俳優として、男として、父として……
寺島進の半生を振り返りながら、
その生き様、哲学に迫る連載、第四回。
撮影/伊東隆輔
取材・文/大道絵里子
俳優として、男として、父として……
寺島進の半生を振り返りながら、
その生き様、哲学に迫る連載、第四回。
『その男、凶暴につき』のオーディションに声をかけてくれたのは、当時はドラマの助監督で、その後、北野組のキャスティングプロデューサーになる吉川威史さんだった。今となったら「世界の北野」の第一作目だけど、当時はお笑い芸人のビートたけしさんが初めて映画を撮る作品なわけで、誰にとっても全くの未知数。俺としてはとにかく映画の仕事がしたくてオーディションがあればどこでも行ってたからね。
それまでのたけしさんの印象は…俺、『風雲!たけし城』に何回か出たことがあるんだけど、たまたま昼飯休憩のときエレベーターでたけしさんと一緒になったことがあって、大量のサプリを飲んでるのを見たんだ。ああ、忙しくて身体を酷使してるんだろうなぁって。それと「たけし城」にもたけし軍団がたくさん出てたから、みんなを率いて面倒見がいいんだろうなって、そういう印象だったかな。あとは師匠の殺陣師、宇仁貫三さんの運転手をしてる頃、撮影現場で見かけたりすることはあったけど、俺の一方的な目撃だよね。出会いという言葉のだいぶ手前だった。
北野組初の現場は、
独特の雰囲気と
不思議な高揚感があった。
だから初対面は『その男、凶暴につき』のオーディションなんだけど……でも、監督はずっと隅っこの席で下を向いてて一言も話さないの。助監督がいろいろ聞いてきて、アルバイトの面接みたいに「出身は東京の深川で、○○中学を卒業して、○○高校を卒業して……」みたいな経歴は話したけど、芝居を見せるわけじゃない。監督はたまにチラチラ見てたけど、いいのか悪いのかも分からないから、しばらくして「白竜さんが演じる凶暴なヤクザの手下の一人に決まったから」って電話をもらったときはすげえ嬉しかったね! 俺の何がよかったか? 俺が監督に聞いてほしいくらいだよ(笑)。でも、もしかしたら深川の畳職人の倅だってことで、下町の情みたいなものはあったのかもね。
いざ挑んだ北野組初の現場は……なんか今まで体験したことのない独特の雰囲気と不思議な高揚感があった。台本はあるんだけど、監督がどんどん変えちゃうから「読み込んでこないで」って言われてたの。だから、俺みたいに真っ白な、まだ色がついてない人間は監督のやり方に染まりやすかったけど、ベテランで芝居が固まっちゃってる人はやり難かったんじゃないかなぁ。
役も現場で変わっていった。監督にとって役者が有名か無名かは関係ないみたいだった。だから、無名でちょっとした役の俺達でも前に出られる可能性があるんじゃないかって、希望を持たせてくれたんだよね。それが独特の現場の雰囲気になってた。だってさ、監督は俺たちみたいな兄ちゃんにも気軽に話しかけてくれるんだよ。「いや昨日はこんな現場でこんなことあってさ~」とか「最初、現場に赤胴鈴之介の恰好で来たら、みんなぶっ倒れちゃってよ、参ったよ」なんて笑い話をしてくれるわけ。緊張している俺たちをリラックスさせようとしてくれたのかもしれないけど、それもすげぇ嬉しかった。
最初にできあがったものを見たのは有楽町でやった完成披露試写会だったかな。期待通り……というか今まで斬られ役で、斬られたらお終い、撃たれたらお終いだったのが、アップはあるわ、最後のタイトルロールに名前も載ってるわで、それはもう嬉しかったよ! 剣友会の仲間からも「映画館に見に行ったら寺島が出てたからビックリした。いい役もらったね」なんて言ってくれて。映画の中じゃ決して大きい役ではないけど、俺や俺を知ってる人にとってみたら本当にデカい一歩だったね。そのあと映画の打ち上げがあったの。監督にあいさつしに行ったら、楽しそうに次回作の話をしてくれて「次も俺、監督やったらよ、アンチャンたち呼ぶからよ」って言ってくれてさ。俺は、ヤッター!次回作決まった! ってすごく喜んだんだよ。
居ても立っても
居られなくなって、
自分で電話したんだよね。
ところが……待てど暮らせど呼ばれない。そのうち風の噂で次の撮影がもう始まってるって聞いてさ。自分でオフィス北野だったかに電話したんだよね。「次回作で声をかけてくれるって北野監督がおっしゃったんですけど、どういうことでしょうか?」って。そしたら「『その男』の出演者は出られないんだ。まるまる違うキャストでやるから」って言われて。渋々納得したんだけど、次回作『3-4x10月』を見に行ったら、あれ? 芦川誠さん出てるじゃん。この人も!この人も! ってなって、全然話が違うじゃねぇか! って(笑)。さらに今度は北野組の3作目が東宝でインしてるって話を聞いて、俺もう呼ばれないのかな……なんて悲しくなってたんだ。
ところがインしてから、まさかの声がかかったの! 監督が「『その男』で白竜さんの手下だったアンチャンいるだろ、あれ呼んでこい」って言ってくれたらしくて。俺、キタキタキター!みたいな(笑)。それが『あの夏、いちばん静かな海』だった。現場は房総半島の千倉だったんだけど、夜は千倉のホテルにスタッフもキャストも泊まって、大広間で食事をしてあとは三々五々。でも、俺なんて久しぶりの現場で嬉しくてしょうがないわけ。部屋に帰りたくないから助監督さんと一緒に酒を飲んでたら、監督が「おいアンチャンちょっと来いよ」って声をかけてくれてさ。監督の前に座らせてもらってすげえ嬉しかったんだけど、俺「ちょっと言わせてもらっていいですか」って『3-4x10月』の恨み言を言ったら、たけしさん嬉しそうに「そうだったのか~」って笑ってくれたんだよ。……そこから俺の猛アタックが始まったんだ。
寺島進 てらじますすむ 東京都出身。俳優・松田優作が監督した「ア・ホーマンス」でデビュー後、北野武作品で活躍の場を広げる。映画のフィールドからテレビドラマの世界でもその顔は知られるように。
撮影/伊東隆輔 取材・文/大道絵里子