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寺島進

寺島進

寺島進

撮影/伊東隆輔

作品を作り出す喜びと厳しさを知る
ふたりのプロフェッショナルが本音を語る

 八丈島の片隅で一人の俳優と映画監督がお酒を酌み交わしながら話を始めた。たばことお酒をじっくりと嗜むのは俳優・寺島進アニキ。そしてアニキにお酒を勧めつつ、ぐいぐいと核心を突く話を切り込んでいくのが映画監督・三島有紀子だ。
三島「寺島さんとこうやってじっくりお話をさせていただくのはこれが初めてなのですが、寺島さんはまさにザ・俳優というイメージです。私が思う俳優とは“仕事”ではないんです。俳優という“生き物”だと思います。勘が鋭くて繊細で、怒り狂ったり綻んだり泣いたり笑ったり、時に突進してくる無軌道で感情をむき出しにしてくる猛獣です。いい意味で(笑)」
寺島「猛獣か(笑)言われてみればそういう一面はあるかもしれない。でもさ、俺たち俳優にとってみれば監督が一番なわけよ。俳優が現場に入ってすぐに役に入れるのは、やっぱり監督と、監督の元に集まったスタッフがその世界を作ってくれているからこそだよ。作品はやっぱり監督の物だよね。だからこそ俳優の俺としては最高の物を作るつもりで挑んでいる」

責任があるんです。
皆を地獄に(笑)
巻き込んだから――三島

 アニキはこの作品作りに懸ける思いを、その場に集まる全員で共有したいとも語る。
寺島「とある現場でみんなに見える場所ではなかったけれど、助監督が居眠りしていたんだよね。確かに朝も夜も時間を問わずにずっと現場で頑張ってくれてたから疲れていたっていうことは俺もわかっている。でもさ俺、そいつを呼び出してひっぱたいたんだよね。それは怒りから手が出たんじゃなくって、みんなが一つの物にむかって作り上げている時に、その緊張感を壊す態度について今一度考え直せっていう意味だったんだよ。監督と俳優、スタッフみんなが同じ方向を見ている時に、その現場の空気は崩しちゃいけないんだよ」
三島「それはそうですね。私は普段は割とのんびりしていることも多いと言われるのですが、現場に入ると話しかけづらいというか、かなり周囲に緊張感を与えるようです(笑)言葉も少なくなりますし。でも、それだけ監督という仕事に懸ける責任があるんです。何があっても何が起きても作品を完成させて、見てもらう責任が。だって作品を作るためにたくさんの人を地獄に(笑)巻き込んでいるんですから。」
三島「自主映画でも商業作品でもその責任はあると感じています。でも映画を作ることが“仕事だ”という意識はあまりないです。どこまで行っても物づくりをしているわけだし。作品の前では私は奴隷なんです。作品の前では作り手も役者もすべての人間はひれ伏すしかないのかもしれません」
寺島「そう。だからさ、作品に懸ける思いが映画なのかテレビなのかで何か違うか、って聞かれることもあるけどそれはない。ただ、映画はテレビのように電源を入れれば見れるようなものじゃない。“映画を観よう”という意思を持って来る人だから、満足させてやろうじゃないかという気持ちにはなるよね」

皆が同じ方向を見ている
その緊張感は
崩しちゃいけない――寺島

寺島進

三島「まさにそうです。映画館という暗い密室で観る物だからこそ、より世界観を強く押し出しますし、芝居もできるだけ抑えて演じてもらいます。人生の一部分の時間をいただき、お金も払っていただいている。だからこそそれだけの価値があるものになっているのか、常に自問しているつもりです(笑)」
 物を作る厳しさ。それは決してクリエイティブな仕事をしている人間だけに共通するものではない、と二人の話を聞いていると感じる。どれだけ自分を追い込み、責任を持ち、人が満足をするものを作れるか。どの仕事にも通じるとてもシンプルだけれど、一番ハードルが高いことではないだろうか。そしてこれを追求し続けることができるからこそ、二人はプロフェッショナルとして活躍をしているのだろう。

寺島進

寺島「そうはいっても仕事以外で熱心になっていることって…ないなぁ(笑) あ、でも子育ては真剣だよ。全身全霊で遊ぶよ。子どもだからって手加減するとわかるからね」
三島「私は食べる、飲む、考える、話す、見る、考える、くらいかなぁ(笑) やはり映画を作ることが一番なのかもしれません。だって撮影をしている時に俳優が「いい顔をするなぁ」と思えたらそれが最高のプレゼントだと思いますから」
 好きと仕事が一緒なのは幸せだ、と就活をする人たちがつぶやく言葉を聞くけれど、そうではない。好きを仕事にできるくらいの覚悟があるか否か。その覚悟をもって挑める物を持つことが幸せなんだ、と二人の話を聞いて思った。

寺島進

寺島進 てらじま・すすむ 東京都出身。俳優・松田優作が監督した「ア・ホーマンス」でデビュー後、北野武作品で活躍の場を広げる。映画のフィールドからテレビドラマの世界でもその顔は知られるように。

三島有紀子

三島有紀子 みしまゆきこ 大阪市出身。18歳から自主映画を監督・脚本。大学卒業後NHK入局。数々のドキュメンタリーを手掛けたのち、映画監督になる夢を忘れられず独立。近作は『繕い裁つ人』『オヤジファイト』などがある。

撮影/伊東隆輔