今回はチームみらい党首の安野貴博さんが登場。
―― 第27回参院選の期間中、YouTubeチャンネル『安野貴博の自由研究』で実施された対談(※)では、佐藤さんからの熱いエールが印象的でした。お二人の出会いはいつ頃だったのでしょうか?
安野 実は2024年の都知事選出馬のあとに、初めてお目にかかりました。初めにいきなり「後ろから撃たれる覚悟はあるか」と聞かれて驚いて。
佐藤 のちにチームみらいの共同設立者となった書籍編集者の黒岩里奈さんから、「夫が都知事選に出馬すると言い出したんです」と相談されたのが始まりでしたね。2025年5月に結党し、7月の参院選を経て12席を獲得。実際に永田町で働き始めて、感触はいかがですか。
安野 やはり、ある種異世界だなと思いながら日々を過ごしています(笑)。ポジティブな意味でもネガティブな意味でもサプライズはありました。
まずポジティブなところでは、与野党問わず、他党の議員さんたちが温かく迎え入れてくださったことです。永田町では50代でも若手の扱いなので、35歳で政治経験もない私は若手を通り越して赤ちゃんのようなものです。佐藤さんがおっしゃっていた「永田町言葉」に関しては、もともと通じないと思われているようで(笑)、今のところは特に困ったこともなく過ごしています。
ネガティブなところでは、国会にパソコンすら持ち込めないのは、スタートアップ業界にいた自分からすると衝撃でした。政治的イシューとして見なされている点のほかにも、ほとんどの国会議員が扱っていないけれど、実は重要な問題点もかなり多いと感じています。
佐藤 そういった視点を持ち込んだこと自体、いい仕事をされていると思いますよ。安野さんたちのグループは、今のところコンサルティング的な政党として機能しているように見えます。つまり、左右を超えて、永田町の抱える問題そのものを解決していく役割。
安野 おっしゃる通り、まだ大きな政党ほどは議席数を持たない中、そうして見過ごされていた問題に関しては非常にレバレッジが効くといいますか、1人の議員が問題提起をするだけでも大きな影響になるという実感はあります。なにせ、0が1になりますから。
佐藤 既存の政治家たちのプライドを傷つけないようにしつつ、本質的な問題に切り込むことが重要ですよね。パソコン持ち込みの問題もそうだし。かつてれいわ新選組は、重度の身体障害がある人が議員になったことをきっかけに、国会のバリアフリー化を一気に進めたでしょ。
安野 そうですよね。
佐藤 同じような形で、まず誰もが賛成するような改革案を出して、そこをベースに物事を合理的に考えて議論を組み立てていき、「そもそも論」として本質的な問題点にも切り込んでいけるといいかもしれない。そういうことを安野さんたちはできると僕は思っている。
ただ、そのためには全ての人たちと信頼関係を構築する必要がありますよね。「誰かの足を引っ張るために言っているわけじゃない」というところをまず理解してもらわないと、永田町の住人は話も聞いてくれないから。
信頼を得ることができる。
安野 信頼を得るには、どういったことを意識すればいいんでしょうか。
佐藤 簡単です。嘘をつかない。約束を守る。ただし、どんな小さな約束でも。できない約束は絶対しないこと。
安野 それができない人というのは、なんでできなくなってしまうんでしょう。その轍は踏みたくないと思っていまして。
佐藤 仕事で政治をやっている、という感覚が薄いんじゃないかな。与党でも野党でも熟練した政治家はそこを外しません。ドイツの政治学者であるカール・シュミットは、『政治的なものの概念』の中で、「政治の本質は、友と敵の区別にある」と言っています。敵を屈服させて言う通りに動かすものだ、と。正しいとか間違いとか、美しいとか醜いとか、関係ない。正しくても敵であれば潰さなければいけない。そういうゲームが政治だっていうことを、よくわかっていない人は多いように思う。
安野 なるほど……。
佐藤 それから、『週刊新潮』が攻撃してきたでしょ。2026年4月30日号で、「自民にすり寄る 高学歴集団「チームみらい」の正体」という見出しをつけて。
安野 ええ。
佐藤 しかも、無内容の攻撃だった。要は「こいつらなんとなく面白くない」「若いのに生意気だ」と思いたい、60代、70代のおじさん、おじいちゃん読者に向けた記事なんですよ。しかも逆に、「若者の代表ではなく、年寄りの影響を受けているんだ」というような意見も拾っていた。理屈じゃないんだ。編集部の意見というより、そういう人たちに買ってもらうための企画です。そういう目つきの悪い人たちもいるっていうことは、知っておいたほうがいい。
小さく失敗することが大事。
安野 前回の対談で佐藤さんからいただいた「壁を壊すのではなく、壁の向こうに友達を作れ」という言葉は、党内一同、ずっと大事にしています。まず小さなところからですが、挨拶は、こちらから必ずするようにしています。ああ、あいつ挨拶はちゃんとするんだな、と認識してもらうところから……(笑)。その上で、自分たちが大事にしているテーマやコミュニケーションを、ひたすら継続してやっていくしかないと思っています。
