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原田龍二

原田龍二

原田龍二

撮影/野呂美帆
取材・文/大道絵里子

象徴的な一つのキーワードについて、

原田龍二が縦横無尽に語る新連載。第8回は「温泉」。

 僕が「温泉俳優」を名乗るようになったのは、旅番組で行った熊本の満願寺温泉の「川湯」がきっかけでした。川の中に湧く温泉で、川と同じ高さの目線で入れる露天風呂なんですが、無人でなんの囲いもないんですよ。温泉宿とか普通に家があるような場所で、道路沿いだし、当然、丸見えになる。さらに、温泉のすぐ横に生活用水として使える水場も並んでいて、湯舟に浸かる人の横で地元の人が洗濯をしたり、大根を洗っていたりするんですね。そんな川湯に浸かっていると、なんともいえない開放感を感じて……。自然と交じり合った生活様式というか、川湯の在り様そのものが自分にはものすごく衝撃的だったんです。身体だけじゃなくて心まで裸になれるような感覚になったというか。すぐ後ろに山田洋次監督も泊まったという、おばあちゃんが切り盛りしている宿があって、そこの内湯も使わせてもらったんですが、前だけ隠して素っ裸で移動しましたからね。いくら近くても、普通なら洋服を着て移動すると思うんですけど、それくらい開放的になっていたんですね(笑)。

こだわりは、

入浴するときに

何も身に着けないこと。

 そのロケ中、どのタイミングかは覚えていないんですけど、気がついたら「今日から俺は温泉俳優だ」という言葉を口走っていました。もう7年くらい前ですか。そんなことを言ったばっかりに、ある意味「温泉俳優」という言葉が独り歩きを始めたんです(笑)。

 なので、温泉の入り方とかお湯の効能がどうこうとかは、正直まったくわからないんですよ。自分のこだわりといえば、水着やタオルの着用が義務付けられている混浴の温泉は別として、入浴するときに何も身に着けないということだけ。だって、お風呂に入るときはみんな裸でしょ? なぜ芸能人だから、テレビ番組だからって特別扱いするのか。タオル着用で入って「撮影のためにバスタオルを着用してます」というテロップが出るのは、僕にとっては屈辱なんです。若い時から、そういう「芸能人ぶった」ものを嫌悪してきましたからね。だから決して好感度を気にしてやってるわけじゃなくて、本当に自分がやりたくないだけ。「なんだよ芸能人が」と舐められたくない思いが、すべての基本、根底にあるんです。
 だから、挑発されたらついのっちゃうんですよ。あれは栃木県の那須温泉の鹿の湯でした。入り口から奥に行くにしたがって熱くなる、一番奥は48℃という高温の温泉で。僕が入ると、その一番奥の縁に、地元の老旦那衆が裸で座っていて。お話を伺っていると、僕のことを知ってる方がいらっしゃったんです。「温泉俳優を名乗ってるんだって? だったら、48℃に入れないとダメなんじゃない?」と優しい挑発を受けまして。まぁ、そう言われると入らない選択肢はない。入りましたね。3分。体についたすべての雑菌が死滅するかのような熱さでした。1回経験するともう忘れられない、いい思い出になりました(笑)。

 せっかくなので、僕がこれまでに体験してきた「いろんな意味ですごかった温泉ベスト3(順不同)」を紹介します。1つ目は硫黄島の東温泉。海に面した岩場に湧く、これぞ秘湯!というダイナミックな温泉です。光の屈折でお湯が緑っぽく見えるのも神秘的で。旅の締めくくりとして行った温泉で、鹿児島からフェリーで4時間半ぐらいかかりました。最後は旅情が盛り上がるんですね。温泉と景色が素晴らしくて初めて温泉に入りながら泣きました。お湯が酸性だから目に染みたわけじゃない。紛れもない「感動」でしたね。

原田龍二

たくさんの「自然」と

触れ合えるのは

本当に幸せなこと。

 あとは栃木県の三斗小屋温泉も良かったですね。那須ロープウェイの終点から3時間くらいかけて山登りしてやっとたどり着ける、山の頂にある露天風呂です。そういう場所に行くと、なぜかいろんなことに対する感謝の気持ちが湧いてくるんですよね……。

 屋久島の平内海中温泉もすごかったなぁ。 自然の地形のままの温泉で、普段は海の中に沈んでいて、干潮時の前後2時間だけ入浴できるという温泉です。ちゃんと調べないと、行っても「ない」という。そう、温泉というのは自然が持っている不思議、雄大な力を感じられる場所でもあるんです。

「温泉俳優」と名乗ったことで、お仕事でたくさんの「自然」と触れ合えるのは本当に幸せなことだと思っています。

 それもこれも……いつもこの話になって恐縮ですが、20代の頃、僕がお世話になったドキュメンタリー番組では、結局、心を裸にする訓練をしてきたんだと思うんです。あの経験がなかったら、ここまで体当たりで温泉と向き合えなかったかもしれない。恐らく、なんの躊躇もなく裸になれる下地ができていたからこそ巡り合えたものだとも思うんですね。

原田龍二

 また、俳優をやっていると、いろんなところで着替えさせられることもある。僕、『水戸黄門』の助さん役のときでさえ、河原で着替えさせられたことがありましたからね。着物というのは面積がある場所じゃないと着られないので、衣装さんが河原にビニールシートを敷いて、「じゃあ、着替えましょうか」と言ったときも、僕はまったく平気で「はい」とすぐに脱ぎ始めました(笑)。いろんなことに対応できるという意味でも、ありがたい経験をさせていただいたなぁと思うんです。

原田龍二

原田龍二 はらだりゅうじ 俳優。1970年生まれ、東京都出身。俳優として活躍する一方で、バラエティなどにも出演。『5時に夢中!金曜日』(TOKYO MX)ではMCを担当。

撮影/野呂美帆
取材・文/大道絵里子