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寺島進

寺島進

寺島進

撮影/伊東隆輔
取材・文/大道絵里子

愛情深きアニキ・寺島進が語る

アメリカを横断までした愛のはなし

男は弱体化し、女は強くたくましくなった昨今、結婚できない男女が増えている。生涯未婚率、少子化は進む一方、このままでは日本が危ない!そこで、結婚したいのにできない貴女のお悩みを解決する新連載がスタート。相談に乗ってくれるのはなんと……俳優・寺島進さんだ!寡黙な強面を演じることが多い寺島さんだが、素顔は情に厚い下町のアニキ。そして妻と娘をこよなく愛するよき家庭人でもある。日本から絶滅しつつある男くさい愛情をもったアニキが、目から鱗の回答で現代女性を愛に導きます。初回はそんな寺島さんのことをより知ってもらうために特別インタビューを敢行。アニキの若者時代はきっと今の若者と一味違うはず!?「寺島進」が完成される、少し前のお話を伺った。

俺の若い頃? 俺は俳優というよりスタントマンとかアクションをやる人に憧れてこの世界に入ったの。殺陣師の宇仁貫三さんって人が俺の師匠で、その殺陣チームに入って運転手から始めて。でもやるうちにチンピラ役をもらうようになって、そのうち日本一のチンピラになりたいと思うようになった。俺しかできない事って何だろうと試行錯誤したよ。

寺島進

父親像を重ねた

北野武への憧れと

映画出演までの道のり

そんな中で恩人と言える人ができた。俺の映画デビュー作は松田優作さんの『ア・ホーマンス』(86年)なんだけど、優作さんは初めて俺のことを褒めてくれてくれた人。俺に自信をくれた人大恩人だった。そんな俺を育ててくれたのが『その男、凶暴につき』(89年)で出会った北野武監督だった。今でもそうだけど、「ビートたけし」といえば当時の俺からしたらすげぇビッグネームじゃない?それなのに武さんは大部屋俳優の俺たちにも気さくに話しかけてくれて、次回作の構想を話しながら「次も俺が監督やったらよ、アンちゃんたち呼ぶからよ」なんてトキメクようなことを言ってくれるんだよ。この人は役の大きさとか有名無名なんて関係なく、同じ目線で見てくれる人なんだなと思い感激して。あと同じ下町出身だからすげえ親近感を感じたね。下町弁ってとにかく早口で、すぐ接続詞に「バカヤローコノヤロー」がつくんだけど、あれはいわば方言なの(笑)。それに武さんの実家はペンキ屋でしょ?うちは畳屋だから、そういう親近感もあった。もっと言うと、俺は武さんに出会う数年前に親父を亡くしていて、どこか武さんに親父像が重なって憧れるような気持ちもあったんだろうな……。ところが、次回作(『3-4X10月』)に呼ばれるかと思ったら呼ばれなかったんだよ(笑)憧れが強いだけに『なんだよ、嘘つきじゃん』てスネてさ。それで俺、北野組の演技事務(俳優部のサポートをする人)に電話したの。そしたら「今回は一作目に出た人はキャスティングできないんだ」とか言われて。じゃあ、しょうがねぇなと思ったんだけど、映画が完成して見に行ったら芦川誠さんとか出てるんだよ!その後『あの夏、いちばん静かな海。』(91年)の撮影に入るって時も声がかからなかったから『もう北野組はねぇのかなぁ』なんてガッカリして。そしたら急に呼び出しの電話がかかってきたんだ。

寺島進

ただただ、ひたすら

武さんに会うために

アメリカを横断

聞けば、突然武さんが「『その男、凶暴につき』で白竜さんの手下にいたアンちゃんいたろ、あれ呼んで来い』って言ってくれたらしい。俺、久しぶりの現場だし、その話を聞いて嬉しくてさ。撮影現場は房総半島の千倉でスタッフもキャストもみんな泊まり。夜は大広間で食事して、助監督さんと一緒に飲んでたら、武さんのほうから「おいアンちゃん一緒に飲もうよ」って声をかけてくれたんだ。俺、嬉しかったんだけど「ちょっと言わせてもらっていいですか」と二作目、『3-4X10月』の恨み言を言ったら武さん、笑ってくれて(笑)それからは俺の猛アタック。武さんの番組収録にも押しかけるうちに、食事にも誘ってもらうようになった。そんなとき武さんがアメリカで新作を撮るらしいって噂を耳にしたの。事務所に確認の電話をしても教えてくれないし『後悔だけは残したくない』と思って、いてもたってもいられなくなって…勝手にアメリカまで追っかけて行ったんだ。もう性質の悪いストーカーだよな(笑)。男が男に惚れちまったんだ。この人とはもう離れたくない、絶対について行きたい!みたいな。でもせっかく行くならグレイハウンドバスに乗って大陸横断したい、なんて思ってさ。それで早めにアメリカに行って横断しながら、金もないのに公衆電話からオフィス北野に「いつ来ますか?」って国際電話をかけ続けた。そしたら、テキサス州辺りでようやく「あと一週間くらいで行くみたいです」って教えてくれて。ホッとしてグレイハウンドバスのトイレで一服したら、車内は禁煙だったから、荒野のど真ん中で降ろされたんだ。そこがアメリカだよなぁ…。まぁそんなこともありながらどうにかロサンゼルスまで到着して、ハリウッド近くの安モーテルに待機したんだ。そこからいつものように電話したら、今度は俺のホテルの電話番号を聞かれたの。そしたらそれから間もない日の夕方、突然「武だけど、今どこにいるの?」って電話がかかってきて。俺がホテル名を告げると、今度はホテルのフロントから電話かかってきて…。急いでフロントに行ったら、なんとそこにオフィス北野の森社長と武さんが立ってたんだよ!俺、もう嬉しくて嬉しくて笑いが止まらなかったよ。そのとき「兄ちゃん、今度はいい役あるからよ。俺の子分でよ、沖縄に行く話なんだよ」って話をしてくれたのが『ソナチネ』(93年)のオファーだった。ちなみによくよく聞いたら武さんがアメリカに来たのは北野組の撮影のためじゃなくて別件だったの(笑)完全に俺の早とちりだったんだけど、まぁ結果オーライだよな。俺、『ソナチネ』で初めてあんな大きな役をもらって今につながる道がついたわけだから。あの頃の自分は空回りで失敗ばっかりだったけど、あんなに情熱的なやつって軍団にもいなかったかもしれないね…なんか男が男に惚れる話ばっかりだけどこの連載大丈夫!?(笑) まぁ何とか頑張るからこれからよろしくな!

寺島進

寺島進 てらじま・すすむ 東京都出身。俳優・松田優作が監督した「ア・ホーマンス」でデビュー後、北野武作品で活躍の場を広げる。映画のフィールドからテレビドラマにもその顔は知られるように。『五つ星ツーリスト(日テレ系)』にレギュラー出演しているほか、3月13日には主演をしたVシネマ「流し屋 鉄平」がリリース。

撮影/伊東隆輔 取材・文/大道絵里子