象徴的な一つのキーワードについて、
原田龍二が縦横無尽に語る新連載。第7回は「不思議」。
撮影/野呂美帆
取材・文/大道絵里子
象徴的な一つのキーワードについて、
原田龍二が縦横無尽に語る新連載。第7回は「不思議」。
僕らの世代は、子供のころゴールデンタイムで『川口浩探検隊』が世界各地のUMAを探しに行ったり、ユリ・ゲラーの超能力特番を見たり、昼間も『あなたの知らない世界』などで心霊番組を見てきたので、圧倒的にそういうものに触れる機会があった。だから当然といいますか、UMAや不可思議なものは大好きでしたし、今でも大好きです。ところが、ある時期からそういうものに対して「インチキだ」「嘘くさい」と言う声が大きくなって、あまりテレビでやらなくなってしまった。それは本当につまらないことだと思います。正直に言ってしまえば、僕にとってインチキかどうかなんてどうでもいいこと。それ以前の「ロマン」みたいなものが魅力なんですから。
解明できない未知の存在ってワクワクするじゃないですか。それが心を豊かにしてくれる。もしネッシーがいたら何を食べるのかな、どんな鳴き声なのかな、触るとどんな感触なのかな……そうやって想像すること自体が楽しいわけですから。
幼い女の子の
ケタケタケタという
笑い声がした。
あるとき番組で、ネッシーの調査をやっている科学研究チームのもとへお話を聞きに行きました。ネス湖の水から生物のDNA調査をして、謎を解明しようという研究です。結果、我々が怪しんできた巨大生物は巨大うなぎじゃないか、となった。「巨大うなぎって?」と気になるのは置いといて、でも99%ネッシーはいないけど、100%いないとは彼らも言い切れないと言うんですね。だとしたら残りの1%の中に無限の可能性がある。それこそがロマンです。
僕は番組で座敷童子の調査も担当させていただいていますが、こないだは座敷童子が出る福井のホテルと僕の自宅をリモートで繋いだ収録をしました。僕は自宅、ディレクターは近くのホテルに陣取って、僕と同じ映像を共有しながら一晩中モニター越しに調査をしたんですが……午前0時前後、ハッキリ幼い女の子のケタケタケタという笑い声がしたんです。その瞬間、ディレクターも「今の何ですか?」と言いました。「女の子の声だよね? 聞こえたよね?」と2人で確認し合ったんですが、あとで映像や音声を確認したらその声は入っていませんでした。
「残念だったね」という人もいます。テレビ番組ですから、当然そうでしょう。でも僕はラッキーだなと思いました。だって僕は一小節ぶんくらいは、確かに楽しそうな笑い声を聞きましたからね。番組には申し訳ないけど、俺が見たり聞いたりして「いる」と確信できればそれで満足なんです。「証拠」はどうでもいい。だから、ああいう調査のときに「恐怖心」は一切ないですね。それより「好奇心」。後日放送を見て、よくこんな暗い部屋にいたな……と思ったりはしますが、そのときは何か起きないかな、という期待感が遥かに飛び越えちゃってます。
そんな僕が恐怖を感じるのは「自然」に対してですかね。海で漂流したこともあるので……。あれは僕が初めて『ウルルン滞在記』のロケに行ったときのこと。スリランカでカツオ釣りの名人のお宅に居候して、その人と一緒にインド洋でカツオの一本釣りをする企画だったんですね。ところが漁場に着く前にシケがきて戻る、というのを連日繰り返すはめになった。スケジュール的に今日がラストチャンスという日、最高の晴天になったんです。全員、意気揚々と漁場に向かいました。
もうダメだなって。
陸地から離れた海の上で
助かるわけがない。
その前に船の様子を説明しておきますね。僕が名人と乗っているのは木をくりぬいたような簡素な船でした。エンジンもない。その船をエンジン付きの大きい船が、ロープでつないで牽引する、という形で漁場に向かうんです。大きな船からキャメラマンが僕らを撮影するわけですね。
出発して2時間くらい経ったころでしょうか、突然、暴風雨になった。目の前がほとんど見えないぐらいの雨風で、ジェットコースターのように船が上下していました。そのシチュエーションの中でロープが切れたんです。
大きな船に乗っているディレクターの「原田く~ん!」という声がだんだん聞こえなくなって……パッと振り返って名人を見たら頭を抱えてしゃがみこんでいました。それを見た瞬間、あぁ、もうダメだなって。陸地から2時間かけた海の上で助かるわけがない。俺の24年の人生、最後はインド洋かぁ。そう諦観したら不思議と恐怖心が収まって妙に落ち着いてきて……そこで記憶がなくなるんです。気づいたら知らない港に着岸していました。何で助かったのか分かりません。スタート地点からは2時間の遠洋でも、着岸した陸地からはそんなに遠く離れてなかったのかなぁとは推測しますが……真相は分からない。だから、僕はそこで死ねない定めだったんじゃないかなって。
今回のテーマの「不思議」ですが、人はこの世に生を受けた時点で、誰もが不思議な旅を始める気がします。明日の事は誰にも分からない。正解がなにか分からない中で生きていくけど、唯一、死ぬことだけは決まっているんですよね。その枠の中でいろんな出会いがあって、経験があって、感動があって……そう思うと僕にとって不思議はワンダーではなくライフ。「生きる」という意味でもあるし「人生」という意味でもあります。不思議でよく分からないから人生は楽しいのかもしれないですね。
原田龍二 はらだりゅうじ 俳優。1970年生まれ、東京都出身。俳優として活躍する一方で、バラエティなどにも出演。『5時に夢中!金曜日』(TOKYO MX)ではMCを担当。ニッポン放送のラジオ『DAYS』の水曜パーソナリティを担当。
撮影/野呂美帆
取材・文/大道絵里子