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寺島 進

寺島 進

寺島 進

撮影/野呂美帆
取材・文/大道絵里子

俳優として、男として、父として……

寺島進の半生を振り返りながら、

その生き様、哲学に迫る連載、第十三回。

 前回『おかえり』のフィルムを持って釜山国際映画祭に行った話をしたけど、俺もう一回行ってるんだよ。それがSABU監督の『幸福の鐘』。そう、俺の主演作。北野監督は言うまでもないけど、SABU監督も俺のことをすごくかっこよく切り取ってくれる監督で。作品も素晴らしいし、出会えたことに感謝してる人だね。

 SABUさんとは初監督作品『弾丸ランナー』の完成披露試写を俺が観に行ったのが、初めての出会いだったと思う。観終わってロビーに出たら出演者とか監督がたむろしてたんだよ。これはチャンスだと思って「初めまして、寺島進と申します」って挨拶をしに行ったの。映画、すげえ面白かったから「最高に面白かったです。ぜひ、監督の作品に出たいです」って、正直な思いを伝えさせてもらった。俺は『キッズリターン』に出たか出なかったかくらいの時期だったと思う。まだウエスタン村でバイトしてた頃だもん。

 ストレートな思いが伝わったのか、ありがたいことに、SABUさんの次の作品『ポストマン・ブルース』に呼んでくれてね。

本番前にライブハウスで

音を出しながら、

自主トレしたんだよ。

 そのあとも『アンラッキー・モンキー』『MONDAY』と続いて、『DRIVE』ではすごくいい役をいただいたの。でも、すげえ難しいシーンがあってさぁ。パンクロッカーのライブステージに出ちゃって、マイクを持ってまくしたてる場面なんだけど、セリフ量が多いから覚えるのも大変だし、パンクのリズムに合わせてまくしたてなきゃいけないのにうまくノレないしで、こりゃあ大変だなと思った。それで本番前に、ライブハウスを借りて音を出しながら自主トレしたんだよ。そこに監督も来てマンツーマンでやってくれてね。しかも、終わったらSABU監督の家で奥さんがトンカツを揚げてくれて、トンカツ定食まで食わせてもらった。それがまたウマくてさぁ……。SABUさんが自慢気に言うわけよ。「うちはいつもこういうウマい飯食べてんだ」なんて。俺なんて独身のころだったからホントに羨ましかったよ。

 おかげさまですごくいいシーンになって、この役があったからこそ次の『幸福の鐘』に繋がったと思ってるんだ。

 SABUさんは『DRIVE』までずっと堤真一さんが主演を務めて世界的に評価されてきた流れがあるから、『幸福の鐘』で俺に主役を任せてくれたときは嬉しかった。ただ、ほとんどセリフがなくって……これぞ難役! まぁ、言ってしまえば、芝居ってセリフである程度ごまかせるのよ。ところがまったくごまかすものがない。しゃべらないわ、受けの芝居が多いわで……。もうね共演者に感謝ですよ。篠原涼子ちゃんとか、益岡徹さん、西田尚美さん、ほかのみんなもいい芝居をしてくれて。主演は、共演者が光ってこそ、その光で照らし浮かび上がらせてもらえる存在なんだなぁって、しみじみそう思ったね。

 ラストシーン近く、砂浜で朝日が昇ってくるシーンがあるんだけど、そこがクランクアップだったの。そのとき監督がポロっと泣いた気がした。俺にはそう見えて……それはすごく印象に残ってるね。

『幸福の鐘』はベルリン国際映画祭にも行ってNETPAC賞(最優秀アジア映画賞)を受賞した。嬉しかったねぇ。ありがたいことですよ。

 ちなみに、うちの長男坊が生まれたときに、マスコミ向けのFAXに「幸福の鐘が聞こえる気がします」ってコメントしたの。この作品をもじったんだけど、まぁ分かる人は分かってくれたらいいなって。反響? その頃スマホ持ってなかったから分からない(笑)。

寺島 進

現場でガミガミ怒ってた。

そういうこと言う人も

必要だから。

 主演作で言えば、熊切和嘉監督の『空の穴』も思い出深いね。熊切監督がまだ大阪芸大の学生の頃に『ソナチネ』を観て、俺と一緒にやりたいって思ってくれたらしい。

 あるとき『おかえり』の篠崎監督が、熊切監督と俺と三人で飲みに行く場をセッティングしてくれたの。

『鬼畜大宴会』なんてとんでもない映画を作るからどんなヤツだろうって思ったら、ものすごくまっすぐな青年でね。そういう交流もあって熊切監督がぴあ映画祭のPFFアワードを受賞してスカラシップで撮ることになった『空の穴』に出たんだ。

 監督初の商業映画だけど、熊切組のスタッフは8割方大阪芸大の仲間だったんじゃないかな。

寺島 進

 だから、カメラのピント合わすのも照明を準備するのも時間かかって、もう~大変だったよ。俺、現場でガミガミ怒ってたもんね。動線にスタッフの靴が散乱してたりして「ちゃんとやっとけよ、コノヤロウ!」とか言って。そういうこと言う人も必要だから。

 夏のオール北海道ロケ。民宿のメシがうまくってね。鮭とかイクラとか北海道ならではのおいしいものがあって、食うものには困らなかったな。

 結局、『空の穴』は監督同様、不器用だけど、まっすぐで誠実な恋愛映画になった。この映画もベルリン国際映画祭とかいろいろ行ったんだよな。ロッテルダム国際映画祭では国際批評家連盟賞ももらった。こうして振り返ってみると北野監督のおかげでホントにいろんなご縁をいただいた。感謝しかないね。

寺島 進

寺島 進 てらじますすむ 東京都出身。俳優・松田優作が監督した『ア・ホーマンス』でデビュー後、北野武作品で活躍の場を広げる。映画のフィールドからテレビドラマの世界でもその顔は知られるように。

撮影/野呂美帆 取材・文/大道絵里子