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寺島 進

寺島 進

寺島 進

撮影/野呂美帆
取材・文/大道絵里子

俳優として、男として、父として……

寺島進の半生を振り返りながら、

その生き様、哲学に迫る連載、第十九回。

 この連載をまとめた「てっぺんとるまで!」が発売になって、ありがたいことに最近は本について取材をたくさん受けてるよ。テレビ番組に呼んでもらって、事前に番組スタッフに俺の人生についてリサーチを受けたり、雑誌やウェブサイトの取材も結構してもらって……なんか自分の話をするのは照れ臭い反面、ああ俺、こうやって足跡を進めてたんだなぁとか、本当にいろんな岐路があったんだなぁとか、自分の人生を振り返るいい機会をもらってるね。

 今、改めて大きな岐路を3つ選ぶとしたら?

 う~ん……難しいけど……一つは都立葛飾野高校に入ったことかな。親には申し訳ないんだけど、うちがそんな裕福じゃないなっていうのは子ども心に感じてたの。だから義務教育が終わったら、公立に行かなきゃいけねえんだろうなと思って進路を決めたんだけど、小学、中学と深川界隈じゃない? 葛飾野高校は亀有の方で荒川を越えるのよ。そしたらまだまだ見たことないヤンチャなやつらがゴマンといたの! 視野が広がったね。そういう環境で友達が増えたのは大きかった。

ヤル気になった瞬間に

覚悟が生まれる。

覚悟があれば我慢はできる。

 俺なんかヤンチャつっても、大・中・小で言ったら小だよ。小の少々くらい(笑)。大も中も、いろんなやつらがいる環境の中で揉まれた経験は、いい肥やしになった。二十代になってからの粘り強さに繋がったと思う。

 二つ目は……やっぱり三船芸術学園に行って、授業で殺陣を知って、宇仁貫三先生に出会えたことかね。この世界の基礎を学んだ、俺の原点。礼に始まり礼に終わるとか、仕事の仕方、先輩とのつきあい方、ホントにすべてを教えてもらったけど、それが剣友会だったのは本当に良かったと思うよ。

 三つ目は……そうねえ、芸能界のトップを張ってるみなさんと出会えたってことかな。松田優作さんや北野武監督はもちろんだけど、いろんな才能のある監督や演出家、俳優さん、渡瀬恒彦さんとか名取裕子さんとか、すばらしい業界のトップランナーの方々と出会えた。ただ出会っただけじゃなくて、深くご縁をいただいたり、導いてもらえたのは、やっぱり剣友会時代に叩き込まれた仕事の仕方や先輩とのつきあい方が根底にあったからだと思う。岐路が変われば出会いも変わる。出会う人、すべてに感謝の気持ちがあるよ。

 この本を読んだ人から、ちょこちょこ感想をいただいたりもするけど、結構みんな俺の二十代の頃の粘りに「元気が出た」とか「勇気が出ました」って言ってくれることが多くてさ。取材でも「なぜ諦めないでいられたんですか?」ってよく聞かれるんだけど……もう、我慢の一言ですよ(笑)。やり続けようってヤル気になった瞬間に「覚悟」が生まれる。覚悟があれば我慢はできる。今はどんどん我慢しない生き方が推奨される世の中になってるけど、ある程度の我慢は必要だと思う。でも俺は人生を賭けるような仕事を見つけたから我慢ができたけど、それを見つけられない人は、多いのかもしれないね。

 好きなものを見つけるには……片っ端からアルバイトをすればいいんじゃない? 向いてないと思ったら辞めりゃあいいんだし、いろいろやってるうちに自分の得手、不得手が分かってくる。その中から人生を賭けるほど好きなものが見つかるかもしれない。少なくとも向いてることが分かれば、少しは働くのが楽になる。生きるためには誰しも働かなきゃいけないし、いろいろやるうちに時給が高い仕事は必ず何か大変だとか、甘い話はないな、みたいな当たり前のことも身に沁みて分かるようになる。だから若い時はあまり考えすぎないで、家から出て体を動かした方がいいね。考えすぎは良いことない。それよりは……なんつうのかな、道を歩いてて右に行こうか、左に行こうか、勘みたいなものを養ったほうがいいよ。

寺島 進

いい意味で、

この仕事に慣れず

トキメキを忘れず。

 今は若い子が車を欲しがらないって言うじゃない。別に車じゃなくてもいいんだけど「頑張ってこれを買うぞ!」みたいな物欲だって一つの我慢のモチベーションになるから、あってもいいと思うけどね。

 うちの子どもを見ててもさ、我慢を覚えさせる大切さは感じるよ。この連載(俺の足跡)を始めたときは2歳だった下の息子が今年5歳になるんだけど、だんだん言うこと聞かなくなってきた。我慢が足りない、わがままぶりがストレートに出てきて葛藤してますよ! 昔は俺もお袋とかにパチンッと叩かれたりしたけど、時代だね、今は叩くっていってもお尻くらいなの。これから成長していく中でどう我慢を覚えさせるか……難しいもんだね。

寺島 進

 俺たちの仕事も時代の流れが変わって、葛藤することはあるよね。我慢の足りないスタッフがいても、あんまりうるさく言うとパワハラってことになる。主役をやらしていただくようになった頃、渡瀬さんに言われたことがあった。「お前はなんでも独りで決めてねえか? これからは何か提案するときは『こうしたらどうですか?』って疑問形にしなさい。あと助監督とかスタッフに腹立つことがあったら小出しにしなさい」って。渡瀬さんでさえ、そうやって気を付けてたんだね。俺も昔みたいに怒れないけど……小うるさいジジイではいたいとは思う。でも、どんな仕事も礼に始まり礼に終わる。そこだけはちゃんと教えていきたい。俺自身もいい意味でこの仕事に慣れず、仕事があって嬉しいというトキメキを忘れず、これからも愛をこめて取り組んでいきたいね。

寺島 進

寺島 進 てらじますすむ 東京都出身。俳優・松田優作が監督した『ア・ホーマンス』でデビュー後、北野武作品で活躍の場を広げる。映画のフィールドからテレビドラマの世界でもその顔は知られるように。本連載をまとめた書籍「てっぺんとるまで!」が発売中。

撮影/野呂美帆
取材・文/大道絵里子