FILT

原田龍二

原田龍二

原田龍二

撮影/野呂美帆

象徴的な一つのキーワードについて、

原田龍二が縦横無尽に語る。第11回は「風景」。

 これまでテレビ番組などでいろいろなところに行かせてもらいました。その中でも、アマゾンの密林や大海の水平線など、忘れられない風景というものがいくつかあります。特に思い出深いのは、20代の頃にドキュメンタリー番組で訪れた、モンゴルの大平原ですね。視界の中に一切の人工物が映らない風景は、日本ではなかなかお目にかかれませんし、あの何もない大地の広がりはとても感動的でした。首都のウランバートルから車で500kmくらいの道のりを進むと次第に人工物が減っていき、ところどころでゲルが目に入ってくるんですけど、人々の営みが感じられるのはそれくらいで、あとは本当に何もなくなってくるんです。

 目的地までは1日で行けないから、野営をするんですけど、交代で焚き火の番をするんです。そうしないとオオカミに襲われてしまうので。そこで暮らす方々は家畜と一緒に移動する必要があるから、なおさらオオカミには警戒していました。

遮蔽物がないので、

空がとても

高く感じる。

 モンゴルはこれまで3回行ったんですけど、やはり夏の平原がとても綺麗でした。緑の大地がどこまでも続いていて、フレッシュな草の匂いもするんですよね。落馬しても草が守ってくれるので、大怪我することも少ないんです。僕も馬から落ちてしまったんですけど、怪我はしませんでした。冬は荒涼としていて、それはそれで素敵なんですけど、やはり地面が固いので、残念ながら亡くなってしまう人もいるんです。

 あと印象的だったのは、空の高さ。遮蔽物がほとんどないので、空がとても高く感じるんですね。せいぜい小高い丘くらいしかないので、視覚的な広がりがものすごい。「こんな何もないところで人って生きていけるんだな」と感動しました。もちろん、遊牧民の方たちは風を避ける防風林や、家畜の餌となる草が生い茂っている場所など、暮らすにあたって条件の良いところを知っているから、厳しい環境ながらも暮らしていけるんだとは思いますが。

 いままでさまざまなところへ行きましたが、僕はカメラを持っていかないんです。当時はスマホなんかありませんでしたから、ほとんど僕の見てきた風景というのは、写真に残っていません。例えばヘリコプターに乗って上空からアマゾン全体を見渡せる機会があったんですけど、それはどうやったって写真では伝わらない感動なんです。アマゾンの極一部しか切り取ることができないし、結局ただの記念写真になってしまうので、そういった場所で写真を撮るのは早々に諦めました。それよりもしっかりと目に焼き付けたほうがいい。写真を撮っていたらその時間もなくなってしまいますから。

 ただ唯一、ポラロイドカメラだけは持っていくようにしていました。それは風景を撮るためのものじゃなくて、現地の人にあげるために。1996年に初めてモンゴルを訪ねて、そこで暮らすご家族と出会ったんですが、そのときにポラロイドカメラで写真を撮ってあげて渡したら、大変喜んでいただいたんですね。その2年後に再会したら、その写真が仏壇に飾られていたんですよ。とても大切にされていたんですけど、ポラロイドの写真ってだんだん薄くなるんですよね。だから、もう一度そこで写真を撮って渡しました。

原田龍二

モンシロチョウを

撮るのに

30分も粘った。

 今はスマホがあるので、写真を撮るハードルはだいぶ低くなりましたよね。昔は本格的な写真を撮るには一眼レフカメラが必要でしたけど、今はスマホの性能もいいので、良い写真が簡単に撮れますから。僕も散歩するときなどは、必ずスマホを持っていって、「ああ、綺麗だな」と思ったら気の向くままに写真を撮るようにしています。こだわりはありませんが、やはり良い写真が撮れるとうれしいもので、ブログにもアップしたりしています。この前は、モンシロチョウを撮るのに30分も粘ってしまいました(笑)。

 あれは1994年くらいだったと思うんですが、初めて自分の写真集を出したんです。僕は被写体なんですけど、付録のような形で僕の書いた文章と撮影した写真も載せてもらったんです。この前、息子が僕の撮ったその写真を見て、「写真撮るのうまくない?」と言ってくれたんですね。あの言葉は今までで一番うれしい言葉でした。僕は俳優なので、ドラマなり映画なりを観た人から感想や批評をいただくことはあるんですけど、それ以外のことで評価されることがなくて、ずっと自身の創作物がどう思われるのだろうというのは気になっていたんです。

原田龍二

 僕はプロではないですし、散歩の合間にスマホでしか写真を撮りませんけど、いつか写真を撮る目的のためだけに1日を費やすような日があってもいいかもしれません。そして叶うなら、誰も見たことのないような、あまり人が撮らないような写真を撮ってみたいし、もし、それがどこかで発表できれば最高ですね。

原田龍二

原田龍二 はらだりゅうじ 俳優。1970年生まれ、東京都出身。俳優として活躍する一方で、バラエティなどにも出演。『バラいろダンディ(金曜日)』(TOKYO MX)ではMCを担当。

撮影/野呂美帆