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 夏のはじまりにアメリカのシアトルから快挙の知らせが飛び込んできた。6月26日から30日にかけて開催された第9回シアトル映画祭で、三島監督作品が四冠を達成したのだ。『IMPERIAL大阪堂島出入橋』が短編映画国際部門の最優秀撮影賞を、『Red』が長編映画国際部門の最優秀主演男優賞と最優秀作品賞を受賞。さらに、両作と『東京組曲2020』が高く評価され、監督本人も映画祭の最高賞である最優秀監督賞に輝いた。映画祭に参加するため現地に赴いた監督は、会場で4回もスピーチをすることになる。
「最初に『IMPERIAL』の撮影賞として山村卓也さんの受賞が発表されたので、壇上に上がり、とても素晴らしいカメラマンだということをお話しさせていただきました。また、コロナ禍で本当に起きたことが題材となっており、世界中のすべてのみなさんに観ていただきたい映画だとご挨拶をして席に戻ったら、今度は妻夫木聡さんの名前が呼ばれたんです」

 『Red』の主演俳優を監督は、会場でこう紹介した。
「まず、妻夫木さんはとてもGood lookingなことはご存知ですよね? と問いかけたら、みなさんうなずきながら笑ってくださいました(笑)。でも彼の本当に素晴らしいところは演者としてものすごく努力家で、いろんな表現を模索し続ける素晴らしいアーティストで、作品と現場全体を見ているところだと説明しました。英語でわかりやすくTrue emotionという言い方をしたんですけど、『Red』はTrue emotionを抑えて生きる女性がTrue emotionを見つめて、自分の人生を生き始める物語で、それを一緒になって妻夫木さんが考えてくださった、だからこの映画は彼がいたから完成させることができたと、感謝を伝えました」

 シアトルで実際に『Red』が上映された際、感じたことがある。
「アメリカは日本に比べて自分の気持ちを表現できる国というどこかで勝手なイメージがありました。でもTrue emotionを抑えて生きるという部分に共感してくださる方がとても多かったんです。それは女性も男性も、それ以外の方も。結局は国や住む場所において、“個”の確立という文化がどれだけ成熟しているかに関わっているのだと、あらためて身に染みました」

 スピーチで伝えたいことがあった。
「この映画はすべての抑圧された女性のために作った映画ですけど、その隣にいる男性のためにも、男性でも女性でもない、それら以外のたくさんのみなさん、そして、あなたのために必要な映画だとお話ししました。True emotionを大事にできる世界になるよう、まずこの映画を観てください、と結んだんです」
 3度目のスピーチを終えたあと、監督はそのまま壇上に残るように言われ、やがて最優秀監督賞が発表される。
「イベントでもあるのかなと思って残っていたら、最後に名前を呼ばれて、何もわかっていなかったので、トロフィーを受け取らずにそのまま前に出ていったんですね。そうしたら、みなさんから“何か忘れているよ”と指摘されました(笑)。『Red』『IMPERIAL』、そして『東京組曲2020』での全部門での最優秀監督賞だったので、スピーチではこの3本の映画を観ていただければ、私たちがパンデミックで失ったものがすべて見えると思います、とお話ししました」

「一瞬で失われることもあると知った、直接会って話すことやお互いが触れ合うことなど、それらをみんなで大切にしましょう、と呼びかけたんです。大切なことだと気づかせていただいたことで、今できることを大切にしていきたいと思っています」
 今回の受賞は、そもそも2023年10月にLAのチャイニーズ・シアターで開催されたグローバルステージハリウッド映画祭にて、『IMPERIAL』がベストショート賞に選出され、運命を感じたシアトル映画祭のキュレーターのフランチェスカさんが同作を含む3本を推薦したという経緯がある。

「映画を観て良いと思った方が推薦してくれたという、とても純粋な流れで呼んでいただきました。シアトル映画祭はプロ・アマ含め映画づくりに携わっている方も多くて、みなさん映画が大好きで、映画づくりを愛していることがひしひしと伝わってくる、とても素敵な映画祭でした」
 また、7月20日から8月2日まで、東中野の映画館・ポレポレ東中野で開催された「三島有紀子監督特集上映」も、映画愛にあふれた催しとなった。最新作の『一月の声に歓びを刻め』と旧作を組み合わせて毎日上映するというイベントで、連日多くの人が劇場へと詰めかけた。

三島有紀子

三島有紀子 みしまゆきこ 映画監督。大阪市出身。2017年の『幼な子われらに生まれ』で、第41回モントリオール世界映画祭審査員特別賞、第42回報知映画賞監督賞、第41回山路ふみ子賞作品賞など多数受賞。その他の主な監督作品に『しあわせのパン』『繕い裁つ人』『少女』『Red』、短編映画『よろこびのうた Ode to Joy』(U-NEXTで配信中)など。一昨年はイタリアのヴェネツィア、ローマ、ナポリ各地で「YUKIKO MISHIMAの世界」が開催された。2023年、セミドキュメンタリー映画『東京組曲2020』・短編劇映画『IMPERIAL大阪堂島出入橋』公開。最新作『一月の声に歓びを刻め』が全国順次公開中(予告編はこちらから)。【公式HP

「おかげさまで、2週間、完走することができ最上の歓びを刻みました。「熱い夏が終わった気がする」とは、ポレポレの方のお言葉。自分の作品に通底するもの…いろいろ書いていただいたり話していただきました。【弱さを含めて人間の暗部や複雑さに冷静に切り込み、見えないものを可視化し、美しい映像で物語る】これからも、より人間を見つめ、寄り添いながら、魂のゆくえを語っていければと思います。たくさんのみなさまにいただいたものをリュックに積めこんで、またゆっくり「祭りの準備」を始めたいと思います。今後ともどうぞよろしくお願いします」

撮影/野呂美帆
※2枚目のみシアトル映画祭から提供
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