象徴的な一つのキーワードについて、
原田龍二が縦横無尽に語る。第16回は「風習」。
撮影/野呂美帆
象徴的な一つのキーワードについて、
原田龍二が縦横無尽に語る。第16回は「風習」。
実は今、執筆活動をしていまして、いろいろと調べものをしていたら、パプアニューギニアにすごい風習を見つけました。それはミイラ。アンガ族という部族の風習で、まず、亡くなる前にお父さんが自分で室を作るんです。家族にも「死んだらミイラにしてほしい」と伝えておいて、いざ亡くなったら、木枠にはめて室で自分を燻してもらう。お父さんを燻している間、親族はその場を離れることができないし、飲食も制限されていて、とても厳しい掟の中でミイラづくりを進めていくんです。そして、そのミイラは村の守護神になるんですね。我々のお墓参りや仏壇と同じ感覚だと思うのですが、もっと生々しくて、リアルで、大きな衝撃を受けました。
ミイラづくりは、アンガ族が故人を忘れないようにするための風習でもあるんですね。そして、南米の部族に伝わる風習にも同じような意味合いがあります。これまで何度かお話しているベネズエラのジャングルで暮らすヤノマミ族は、亡くなった人の骨を粉にしてひょうたんに入れて、故人を偲ぶ際に、その粉をバナナのピューレと混ぜて、みんなで食べるんです。
死者の魂を
自分の中に入れて
一体化する。
その行いには、死者の魂を自分の中に入れて一体化するという意図があります。我々には死者の灰を食べる文化や風習がありませんから、ギョッとなってしまうんですが、そういった環境で生まれ育ったら当たり前のことなんでしょうね。僕が現地を訪れたときに、実際にその現場を見ることはありませんでしたが、どこかに死者の灰が入ったひょうたんがあったと思うんです。
風習は本当に面白いですよね。バリ島に行ったときも、現地ではバリ・ヒンドゥーと呼ばれるバリ島独自の宗教が信仰されているんですけど、信者は一日に何度もお花や食べ物などをお供えして、神に祈りを捧げるんです。ある種のアニミズムでもあり、精霊が身近なのだと実感できました。僕もYouTubeで心霊スポット巡りをやっていますけど、日本だとどうしてもオカルトに寄ってしまいます。でも、バリはそういったことが生活に根付いているのが、とても素敵だと思いました。だから、おばけも怖くないんですよ、バリ島の人たちは。最後はみんな霊になるという考え方ですから。
日本人が霊的な存在をなぜ怖がるのかというと、生と死の距離が遠いからだと思うんです。僕もお墓参りに行きますが、その瞬間しか亡くなった人を思い出さないのは寂しいですよね。日本だと法事のときなど、親戚が集まったときに話すぐらいじゃないですか。もっと普段から亡くなった人について話をしてもいいような気はします。
そういう会話をしてきていないから、みんな“死”が怖い。心構えができていないところに急に訪れるから、恐れてしまう。アンガ族やヤノマミ族、バリ島の人々のように、もっと死が身近で日常的なものであれば、怖がる必要なんてないんです。
僕が心霊スポットを訪れるのは、死への準備というか、死んだ後の予習でもあるんです。もっと死を考えていたいし、死を身近に感じていたい。あくまで僕の見解ですが、死んでからは永遠の時間が続くと思うんです。僕らが生きてきた時間よりも長い時間が流れている。いや、もしかしたら時間という概念はないのかもしれませんが、死んでからのほうが長いのであれば、生きている間もそのことを考えたいという思いがあります。
死が身近な
人たちに対しての
憧れがある。
だからこそ、ラオスに行ったときも、モンゴルに行ったときも、現地で死がどのように扱われているかが気になるんです。山の奥に埋められる土葬の国もあれば、川に流す国もあるし、鳥葬の国もある。コーディネーターから「あそこには行ったらダメだよ」と言われても、どうしても気になってしまうんです、その国の死者の弔い方が。そういった意味では、日本は死というものにそこまで価値を見出していない国でもありますから、少し寂しさがありますし、死が身近な人たちに対しての憧れみたいなものもあります。
今、あることを思い出しました。昔、家族で犬を飼っていたんですね。まだ子供たちが小学生くらいの頃でしたが、その犬が死んでしまって。火葬することになり、家の前に移動火葬車が来てくれたんです。焼いてくれて、しばらくすると骨になるんですけど、僕、思わずその骨の一欠片を食べてしまったんです。子供たちは泣いていたんですけど、僕が骨を食べた姿を見て、びっくりして泣き止んでしまいました。衝動的でしたね。食べたことで一生忘れることはないだろうと。思い返すと、ヤノマミ族と同じで一体になりたいという思いがあったのかもしれません。好奇心もたぶんあったと思います。
繰り返しますが、僕は普段から死を感じていたい。だからこそ、アンガ族やヤノマミ族の風習に惹かれるし、現地で体験してみたいという思いもある。できることなら、ミイラづくりにも参加してみたい。興味対象がどうしてもそういう方向に行きがちで、実は今書いているものも、そういった内容なんです。詳しくお知らせできる段階になったら、またこの連載でもお話しますので、気長に待っていてください。
原田龍二 はらだりゅうじ 俳優。1970年生まれ、東京都出身。俳優として活躍する一方で、バラエティなどにも出演。『バラいろダンディ(金曜日)』(TOKYO MX)ではMCを担当。
撮影/野呂美帆