原田龍二が縦横無尽に語る。第38回は「現場」。
すっかり肌寒い季節になりましたが、少し今年の夏のことをお話できればと思います。この夏は『冤罪のつくりかた』という映画の撮影をしていまして、8月20日には制作発表会にも出席しました。
映画は実際のIR汚職事件をモチーフに、冤罪を作る側の視点から描いた社会派サスペンスで、主演は加藤夏希さんです。そして、僕は加藤さん演じる東京地検特捜部の検事に追い詰められる政治家の役でした。
制作発表会では報道関係者の皆さんを前に、公開本読みを行いました。本読みとは、キャストが台本に沿ってセリフを読み合わせることを言いますが、一般に公開することはほとんどありません。だから、非常に珍しい試みだったと思います。YouTubeでライブ配信も行いましたし、映画の効果的なPRになったんじゃないでしょうか。
演じることだけを心がけた。
ただ、僕は昔から本読みって、あまり好きではないんです。登場人物が言葉を発するときって、相手と向かい合ったり、ときには歩きながらだったりしますよね。座りながらしゃべること自体が不自然なので、どこか落ち着かないというか、ムズムズするというか。配信で公開されたのも、なんだか恥ずかしかったですね。
実は今回、映画の撮影中もTikTokで生配信していました。本当に異例づくしですよ。役者としては気が散ってしまう瞬間もなくはないのですが(笑)、宣伝を兼ねて撮影現場を皆さんに見ていただくというのは、アイデアとしては悪くないのかなと思います。映画の公開まで、いかに継続して世間に注目してもらうかというのは、制作側の大きなテーマだと思いますから。
今回、僕の演じた政治家は、映画のモチーフになったIR汚職事件の中心人物である前衆議院議員の秋元司さんがモデルになっています。
僕は秋元さんにお会いしたことはないですし、彼が取調べを受けている場面というのも目にしたことはないので、秋元さんになりきるというよりは、ただ台本に忠実に演じることだけを心がけました。なので、実在の人物を演じているという意識もあまりなかったんですけど、僕と秋元さんは背格好が似ていて、衣装も近いものを用意していただいたので、秋元さんを昔から知っている人からすると、ダブって見える瞬間もあったみたいですね。そういう意味では演じやすかったです。また、公開日が近くなってきたら、映画のことをいろいろとお話できればと思います。
映画の撮影以外には、YouTubeチャンネル「ニンゲンTV」のロケで、岡山県を訪れたのも、今年の夏の思い出の一つです。
岡山県では1年ぶりに護法祭(ごほうさい)に参加しました。護法祭というのは、岡山県の美咲町にある両山寺というお寺で毎年8月14日に行われる奇祭で、750年の歴史があります。五穀豊穣や厄払いのためのお祭りなんですけど、変わっているのが、お祭りのクライマックスとなる深夜に、神様を宿した護法実(ごほうざね)、通称「ゴーサマ」と呼ばれる一人の村人が寺の境内を駆け回る儀式があるんです。この儀式のことを「お遊び」と言いまして、お遊びの邪魔をしたり妨げたりすると、ゴーサマに捕まり、3年以内に亡くなってしまうという言い伝えがあります。
全身で感じることができた。
僕は去年も護法祭に参加させていただいたんですけど、そのときはあくまで参拝者としての参加でした。でも、今年はゴーサマの身の回りのお世話をする関係者として参加させていただくことになったんです。詳しくは「ニンゲンTV」を観ていただきたいのですが、あの独特な雰囲気を全身で感じることができました。神様を降ろしたゴーサマがどこに行くかは、誰にもわからない。その状態の中で、ゴーサマの横について、うちわで仰いだり、水を飲ませたりと、お世話をする「腰取」をさせていただきました。
太鼓が鳴り響き、みんなの掛け声の中で、ゴーサマは神様を宿していく。時間にして1時間ほどでしょうか。神様を降ろしたゴーサマは、人混みの中にかき分けて入っていったり、燃え盛る火を飛び越えたりします。階段を走り下りたりもするので、伴走している僕の頭の中は、もうゴーサマが怪我をしないように、ということだけでした。照明などもなくて、灯りは松明の火だけですから。まさに、神様に付き従う感覚です。もうこんなチャンスはないと思いましたし、とても貴重な経験ができました。
岡山県のロケでは、もう一つ印象的な出来事がありました。それが、昭和13年に岡山県津山の集落で起きた「津山三十人殺し」の現場を訪れたことでした。有名な事件なので、ご存知の方も多いと思います。一人の男が深夜に村の人たちを殺害して周ったという戦前最大級の大量殺人事件で、横溝正史の小説「八つ墓村」のモチーフにもなりました。
その集落には今も住んでいらっしゃる方がいるので、マナーを守り、細心の注意を払って、村の中を歩いてみたんです。本当にのどかな村で、人々の営みがそこにありました。
もちろん、90年近く前の事件なので、当時のことを知っている人もいないですし、センシティブな話題なので、話を聞くことも難しいと思っていたんです。でも、たまたま訪れた集落の近くのお寺で、幸運な出会いがありました。このお寺のご住職が、両山寺のご住職とお知り合いで、僕らが護法祭に参加したこともご存知だったんです。そして、実はこのご住職の先々代の曾祖父が、「津山三十人殺し」の被害者の方々を供養されたそうで、いろいろとお話を聞くこともできました。
繰り返しになりますが、ぜひ「ニンゲンTV」をご覧ください。自分で言うのも変ですけど、岡山編は歴史を学ぶという意味でも、注意喚起という意味でも、本当に観る価値のある動画になったと思いますので。
撮影/野呂美帆