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寺島 進

寺島 進

寺島 進

撮影/野呂美帆
取材・文/大道絵里子

俳優として、男として、父として……

寺島進の半生を振り返りながら、

その生き様、哲学に迫る連載、ついに最終回。

 この連載は今回で最終回。なんつうのかな……連続ドラマとか、映画の撮影が終わるのとはまったく違う、喪失感みたいなものが込み上げてきてる、今。これまで経験したことない種類の感情と言うか……。

 バックナンバーをたどれば分かるけど、最初は「愛ってなんだ」という恋愛相談のコーナーから始まったんだよね。その次は、俺が思い入れのある和の小物を紹介する「和の心粋」。そして、今の「俺の足跡」という連載が始まった。「俺の足跡」は自叙伝としてポプラ社さんから「てっぺんとるまで!」という一冊の本にまとまって……その宣伝でいろんな番組にも出演させてもらいました。FILTから始まって、また新たな出会いがあって、いろいろとお仕事が膨らんでいって、気づけば6年。もう、本当に感謝しかないですね。2ヵ月に1回の取材が6年続けば、やっぱりどこか生活の一部になってたとこもあった。床屋さんとか行くと「最近どう? 何かあった」みたいな話をするじゃない。そういう自然体で自分の話ができる場というかさ。

満足しちゃったら

お終いだからさ。

満足は天敵!

 でも、俺の半生というか「今までこんなことがあってさ」みたいなことは友達とも改めて話さないから……なんかほら、中学時代の友達とか同じ体験を共有してる相手にたまに会うと、こんなことあったね、とか、あの先生は今どうしてんだろう、みたいなことは話すけどね。こういう場所で話すとなると、やっぱ、なんか照れくさかったよね。ましてや、恋愛相談なんてもってのほかだよ(笑)。だいたい、俺に答える資格ない。普段から言葉が足りねぇな、語彙が少ないなって反省することも多い自分がさぁ。カミさんとか、子供を前にしてよく思ってるもんね。心で思うことをうまく言葉にできないなって……。この間、子供と川沿いを散歩してたんだけど、鯉がいたの。そしたら子供が「この川はキレイだね~」なんてサラッと言うんだよ。俺、その一言に学んだの。『そうか、素直に感じたままを言葉に出せばいいんだ』って……でも、いざってときに出ないんだよな……。6年前はこういう時代遅れの男がいてもいいんじゃねえの? なんて開き直ってたんだけど、最近はさすがに時代遅れすぎじゃねぇかな、と思うよ。まあ、恋愛相談は伊集院静さんに任せよう(笑)。

「終わりよければすべてよし」「有終の美を飾る」って言うけど、確かに「終わり」は大事だよね。ドラマや映画の撮影が終わったときは、ホッとするというか、はぁ終わった……と安堵するような気持にはなる。それと同時にやっぱり、ああやっておけばよかった、こうしておけばよかった、という反省もあるんだけどね。100%満足できることなんてないですよ。芝居でもなんでも、「よし完璧だ」なんて満足しちゃったらお終いだからさ。満足は天敵!

 あともう一つ「終わり」で思い浮かぶのは、大切な誰かとのお別れ……この世を旅立つお別れかなぁ。

 というのも、まさに今日、俺が20年前に主演した映画『空の穴』のロケですごくお世話になった北海道の民宿の親父さんが亡くなったと知って……。親父さんとはロケの後も毎年、北海道の旬の物を送ってくださって、こちらもお礼のお電話をして、という交流が続いてたの。電話で声を聞いただけで元気をいただけるような素晴らしい人格の人でね。で、また送って頂いたからお電話をしたら、奥さんが出て「実は……」と。お悔やみの言葉を言いながら、親父さんとの思い出話をあれこれとお話したんだけど、電話を切った後に落ち込んじゃったんだよね。でも奥さんから親父さんは「寺島さんが活躍するのを楽しみにしてたんですよ」なんて言っていただいたからね。天国で喜んでもらえるように、頑張らないとって気合が入ったよ。

寺島 進

いい年齢の

重ね方を

していきたい。

 気持ちの切り替え? すぐにできる時とできない時があるよね。今日はなんか……うん。切り替えて出かけるまでに短い時間しかなかったから、シャワーをバーッと浴びて最後に水を浴びて気持ちを切り替えたかな。時間がある時は体を動かして汗を流す。小説を読んでそっちの世界に入る、という手もあるけど、そういうときは本を読んでも内容がまったく頭に入らないから。やっぱり、むりやりにでも汗を流した方がいいと思う。

 まぁ、正直なところ、俺は切り替えがそんなに得意な方じゃないんだよね。「お別れ」を引きずってしまうことも多々あります。……ま、ナイーブですからね、俺は!(笑)。

寺島 進

 だからこの連載が終わることもホントに寂しいんだ。だけど、6年続いたと思うとちょうど小学校卒業でしょ? だからいい一区切りかなって。今の状態では俳優として……いや、男としてもまだまだ恥ずかしい。精神的な成熟具合でいうと小学生レベルな自分がいるからさ(笑)。これからは、もうちょっと大人の雰囲気を作って中学校に入学したいね。子供の純粋な部分は残しつつ、いい年齢の重ね方をしていきたい。そのために、日々、自分に厳しくケツを叩いて行かないとな。ともかく、またいろんな場所で出会えるように精進しますので、見守っていていただきたいですね。ま、もしかしたらここでまた違う連載が再開するかもしれないし(笑)。そのためにも輝いていなきゃ。皆さんに出会えたことに感謝してます。ありがとう! 今後ともよろしく!

寺島 進

寺島 進 てらじますすむ 東京都出身。俳優・松田優作が監督した『ア・ホーマンス』でデビュー後、北野武作品で活躍の場を広げる。映画のフィールドからテレビドラマの世界でもその顔は知られるように。本連載をまとめた書籍「てっぺんとるまで!」が発売中。

撮影/野呂美帆
取材・文/大道絵里子