俳優として、男として、父として……
寺島進の半生を振り返りながら、
その生き様、哲学に迫る連載、第十一回。
撮影/野呂美帆
取材・文/大道絵里子
俳優として、男として、父として……
寺島進の半生を振り返りながら、
その生き様、哲学に迫る連載、第十一回。
主演させてもらってる2時間ドラマのシリーズ『駐在刑事』が、10月から連続ドラマになる。いやぁ……嬉しいねぇ。2014年から年に1回放送して、ついに連ドラ化。まさに俺の座右の銘「継続は力なり」だな。これも楽しんで観てくれた人と、スタッフやキャストみなさんのおかげですよ。いや、お世辞じゃなくてさ、『駐在刑事』は、キビキビいい動き方をするスタッフやキャストばっかりで、すごく気持ちのいい現場なのよ。ドラマは東京の奥多摩が舞台で、俺は町の駐在さん役なんだけど、実は元警視庁捜査一課の敏腕刑事で、ある事情があって左遷されてそこにいるわけ。そんな駐在さんが地元の人々とふれ合いながら事件を解決していく、まぁ、人情派ミステリーだな。ロケ場所に行くのに片道2時間かかるのは大変だけど、美しくて懐かしい風景の中で撮影していると、原点に戻れるような気がする。見た人の癒しになるようなドラマにしたいね。
テレビドラマの仕事が
増えていったときは、
戸惑うことも多かった。
昔はやくざとかチンピラばっかりだったけど、最近は刑事役ばっかりだろ?そしたらいい人のイメージになっちゃって、街の人が気安く声をかけてくるようになった。前なんて滅多に話しかけられなかったんだから(笑)。やっぱ、世間の人はドラマの役のイメージで見るんだね。
ドラマっていえばさ、俺、最初に「芝居」ってもんを学んだのが北野組だったでしょ? だから、テレビドラマの仕事が増えていったときは、戸惑うことも多かったの。なんせ、分かりやすさが求められる世界だから。そこでリアルな芝居を追求しても「もうちょっと驚いて!」なんて言われたりする。そんな刑事が拳銃向けられたくらいで驚くかっての! ただ、それぞれのフィールドでやり方の違いがあるのはわかる。だから、軸足は常に北野組に置きながらも俺なりのやり方でバランスをとって対応していった感じだね。どうやったか?言葉で説明するのは難しい。感覚だからさ、感覚。感覚は“磨く”にしても限界がある。ある程度は、持って生まれたものだからさ。
要は、勘だね。その勘どころをつかむには不感症のヤツじゃダメだわ。だから役者は繊細じゃなきゃできねえんだよ。……って、この言葉、実は亡くなった渡瀬恒彦さんが言ってたことなんだけど。自分も主役をやらせてもらうようになって、この言葉の意味がもっと深く分かるようになった。主演の時は自分のことだけじゃなくて、他のキャストやスタッフがどういう状態でいるか、細かいところまで気づけるかって大事。俺は斬られ役出身でしょ? だから人の気配にすごく敏感なの。『あ、こいつ集中してねぇな』とか『覇気がないな』『動きの勘が悪いな』とか、そういうのはすぐわかっちゃう。
だから共演者に対してそういうものを感じたり、怠慢だなぁと思ったときはちゃんと注意するよ。それは先輩でも後輩でも関係なく言うわ。主役はその作品に対して責任があるからね。『駐在刑事』の現場で? えーっと……ああ、ちょっと違うけど、似たようなことはあった。北村有起哉くんと口論するシーンがあったんだけど、彼が遠慮してるからさ、「そんなんだと芝居できねえよ! もっと来いよ!」とは言った。だってもっとできる人なのにもったいないじゃん。俺のエゴで言ってるんじゃなくて、作品をよくするために言ってるわけで、根底に愛があることはちゃんとした相手には伝わるもんだよ。
渡瀬さんには
本当にいろんな
アドバイスをもらったなぁ。
ま、連ドラは中盤に中弛みすることもあるんで、これからもたまに発破かけないとな(笑)。
ただ、響かねえやつには響かないのよ。俺が「もっとこうした方がいいんじゃない?」って言うのを、すぐ理解してやれるやつは、元々できるやつなんだ。でも、現場にはできねぇやつも来るからね。縁あって選ばれて来てるんだから、そこは必死でやってほしいよなぁ。前回も言ったけど、そいつが出たせいで出られなかったやつがいるんだから。俺だって出られない悔しさをず~っと持ってたから、ホントにそう思う。
そんな繊細さの話もそうだけど、渡瀬さんには本当にいろんなアドバイスをもらったなぁ。
出会いは渡瀬さんの『十津川警部シリーズ』だったと思う。たまたま家が近所で、俺が結婚してからは家族ぐるみでお付き合いさせていただいてたの。俺がやってる『ドクター彦次郎』って2時間ドラマのシリーズがあるんだけど、渡瀬さんに「明日やるんで見てください」って電話したこともあった。そしたらちゃんと観てくれてさ、すぐに連絡をくれて。「やっぱり吉田啓一郎監督は美しい京都のいい画を撮るなぁ」とか、「お前の長台詞には難があるな」とか(笑)、ああだった、こうだったっていろいろ感想を言ってくれてさ。怒るときは怒るけど、すごく優しい人だった。俺、これからは渡瀬さんの品の良さもマネしたいと思ってるんだ。渡瀬さんはどんな悪人の役でも品があったから……。ま、それはこれからの俺の大きな課題だな。
寺島 進 てらじますすむ 東京都出身。俳優・松田優作が監督した「ア・ホーマンス」でデビュー後、北野武作品で活躍の場を広げる。映画のフィールドからテレビドラマの世界でもその顔は知られるように。
撮影/野呂美帆 取材・文/大道絵里子