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原田龍二

原田龍二

原田龍二

撮影/野呂美帆

象徴的な一つのキーワードについて、

原田龍二が縦横無尽に語る。第21回は「下町」。

 僕の思い出深い場所の一つが、足立区の竹ノ塚です。僕は生まれてから高校を卒業するまで、この竹ノ塚に住んでいまして、まさに青春時代を過ごした場所でした。広いくくりで言えば、いわゆる東京の下町なんですけど、観光客で賑わう浅草のような下町ではなくて、埼玉との県境なので、もっと生活感があって自然の多い下町というか。特に僕が生まれたのは昭和45年ですから、まだまだ整備されていない自然が残っていたんですね。埋め立てられていない池や沼が点在していて、カッパが出るなんて噂もあったりして(笑)。僕らはそこでザリガニ釣りをしたり、空き地で野球をしたりしていました。

 あと、当時のブームだったメンコとか、スーパーカー消しゴムとか。もう『こち亀』の世界ですよ。秘密基地も作りましたし、ゲームセンターにも駄菓子屋にも通いました。思い返すと平和でしたよね。遊びの構造も友達との関係も、いまよりずっとわかりやすかったと思います。入り組んでいなくて、それぞれの個性を尊重し合う、いい関係を築けていました。

中高の6年間は

満員電車で通学。

根性はつきました。

 ガキ大将みたいなやつもいなくて、みんな仲が良かったんですよ。いまは老朽化が進んで取り壊されたりもしていますけど、団地や長屋に住んでいる友達もいて、家に遊びに行くのが楽しかったなぁ。その長屋に住んでいる友達の友達と仲良くなったりもして、交友関係が広がっていきました。

 その友達の兄貴が絵に書いたような暴走族で、僕が友達の家で遊んでいると夕方くらいにバイクで帰ってくるんです。こっちは子どもだから、そんな世界知らないわけじゃないですか。そういう人たちの派手な格好を見るのが楽しかったですね。でも、何か因縁をつけられたとか、暴力を振るわれたとかは一切なくて。まぁ子どもだったから相手にされてなかっただけでしょうけど。

 それがだいたい小学生の頃ですね。小学校は家の近所だったんですけど、中学校は御徒町にあったから、中学生から電車通学になるんです。竹ノ塚から御徒町までなので、当時は45分くらいかかった気がします。竹ノ塚、西新井、梅島、五反田、小菅、北千住、南千住、三ノ輪、入谷、上野、御徒町で11駅ですね。会社に通勤する人たちと同じ満員電車に乗っていました。

 朝から乗車率120%超で、駅員がホームで乗客を押し込んでいましたから。満員で身動き一つ取れなかったので、きつかったです。特に中学1年生の頃なんか、まだ身長も低いですし、体もできていないので、すぐ貧血になるんです。

 苦しさに耐えられなくなると、小菅あたりで一回降りてしまうんです。もう一駅だけ頑張れば、乗り換えで割りと人が降りる北千住に着くんですけど、我慢できなかったんでしょう。ただ、いつも早く家を出ていたので、途中で電車を降りても学校を遅刻したことはありませんでした。

 それが高校までなので6年間。おかげで根性はついたと思います。

原田龍二

苦しみから人々を救う

下町のヒーローを

演じています。

 中学の頃の遊びというか、楽しみはプロレス観戦でした。いまはもうありませんけど、学校から30分くらいのところに蔵前国技館があって、よく新日本プロレスを見に行っていました。アントニオ猪木さんや長州力さんの時代です。

 当時はまだ金曜の夜8時に『ワールドプロレスリング』が生中継で放送していて、クラスにもプロレス好きなやつが何人もいましたから。みんなでよく行きましたね。

 当時の下町は、まだ高度経済成長時代の残り香があったというか、みなさんタフでしたよね。激しさがむき出しというか、勢いがあった気がします。昭和のパワフルさでしょうか。

 僕の出演している『下町任侠伝 鷹』シリーズもまさにそういう世界観なんです。任侠物語なんですけど、僕の演じている八代目侠栄一家組長・鷹羽栄眞という人物は、火消しのような半纏を着た下町の何でも屋、いわゆるよろず稼業なんですね。任侠道の礎となる人助けの精神を大事にしていて、とにかく困っている人を見ると放っておけない。かっこよく言うと、日々の悩みや苦しみから人々を救う下町のヒーローですよね。僕も鷹羽栄眞が実在したら会ってみたいです(笑)。

原田龍二

 1月25日には最新作のDVD『下町任侠伝 鷹7』がリリースされるので、興味のある方はぜひ手にとってみてください。

 撮影は浅草を中心に下町で行っていて、侠栄一家が住んでいるのも日本家屋ですし、出てくる道具も黒電話や神棚など、アナログなものばかりです。日本人ならではの郷愁をくすぐる風景も出てきますし、そういった世界が好きな方にもたぶんハマってもらえると思います。

原田龍二

原田龍二 はらだりゅうじ 俳優。1970年生まれ、東京都出身。俳優として活躍する一方で、バラエティなどにも出演。『バラいろダンディ(金曜日)』(TOKYO MX)ではMCを担当。

撮影/野呂美帆