俳優として、男として、父として……
寺島進の半生を振り返りながら、
その生き様、哲学に迫る連載、第十六回。
撮影/野呂美帆
取材・文/大道絵里子
俳優として、男として、父として……
寺島進の半生を振り返りながら、
その生き様、哲学に迫る連載、第十六回。
まだまだ暑いよなァ……。夏といえば、思い出すのは房総半島の海水浴場。俺が小学生くらいのころは近所に同世代の子どもたちが結構いてさ。夏休みには何組かの家族で集まってよく海に行ってたの。両国の駅に集合して、房総半島の海水浴場とか民宿に行くんだけど、父親だけは畳屋のトラックで向かってね。みんなの荷物とかいろいろ乗せてさ。
泳ぎの腕前? まぁそれなりに。そんなすげェ得意ってわけじゃないけど、普通に泳いだり潜ったりしてたと思う。泳ぐと腹が減るじゃない。それで海の家に行くわけ。またあの海の家っつうのがなんともいいんだよね。今のシャレたやつじゃなくて、昔ながらの海の家なんだけど、腹減ってるからか、何食ってもやたらとうまかった。いつもテレビでは高校野球をやっていて……懐かしいね。そうそう、あのころはまだその辺の岩場にウニがゴロゴロいてさ。俺たちがバケツでちょろちょろ獲って、民宿で調理してもらって食べた思い出もあるわ。たぶん、親父たちは酒のアテにしてたんだろうね。
みんなランニングに短パン、
扇風機だけで過ごしてた。
それが夏の光景だった。
あと、前も話したと思うけど、江東区の畳連合会の恒例行事で、夏休み、みんなでバスに乗って木更津に日帰り旅行に行くんだよ。それも楽しみだった。職人さんだから、みんな朝から酒飲んでさ。うちの親父も飲みが進むと、バスの中で民謡だかなんだか歌って……。
畳屋の家族が参加するから、同世代だけじゃなくてちょっと年上のお姉さんとかもいてさ。たぶん、中学生くらいだったと思うけど、小学生の俺から見たらすげェお姉さんに見えて、ドキドキしたのも覚えてるなァ。
そう、サンオイルっつう存在もこの木更津旅行のときに初めて知ったんだ。職人さんが持ってきて「進、これつけると焼けるぞ」とか言ってさ。塗ってもらっても、俺はすぐ海に入っちゃうから取れちゃって、よく分かんなかったけど、つけたまま砂浜にいたガキは真っ黒になってたな(笑)。
もう40何年前……でもさ、絶対昔のほうが今より暑くなかったよな。どう考えても民宿にクーラーなんてなかったもん。暑い時は、みんなランニングに短パン、扇風機だけで過ごしてた。それが夏の光景だった。
今は暑すぎて、その辺の道端で子どもを遊ばせるとかできないもんな。うちの子どもも夏の初めは公園でも遊ばせてたけど、8月を過ぎてからは気温が上がりすぎてヤバい。だから屋内とか、近所のプールに連れて行って遊ばせたりしてる。で、かつての俺の木更津とか房総に代わるのが沖縄なんだ。ここ数年は毎年8月後半の一週間、俺も休みを取って沖縄旅行に行ってるの。いつも行くお気に入りのホテルもあってさ。ビーチもプールもキレイだし、部屋のなかもカミさん曰く「気がいい」。ホントに気持ちがいい場所で、子どもたちにとっても、夏休みの大きな思い出になってるんじゃない?
あとは深川のお祭りもそうだな。ま、今は見に行くだけなんだけどさ。昔は俺もお神輿の会にも入ってふんどしにダボシャツで神輿を担いでたんだよ。だから、娘も息子も花棒に乗っけてやったりもしてさ。花棒っていうのは神輿の真ん中の一番長い棒の前の部分。あそこを担ぐのが一番かっこいいの。ヘルニアになってからは、もう無理出来ねえからやめたけど、俺の血なのか、やっぱり子どもたちも祭り好きだと思う。
最近は浴衣も着てないね~。独身のころはよく着たもんだけど、やっぱり子どもたちの面倒みないといけないと思ったら、動きが鈍くなるようなものってちょっとな。もっぱらTシャツと短パンとかすぐ着替えられるものが中心……服だけで言うとランニングに短パンの子ども時代に返ったみたいだよ(笑)。
その絵はポスターとして、
江東区中の掲示板とか学校とか、
いろんなところに貼られたんだ。
今の子どもは夏休みの宿題がいっぱいあるから大変だよな。娘なんか車のなかで移動中にもやってたりするもんね。ちゃんと夏休みの前半にすまそうとしてるからエライなァと思うよ。俺がガキの頃なんていつもギリギリにやってたから。でも自慢じゃないけど、俺が中学の時に江東区長賞をもらった「街をきれいにしましょう」って美化啓発ポスター、あれも夏休みの宿題だったんだよ。8月31日に一日で描いたんだけど(笑)。絵の参考書みたいな本があって「視円錐」だっけ? 遠近感を出す描き方みたいなのを参考にしてピシーっとキレイな町を描いたんだよな。その絵はポスターになって、江東区中の掲示板とか学校とかいろんなところに貼られたんだ。
それ見た親父はずいぶんと喜んでたらしいよ。俺、人からあとで聞いて嬉しかったもん。母親からはいつも「あんたはもっと勉強しなきゃダメ!」って言われてたけど、親父は「体育と図工とか得意なもんがあるんだから、いいじゃねえか」って言ってくれてた。それが子ども心に救いだったから、なんか余計に嬉しかったんだよね。
うちの娘も通信簿見たら、まぁそんなに成績がいい方じゃないんだよ。でも音楽は結構いい評価されてるから、俺はそこをしっかり褒めてるよ。俺がそうだったみたいに親が言った何気ない一言で進路が決まったりもするから。ま、だからいろいろ褒めてると親バカみたいになっちゃうんだけど……ま、なんにしても親バカなんだけどさ(笑)。
寺島 進 てらじますすむ 東京都出身。俳優・松田優作が監督した『ア・ホーマンス』でデビュー後、北野武作品で活躍の場を広げる。映画のフィールドからテレビドラマの世界でもその顔は知られるように。連載をまとめた書籍が今秋発売。
撮影/野呂美帆
取材・文/大道絵里子