋愛映画自体にも興味はあった。
「もともと自分の好きな映画が、やりきれない孤独に震えているような二つの魂が、一瞬繋がってスパークする時間を描いた映画が多いんです」

 クリント・イーストウッド監督の『ミリオンダラー・ベイビー』もそうだと思いますし、ジョン・カサヴェテス監督の『グロリア』や、ヴァルテル・サレス監督の『セントラル・ステーション』も……。それらは、ある種のラブストーリーと言えると思います。あと、10代の頃に好きだったフランソワ・トリュフォー監督は、ストレートに男と女を描いていますしね。いつか……とは思っていましたけど、やはり『幼な子われらに生まれ』を撮ってからは特に強く男と女を描きたくなりました。あの話は家族がテーマですが、もともとは夫と妻、男と女の話でもある。浅野忠信さんと寺島しのぶさんのやりとりを撮りながら、『ああ、どこかで男と女について、ちゃんとやらないといけないな』と思いました」










 今回の全体テーマは「人生うろうろ」。
「人生でもうろうろしてると思いますが、物理的に現場でもうろうろしています。悩んでる時は『金田一か!』っていうくらい、頭をかきむしりながらカメラや芝居場の間をうろうろしてます(笑)」
 役者さんにいい芝居をしてもらいたい時も。
「役者さんがどういう言葉に反応するか、はたまた何も言わないでNGだけ伝えた方がいいのか、理屈を言ってほしい人なのか、ずっと観察しています。どうすれば伝わるか。また、いつ本番にいくのか、そのタイミングをどうするかも、うろうろと……」

「役者さんの気持ちが作れた今だってタイミングで本番にいくよう心がけています。で、スタートかけてからは祈ります(笑)。闘ってる役者さんを凝視しながら『絶対いい芝居になる』って」
 うろうろしながら撮影場所を変えたい、と思いつくこともある。
「『幼な子~』で浅野忠信さんが洗面所にいる時に、妻役の田中麗奈さんが話しかけてくるシーン。あれは最初、寝室でのシーンだったんです。自分の中でどうしてもしっくりこなくて、うろうろ考えていたんですね。で、何度考えても寝室という二人の空間より、閉塞的で個人的な空間である洗面所でデンタルフロスをしているときに話しかけられるほうが、まとわりついてくる妻の“めんどくさい”が出るんじゃないかなと」

三島有紀子

三島有紀子 みしまゆきこ 大阪市出身。18 歳から自主映画を監督・脚本。大学卒業後 NHK 入局。数々のドキュメンタリーを手掛けたのち、映画を作りたいと独立。最近の代表作に『繕い裁つ人』『幼な子われらに生まれ』など。上梓した小説には『しあわせのパン』(ポプラ社)、『ぶどうのなみだ』(PARCO出版)がある。2017 年に第41回モントリオール映画祭審査員特別グランプリ、第42回報知映画賞監督賞、2018年はエル ベストディレクター賞を受賞。最新監督作の『Red』(出演・夏帆/妻夫木聡)が2020年2月に公開予定。

「スタッフとしては困りますよね。予定にない洗面所の美術は飾ってないし、そこでの撮影や照明プランも立てていない。だから、本当にそれを言い出してもいいほどのアイデアかどうか……勝算が絶対的にあるのか……自分の中で、ずっと、うろうろうろうろしている訳です。で、この時は浅野さんに相談したんですね。そしたら『そっちの方がいいと思う』と。そして、ごめんなさい、どうしてもこう撮った方がいいものになるように思うんだけど、とみんなに相談して、最後には納得してもらえて撮ることができました」
 映画は生き物。机上で想定していたようにはいかない。よいものを作るために、三島監督は今日も“うろうろ”し続ける。

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