象徴的な一つのキーワードについて、
原田龍二が縦横無尽に語る。第29回は「援護」。
撮影/野呂美帆
象徴的な一つのキーワードについて、
原田龍二が縦横無尽に語る。第29回は「援護」。
僕も出演中の連続ドラマ『肝臓を奪われた妻』が日本テレビ系で放送されています。このドラマはいわゆる復讐劇で、僕が演じるのは伊原六花さんの演じる主人公に命を救われて、恩を返すために彼女の復讐に協力する黒田修二という役です。ただ、復讐とはいっても直接的ではなく、相手を遠回りに攻めていくというか、精神的に追い詰めていく感じですね。
僕は『必殺シリーズ』を見て育っていますから、物理的に鉄槌を下すのが好きなんですけど、そういうドラマではありません(笑)。それに、主人公のリベンジが中心軸にあるんですけど、他にも登場人物に共感できる部分や愛情を感じられるシーンなども盛り込まれていて、考えさせられるドラマになっていると思います。物語はようやく中盤に差し掛かったところなので、ご覧になっている方は、ぜひ最後まで見ていただきたいですね。
何年経っても
助さんを演じていきたいと
強く思った。
悪を懲らしめるといえば、『必殺シリーズ』もそうですけど、『水戸黄門』もその一つではないでしょうか。僕が助さん役で出演させていただいた御園座の三月特別公演も、無事に千秋楽を迎えることができました。本当にありがとうございます。
助さんを初めて演じたのは32歳の時ですが、今回の舞台で改めて、何年経っても助さんを演じていきたいと強く思いました。そのためには、日頃から体を動かしておかなければいけません。いつもは町人の格好をしている助さんですが、いざという時には刀を抜く水戸藩の侍なので、舞台でも立ち回りがあります。魅せる立ち回りは、演じる側の筋力が必要ですし、俊敏さも求められます。一朝一夕で身につくものではないので、毎日のトレーニングが欠かせないというわけです。いま僕は53歳ですが、舞台を見に来た方に「もう若くはないから、しょうがないか」と思われないような立ち回りを心がけたいですね。
ただ、舞台は“ナマ物”なので、アクシデントがつきものです。今回もありました。まず初日の公演でかつらがズレてしまいました。僕の立ち回りはだいたい50手ほどあったんですけど、15手くらいでかつらがグンッと横にズレてしまった。テレビの時代劇では動かないように接着剤で固定するんですけど、舞台は被っているだけなんです。でも、あと35手もあるから、なんとかしなきゃいけない。タイミングを見計らって直しましたよ。
また、こんなこともありました。立ち回りでは竹光を使うんですけど、木の刀身に銀紙を貼って本物の刀に見せているんです。ある回の公演では、刀同士が力強くぶつかりあい、銀紙が一気に剥がれてしまいました。でも、まだ立ち回りは続く。どうしようかと考えを巡らせた結果、刀をお客さんから見えないように後ろに隠しました。そのまま刀を隠しながら敵を牽制して、舞台袖にはけた瞬間に予備の刀を受け取って事なきを得ましたけど、あれは非常にあせりました。
和歌山県田辺市は
ヒューマンパワーを
持った人に適した場所。
『水戸黄門』の舞台は11月にも再演があるので、楽しみにしていてください。
そんな黄門様の時代からはもう少しさかのぼりますが、実は最近、武蔵坊弁慶になる機会もありました。黄門様の側近だった助さんのように、弁慶も源義経に仕えた忠義の僧ですよね。
弁慶にふんしたのは、弁慶の生誕の地と言われている和歌山県田辺市をPRする「紀州発信プロジェクト」の一環でした。和歌山が舞台の映画『紀州騎士~きしゅうでないとぉ!~』(2021年公開)に出演させていただいたご縁で、呼んでいただいたんです。
弁慶の格好で市長ともお会いしましたよ。スーツじゃなくていいのかなと思いながら(笑)。
田辺市は博物学者の南方熊楠が半生を過ごした地でもあります。世界遺産の熊野古道というスピリチュアルなエリアがあり、山や海などの自然も豊富な田辺だからこそ、熊楠の能力が磨かれたのではないでしょうか。ああいうヒューマンパワーを持った人にはすごく適した場所なんじゃないかと思いますね。
今回、僕は川湯温泉にも入らせていただきました。ここは自分で川原を掘って、自分だけの露天風呂を作ることができる珍しい温泉で、その模様もYouTubeで公開されているので、ぜひチェックしてみてください。
僕の生まれ育った土地ではありませんが、こうやって田辺市の楽しさや美しさはアピールできるのかなと思っています。そして、何よりまず足を運んでいただくことが大事なのかなと。多少アクセスしづらい場所ですけど、まずは行かないとはじまりませんから。これは僕がよそ者だから言えるのかもしれませんが、そういった不便さが良さに変わる味わい深い場所でした。
原田龍二 はらだりゅうじ 俳優。1970年生まれ、東京都出身。俳優として活躍する一方で、バラエティなどにも出演。『バラいろダンディ(金曜日)』(TOKYO MX)や『カラオケ大賞』(チバテレ)ではMCを担当。YouTubeチャンネル「ニンゲンTV」主宰。
撮影/野呂美帆