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寺島 進

寺島 進

寺島 進

撮影/野呂美帆
取材・文/大道絵里子

俳優として、男として、父として……

寺島進の半生を振り返りながら、

その生き様、哲学に迫る連載、第十五回。

 俺、ある時期まではチンピラ役とかヤクザ役とか“悪い方”ばっかりやってたけど、気がつくとなんだかすっかり“いい方”が多くなっちゃってさ。特に最近は『刑事ゼロ』とか『駐在刑事』とか、刑事や警官役をやることが多いんだけど、こないだ春の全国交通安全運動の時期に、初めて一日署長をやらせてもらったよ。呼んでくれたのは埼玉県の加須市にある加須署。一日署長ってことでちゃんと制服も着させてもらってさ。いやぁ、ああいうところに行くと身の引き締まる思いになるね。光栄ですよ。埼玉県は交通事故件数で全国ワースト2位なんだって。だから、交通安全をPRさせてもらった。最近、高齢者の事故も多いでしょ? ニュースを見ると小さい子どもを持つ親としては本当に身につまされる。交通事故はいろんな原因があると思うけど、みんなストレスで気持ちが焦ってる人が多いってのも大きいと思うんだ。だから、みんながそうなんだからお互い譲り合おうって、優しい気持ちが大事じゃない? ってことをお話させてもらった。みんな大変だけど心も時間も余裕を持っていきたいよな。

本物の警察官を

間近で見させてもらい、

参考になりました。

 埼玉県警察の音楽隊による演奏とか、白バイ隊員によるデモ走行の時間もあってさ。白バイ隊は男性も女性もいるんだけど、さすがに運転技術のレベルが高い。スラロームとか……スラロームって、三角のパイロンを等間隔に置いてその間を蛇行走行するやつね。狭い敷地の中でやってたんだけど、ブレーキをかける位置とか停まる位置、スピードの上げ方とかが絶妙で「お~すげ~!」って楽しく見学させてもらったよ。

 役者としても、本物の警察官を間近で見させてもらって参考になりました。本物の警官が持ってる警棒の位置とか手錠の位置とかさ、俺たちがドラマでやってるのとはちょっと違うところもあったから。ウソのないドラマ作りをするために、またヒントにさせてもらおうかなと思った。

 でもさ、警察官ってずっと人手不足らしいね。もちろん誰でもなれる仕事じゃないけど、もっと警官を目指す人が増えてくれるといいなって思うよ。俺のドラマがきっかけで増える? そりゃ、そう思ってくれる人がいるといいけどね! 『駐在刑事』もそんなドラマにしたいと思ってますよ。

 一日署長の経験もそうだし、ニュースを観たり、いろんな人と話をしたりして思うのは、これからの未来を担う子どもたちを守る仕事は、もっと人を増やしたり、国が面倒見てくれるといいのになって。たとえば保育士も公務員にするとかさ。保育士って辞めちゃう人も多いみたい。そりゃ大変だよなぁ……うちなんか自分の子ども二人世話するだけでもてんやわんやなのに、人様の子どもを預かってさ。いろいろクレーム入れてくる親もいるだろうし、仕事だと思ってもストレス溜まるだろうよ。子どもの数って東京都が一番少なくなってるらしいし、ホント国は早急に取り組んでほしいね。

 現場で言うと7月後半からスタートする『べしゃり暮らし』っていうドラマもやってたね。

 漫才を愛する高校生がコンビを組んで、笑いの世界で天下を獲ろうとする話でさ。そんな高校生を間宮祥太朗くんが演じてて、俺はその親父役。俺の役は、ちょっと込み入った事情があって、今は大のお笑い嫌い、息子ともときどき衝突するってキャラクターなんだけど……まぁ俺も長年、芸人さんがたくさんいる事務所にいたわけで、芸人さんのすごさ、大変さっていうのはよく知ってるからさ。それに演出を担当するのはなんと劇団ひとりさん。それも面白いよね。これまたご縁をいただいた巡り合わせだなって思うよ。

寺島 進

仕事ってなんでも

厳しいんだって、

肌で感じさせた方がいい。

 でもアレだね、独身のころは想像で父親役をやってたけど、今は前と違って感じるものがあるよ。子どもの思いや夢に対してリアルに想像するようになるわけじゃない? 今回は息子の目指す道に反対する親父の役だけど、俺自身としては子どもが思う好きな道に進めばいいと思ってるんだ。

 ただ……これは俺の希望ね。ホントに単なる俺の希望としては、何をしてもいいけど、その前に一回、俺の付き人兼運転手を経験して欲しいと思ってるの。やっぱり父親の仕事を目の当たりにさせないと……テレビで見てるのと現場では全く違うんだ、仕事ってなんでも厳しいんだってところは肌で感じさせた方がいいんじゃないかなって。

寺島 進

 今年の正月は『刑事ゼロ』の撮影があったから、家族も一緒に京都に来て、見学にも来たんだ。上の娘は何度か俺の現場を見たことあるから、ある程度、現場の居方を分かってる。でも息子は初だったから、事前に「本番になったらシーだからね」って言い聞かせたんだけど、いざ本番になったらカットがかかるまで人差し指を口に当ててた(笑)。分かってんだか分かってないんだかって思ってたら、こんなことも。娘の誕生日のとき、娘に気づかれないように俺が裏でケーキに蝋燭を立ててたの。そこに息子が来たから「シー」って合図したら、息子も「シー」ってしながらリビングに行って「もうすぐケーキ来るよ」って(笑)。分かってなかったね。でも、蝋燭を見るなりライターを持ってきたんだよ。気が利くじゃねぇかって感心したね!……ハイ、親バカです。

寺島 進

寺島 進 てらじますすむ 東京都出身。俳優・松田優作が監督した『ア・ホーマンス』でデビュー後、北野武作品で活躍の場を広げる。映画のフィールドからテレビドラマの世界でもその顔は知られるように。

撮影/野呂美帆
取材・文/大道絵里子