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原田龍二

原田龍二

原田龍二

撮影/野呂美帆
取材・文/大道絵里子

象徴的な一つのキーワードについて、

原田龍二が縦横無尽に語る。第5回は「食事」。

 食べることは人並みに好きです。でも健康のためにやってることとか「食へのこだわり」みたいなものはまったくないんですよ。あ、青汁だけは飲んでますけど。山本漢方製薬の「大麦若葉」! これはもちろんね(笑)。

 ただ高いお金を出して食べることが贅沢じゃないと思っていて。お腹が空いていたらインスタントのラーメンでも美味しいし、何気なく入った蕎麦屋がうまかったらすごく贅沢な気持ちになりますしね。僕、お蕎麦が好きなんです。仕事で地方に行ったときもお蕎麦が食べたくなる。比較的すぐに食べられますし、時間がない中でもスケジュールの負担にならないですし。東北や信州戸隠のお蕎麦とかすごく美味しかったですね。どう美味しいか? それは……僕、ゲテモノ料理とかだったら説明しますけど、お蕎麦とかを詳しく説明するのってなんか恥ずかしくなるんですよね。みんな知ってるでしょ?って。だから、食レポでも基本的に「美味しい」しか言いません(笑)。説明してる間に美味しさが逃げていっちゃう気がして。

モンゴルで食べた

羊の肉が、

忘れられない。

 “食”という行為は、単に何を食べるかってことじゃなくて、日々みんなが同じ時間に揃って食事をすることで「家族の絆」を育むものでもありますよね。我が家もそれを大事にしてきましたが、子供が大きくなってくると……特にうちは息子がサッカーのクラブチームに入っているので、どうしても難しくなる。だから今は、サッカーがお休みの毎週水曜日に、なるべくみんなでタイミングを合わせて息子の好きなものを食べるようにしてます。

 我が家の特別な“食”は……うなぎかなぁ。カミさんも息子も僕も、娘以外はうなぎが好きなので、みんなが「そろそろ食べたいな」と思い始めるタイミングで、いつも行くお店に出かけてますね。そうそう、それでいうと京都の嵐山にも家族の思い出のうなぎ屋さんがあるんですよ。そこは『水戸黄門』で里見浩太朗さんに連れて行っていただいたお店で、関東風のふわふわなうなぎが本当に美味しいんです。長門裕之さんもお気に入りでしたね。お二人には様々なアドバイスをいただいた場所でもあり、いろんな意味で特別感のあるうなぎ屋さんです。

 生涯忘れられない“食”といえば……やっぱりモンゴルで食べた羊の肉かなぁ。この連載の「友人」の回でもお話しましたが、ドキュメンタリー番組で出会い、10年間で3回訪ねたモンゴルのご家族がいるんですが、彼らは客人が来ると羊を選んでもてなしてくれるんです。僕が行くと、誰かが群れの中に入って羊を捕まえ始めるんですが、やがて一匹の羊を羽交い絞めにして……当然、そのまま解体が始まります。まずナイフでお腹をスーッと切って、そこから腕を入れて動脈をグッと握る。そしたら苦しまないで死んでいくんですね。それを「やってみろ」と言われて、僕も体験させてもらいました。

 滅多にできない機会だと思ったので、気持ち悪いとかはまったくなかった。解体がまた見事なんです。血の一滴も流れ落ちないよう、体内に収まるように解体していって、内臓も腸をきれいに洗って腸詰にして茹でて食べる。羊の踝も子どもたちの遊び道具に使ったり、一つも無駄がない。そういったことへの尊敬と相まって、あの羊の味は生涯忘れられない“食”ですね。味付けは塩だけですし、クサいっちゃクサいんだけど、これが彼らの栄養源なのかと思うと興味深く、ありがたく命をいただきました。

原田龍二

食べ物を出されて

断ったことは

一度もない。

 世界各国でホームステイしましたが、何か食べ物を出されて断ったことは一度もありません。言葉が喋れないわけだから、他のことで補うしかない。食べると喜ばれるし、距離も縮まる。彼らと日常をともにすることを目的に訪れているので、食べないという選択はないんですね。アマゾンでシロアリが出てきたときも、ここで食べなかったら一生食べないと思って喜んで食べました。葉っぱに入れたシロアリを焚火で蒸して食べるんですけど。味? それは……苦かったです(笑)。

 あと、ラオスに行ったときは、竹の節の中にいる白い芋虫とニラを一緒につぶしたものを食べました。ヤノマミ族は陸稲を食べているので、ふりかけのようにして。それは美味しかったですね。塩と唐辛子と、なにかスパイスみたいな調味料で味付けされていましたし。ただ、ジャングルの裸族に関してはほとんど調味料はないので、素材の味をそのまま楽しむことができる(笑)。まぁ、楽しまないとね。吐きそうになっても飲み込みます。でも農薬や化学薬品の心配もないし、逆に体にいいんじゃないかと思って。だから食に関して海外で悲惨な経験はないんです。

原田龍二

 個人的に面白かったのは、木の実を獲りに行ったとき。一本の木の上にたわわに木の実がなってる。一つがどんぐりくらいの大きさの緑の実なんですが、すごい量で。それをみんなで手分けして村に持って帰って調理するんですが、僕は茹でて皮をむいて食べるのかなと思っていたんです。そしたら実を茹でるまでは合っていたんですが、茹でた実は食べずに煮出したお湯を飲むんです。土色のお湯を……僕も飲みましたが、泥水の味でした。あれはどういう意図だったのか……なぜ実は食べないのか……今となっては調べようもないミステリーです(笑)。

原田龍二

原田龍二 はらだりゅうじ 俳優。1970年生まれ、東京都出身。俳優として活躍する一方で、バラエティなどにも出演。『5時に夢中!金曜日』(TOKYO MX)ではMCを担当。ニッポン放送のラジオ『DAYS』の水曜パーソナリティを担当。

撮影/野呂美帆
取材・文/大道絵里子