東京は深川、畳屋の次男坊として生まれ育った
生粋の江戸っ子、寺島進が和物の“粋”を語ります。
撮影/伊東隆輔
取材・文/大道絵里子
東京は深川、畳屋の次男坊として生まれ育った
生粋の江戸っ子、寺島進が和物の“粋”を語ります。
今回のテーマは「巾着袋」。
巾着袋はねぇ、子どものころ深川のお祭りなんかに行くと、鳶の人が粋な感じで手にぶら下げてた、そんな印象があるね。それを見て『俺もああいうカッコいい大人になりたいな』って子ども心に憧れを持ったんだな。
自分で買う機会がないまま時が過ぎちゃったんだけど、あるとき、お世話になってる下町の先輩から「寺ちゃん、いい男なんだから、こういうの持つといいよ」ってステキな巾着をいただいてね。そのとき子どものころの記憶がバ~っと蘇って、それ以来、すっかり巾着袋を愛用するようになった。
実はセカンドバッグを持とうかなって思った時期もあったんだけど、想像したら金融屋みてぇだなぁと思って(笑)。そういう感じは役柄だけでいい。だったら俺は、ちょっとしたこだわりを持って巾着袋を愛用するのも、なんかいいかなぁと思ってさ、うん。
昔はよく、
ファンの人から
もらったりもした。
俺が巾着を持ち歩いているのをファンの人も知ってて、よくもらったりもしたなぁ。結婚してからはすっかり減ったけど(笑)。
今は3つの巾着を持ってる。でも3つをまんべんなく使っているというよりは、一つ、すごいお気に入りがあるんだよ。前回「手ぬぐい」の回でも紹介した、浅草の染物手ぬぐい「ふじ屋」のご主人、川上千尋さんにいただいた巾着なんだけど、「山道」って名前がついていて、これがすげぇカッコいいの。濃紺地にグレーの道が通って、そこに白い「松葉」がパラパラ落ちてて……和柄の一つに、「松葉」って文様があるんだよ。二本繋がった松の葉のような、バッテンみたいな文様なんだけど、それが全体的に散ってて、シャレてんのよ。多分、川上さん自身がデザインしたものじゃないかなぁ。
そんな粋な巾着をもらったときに、川上さんのおかみさんに、「こうやって持つといいよ」って、持ち方も教えてもらったの。
巾着ってキュッと絞っただけだと、紐が長くてダラダラして見えちゃうでしょ? それだと粋じゃない。
じゃあ、どうやって持つか、せっかくだから教えてやるよ。
1) まず、巾着の左右の紐の先端の玉か結び目を持って、キュッと絞る。
2) そのひもを蝶々結びにする。
3) 蝶々結びでできた二つの輪っかを大きくするようにスルスル引っ張る。
そしたら結び目か玉のところで止まるから、その輪っかを取っ手にして持つとビシッと決まるの。俺もいつもそうやって持ってるよ。
買い物とか
飲みに行くときは、
いつも巾着だね。
仕事のときはリュックに台本とか入れて持ち歩いているんだけど、買い物とかメシ食いにいくときとか、ちょっと近所に飲みに行くときなんかはいつも巾着だね。中身はシンプルで、財布と煙草と携帯と家族の写真くらい……あ!そういえば、俺、一回、巾着を盗まれたことがあったわ。家族で近所のラーメン屋に行ったとき、いつもは目の前に巾着を置いとくんだけど、その日は混んでたからカウンター下の棚に入れたの。そんなことすっかり忘れて、ラーメンを食い終わって先に帰るカミさんと子どもをタクシー乗り場まで見送りに行ったんだ。俺は戻ってカウンターでチビチビ晩酌したあと「おあいそ」って帰ろうとしたとき『アレ?』って気づいた。
『巾着どこ置いたっけ……あ、下だ』と思ったらもうなかったよ。そのときは京都に撮影に行く前で、現金を26万円くらい下ろしたばっかりだったから。もちろん現金も痛いけど、一緒に免許証とか子どもの写真も盗まれて、そっちもショックだったよねぇ。現金は諦めるとしても、写真だけでも返してくんねぇかって今も思うんだけど……まぁ、きっと盗んだやつには、もうバチが当たってるよな。そんなことがあって、家族の写真、今は携帯に貼ってるよ。そう、この前、人生で初めてプリクラやったんだよ!(笑) カミさんと娘と息子の家族4人で撮ったんだけど、あれ、おっかしいよなぁ、派手な箱に入ってさぁ、まぶしいんだよな(笑)。
ちなみに、巾着って「信玄袋」って言い方もするでしょ?武田信玄が戦に行くとき、三段重ねの弁当を入れるために底に板を入れて布袋を作ったのが由来だって説もあるらしい。その話を聞いて、ちょっと不思議な感じがしたの。実は俺も最近、弁当を持って仕事に行くことがあるんだよ。それはNHKの大河ドラマ『真田丸』の撮影に行くとき。一日中撮影が続く日はカミさんに頼んで弁当にしてもらってるんだけど……その弁当箱も三段重ねなんだよ。しかも、俺が演じる出浦昌相はもともと武田家の家臣の武将で……。なんか妙にキーワードがつながるなぁなんて思ってね。まぁ、この世の出来事は多かれ少なかれすべてご縁があって紡がれていくと俺は思う。これからも縁と粋を大事にして生きていきたいね。
寺島進 てらじま・すすむ 東京都出身。俳優・松田優作が監督した「ア・ホーマンス」でデビュー後、北野武作品で活躍の場を広げる。映画のフィールドからテレビドラマの世界でもその顔は知られるように。
撮影/伊東隆輔 取材・文/大道絵里子