佐藤 あと、特に経済政策で気をつけないといけないのは、「選民思想を持っていて、自分たちだけが生き残ればいいと思っているテクノ・リバタリアン」というレッテルを貼られる危険性がある。そうではない、ということを、わかりやすく工夫して伝えていく必要があると思います。
安野 そうですね。私たちは誰も取り残さない政治を目指しています。政党名で「未来」を「みらい」と開いたのも、さまざまな人にとって開かれた未来を意識してのことでした。初めは私は「技術民主党」といった方向で党名を考えていたのですが、それでは伝わらないと妻に指摘されまして(笑)。
それに、どんなに交友関係が広い政治家であっても、見える世界には限界があると考えています。その限界を超えるために、AIが生活者の方と対話をしていく「AIインタビュー」を実装しました。その声を元に、自分たちの考えをアップデートしていくことが目的です。もちろんオンラインでだけ話を聞くわけではありません。さまざまな国民の方の声を広く早く深く聞く仕組みを、どんどん取り入れていけたらと思っています。
佐藤 国会は国民の代表ということになっているけれど、実態は高学歴者の代表ですからね。現在、日本人の大学進学率は6割程度だけれど、国会議員で高卒以下の人が4割いるわけではない。かといって、クオータ制を作ってさまざまな学歴の人を採用すればいいかというと、それはそれで問題も起こる。やはり予算や外交安全保障といった、技術的にも高度な操作が必要となる議論を理解する前提が必要になるから。そのあたりの難しさを調整することも、安野さんたちの課題だと思います。
安野 はい。そして、自分たちの出す案がベストではないかもしれない、というスタンスは忘れないように肝に命じています。そうでなければ、自分たちには見えていなかった意見が来たときに柔軟に反応していくことができません。これは今日のテーマの「壁を超える」にも通じると思うのですが、私はスタートアップ出身なので、なるべく早く、小さく失敗することが大事だと思っています。まず小さなプロトタイプを作って、公開して、検証していく。これまで、AIエンジニア、起業家、SF作家、そして政治家と大きく4つの職業を経験してきましたが、いずれにも共通しています。政策に関しても、「この問題を、この方法で解決できるのか」をなるべく早くいろいろな方に見せて、フィードバックを得ていくことが大切だと考えています。
佐藤 それから、タイミングを見る力。これも大事です。安野さんは都知事選に出たあと、次の都知事選に向けて準備をするのではなく、国政に打って出た。まず国政の仕組みを見ようというその選択は正しかった。そして、投票期間に入って「今のところ世論調査で0.8%くらいだけど、2%にするにはどうしたらいいか?」と私に声をかけてくださった。そのとき私は、安野さんたちのそれまでのYouTubeをいくつか観て、ぎりぎりのところで業績が上がらない証券マンやデベロッパーに似ていると思いました。どういうことかというと、最後に「買ってください」を言えていない。だから対談動画では、何度も「期日前投票に行ってください」と伝えた。「この動画を見て、チームみらいが良いと思ったら」「20時前であれば今すぐに」「20時を過ぎていたら、明日中に」「投票所に行ってください」と。それで投票した人は結構いると思う。
安野 そう思います。
佐藤 これもタイミング。2週間前に同じことを言っても、行ってくれない。その時々のフェーズに合った判断をしていかないといけません。
安野 そうですね。バージョン0.1を早く出すことが重要だと思っていますが、早いだけでは批判が生まれる部分もあります。どちらかというと他の政党は、じっくり検討してミスは極力なくすべき、という考えが多いとも感じています。ただ、現在はAI革命と言われるように、ものすごいスピードで世界が変わっています。その変化は産業革命に匹敵する、あるいはそれ以上かもしれません。こうした時代に対応するためには、やはりスピードが大事だと思うんです。変化に対していかに早く反応できるか。その意味で、スタートアップ業界でよく使われる「10X(テンエックス)」つまり「10倍の成長や変化を目指す」という言葉に倣い、「永田町を10Xする」ことも、我々の課題の一つだと考えています。
※参考
YouTubeチャンネル『安野貴博の自由研究』【佐藤優×安野たかひろ】前編2025年7月15日公開(動画はこちら)、後編翌16日に公開(動画はこちら)
撮影/野呂美帆 構成/藤崎美穂
スタイリング(佐藤)/森外玖水子
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