象徴的な一つのキーワードについて、
原田龍二が縦横無尽に語る。第10回は「新天地」。
撮影/野呂美帆
象徴的な一つのキーワードについて、
原田龍二が縦横無尽に語る。第10回は「新天地」。
「新天地」というと皆さん、入学や就職、異動や転職などをイメージされると思います。一般的には3月にこれまでの居場所に別れを告げて、4月から新しい世界に飛び込むわけですが、僕ら役者は作品ごとに現場が変わるので、季節に関係なく、毎回「新天地」に向かう感覚です。
今年の1月から2月は明治座の舞台に立たせていただきまして、そこでも「新天地」という感覚は変わりませんでした。初めて明治座でお芝居をしたのが2005年で、これまで何度もやらせていただきましたが、そんな勝手知ったる場所でも、新しい作品で、なおかつ初めてご一緒する方もいらっしゃるわけですから、いつも新鮮な気持ちでお芝居ができています。
また、公演期間中は同じ共演者と同じお芝居をするわけですけど、アドリブは入るし、お客さんの反応も違うので、毎日異なる時間を生きているというか、飽きずにいられるんですね。ただ、稽古は…飽きます。何回も同じことをやるので(笑)。
クランクインの
前の日は、緊張して
寝られなかったりもする。
ドラマもそうですが、やはりお芝居の現場は緊張します。もちろん楽しみだという気持ちもあるんですが、役柄を作り込まなければいけないので、集中しますし、共演者にも迷惑はかけられない。もう30年以上も芸能生活を続けていますが、クランクインの前の日は、緊張して寝られなかったりもします。ただ、それが自分らしいというか、「ああ、いつも通りだな」と確認できるので、悪いことではないと思っています。そこでスッーと熟睡してしまったら、つまらない。新しいページをめくる瞬間というのは、不安になって当たり前なんです。
逆に、良い意味で緊張しないのは、旅番組ですね。一番自分らしさが出せる瞬間というか、僕の素を見てもらえる場所でもあります。やはり芸能界ではいろいろなしがらみがあって、100%の自分が出せる場所って意外と少ないんです。旅先では、何も背負ってないし、1人の人間として現地の人と触れ合うことができる。侍でも刑事でもない、ありのままの自分を出せるのがとても嬉しいんです。
20代や30代の頃は、自分を着飾ったり、背伸びしたりもしました。俳優というのはこうあるべきだという思いもありましたけど、ある時期から180度考え方が変わって、もっと、“真っ白”な自分でいいんじゃないかと思ったんですよね。ドラマや映画、舞台では役を演じますが、それ以外は普通でいるべきだと。きっかけは、やはり『世界ウルルン滞在記』で何度も海外に行ったことが大きかったですね。辺境の地へ足を踏み入れたときに、こうしようと思わなくても、自然と人間・原田龍二として、振る舞うことができたんです。
というよりも、むしろそうしないと通用しないというか、「自分は役者なのでそれはできない」とか言っている場合じゃないんですね。現地の人たちと同じものを食べて、同じ格好をして、同じ価値観に身を置かないと、心を通わせることができない。でも、言葉が通じない中で、精一杯気持ちをさらけ出して伝えると、彼らは応えてくれるんです。本当、究極のコミュニケーションだと思います。
演技以外の場所では
“作らないこと”を
楽しみたい。
コミュニケーションの末に、相手が僕に対して、どのような印象を抱くのかということにはとても興味があります。旅先で一瞬しか触れ合わなかったとしても、「すごく気さくな人だったよ」と言ってほしいし、「原田龍二に会ってよかった」と思ってもらいたい。そのためには、素の自分をお見せしないといけないですよね。役者は別人を作り上げる仕事ですが、だからこそ、それ以外の場所では“作らないこと”を楽しみたいという思いがあります。
僕は今「原田龍二のニンゲンTV」というYouTubeチャンネルをやっているんですけど、そこでも飾りっ気のない、計算をしていない素の僕を見て、面白いと思っていただきたいです。ただ、YouTubeはこれまでのテレビとは異なる、まさに僕にとって「新天地」なので、正直、まだ自分の可能性を探っている最中ではあります。当然、物理的なこと、予算的なことも関係してくるので、全てができるわけではないんですけど、できるだけジャンルの幅は広げておきたい。たぶん、特別なものじゃなくてもいいと思うんですよね。単純に誰かと話すだけの動画とか。その中に、何か見ている方に伝わるものが入っていればいいのかもしれません。
新しいチャレンジをするときは不安になりますし、皆さんの中にも、きっと新天地に移る前の晩は僕と同じように、緊張して眠れない人もいると思うんです。でも、恐れることは何もありません。どんな場所だって、命まで取られることはないですから(笑)。そう考えたら、怖がらなくても大丈夫。何をしても緊張は消えないわけですし、だったら、むしろ新天地でのドキドキを楽しむくらいの気持ちでいいんじゃないかと思いますね。
原田龍二 はらだりゅうじ 俳優。1970年生まれ、東京都出身。俳優として活躍する一方で、バラエティなどにも出演。『バラいろダンディ(金曜日)』(TOKYO MX)ではMCを担当。
撮影/野呂美帆