やがて本になるwebマガジン|FILT BOOK
原田龍二
象徴的な一つのキーワードについて、
原田龍二が縦横無尽に語る。第37回は「熱量」。
 先日、下北沢のライブハウスでクマガイ電工さんの「沸かし太郎」という湯沸かしヒーターのCM撮影をしました。CMソングを書き下ろした4人組ロックバンド・POTとの共演で、バンドの演奏シーンからカメラを引くと、僕が「沸かし太郎」をマイク代わりに歌っているという内容です。これが思った以上に熱の入った撮影になりまして、音楽に合わせて飛び跳ねたり、ヘッドバンギングをしたりしていたら、ちょっとだけ首を痛めてしまいました(笑)。でも、一度見たら忘れられない、楽しんでもらえるCMになったと思います。
 今回、共演したPOTは、15年以上活動している大阪出身のバンドで、メンバーが兄弟や幼馴染同士ということもあり、運命共同体というか、一蓮托生な印象を受けました。過去には病気や事故でメンバーが一時的に離脱したこともあったそうなんですけど、それでも活動を止めずに突き進んできたバンドです。撮影は1日だけでしたが、ただ仲がいいだけではない、固い絆がしっかりとできあがっているんだなというのは、一緒にいて伝わってきました。
原田龍二
音楽なくして、
僕の人生は語れない。
 バンドは方向性の違いで揉めたりすることもありますが、POTはそういうことがないんだろうなと思いましたし、音楽への熱意もある。将来的には、今以上に多くの人から愛されるバンドになるんじゃないかなと思っています。
 実は、僕が温泉大使を務めている八丈島には「POT HALL(ポットホール)」という島で唯一のライブハウスがありまして、そこでライブをするのも面白いかもなんて、POTのみんなと話していました。同じ名前なんて、すごい偶然ですよね。また、このライブハウスが味わい深くて、いい佇まいなんです。ライブが実現したら、僕も駆けつけたいですね。
 前にもお話ししましたが、音楽は昔から大好きですし、僕を形づくるものの一つです。音楽なくして、僕の人生は語れないかもしれません。ありとあらゆる音楽に触れたくて、ロックはもちろん、アンビエント・ハウス、トリップ・ホップ、ブルース、R&B、レゲエと、何でも聴いていますし、音楽配信サービスのSpotifyで刺激を与えてくれる曲を常に探しています。絞るのは難しいんですけど、しいて挙げるとすれば、最近はHermanos Gutierrez(エルマノス・グティエレス)というエクアドル系スイス人兄弟の曲が好きで、よく聴いています。
 ただ、音楽を楽しむのは、家にいるときや車を運転しているときだけにしています。ジョギングやウォーキングのときに聴く人もいますけど、僕は聴きません。危ないというのもありますが、やはり自然の音を体で受け止めたいんです。音楽は好きですけど、ジョギング中に耳をふさいでいたらもったいないですから。
 春から初夏にかけては、雉の鳴き声がよく聞こえました。いるんですよ、ジョギングコースに野生の雉が。雉は羽の模様がとてもきれいで、鳴くと羽をパタパタ、パタパタと動かすんです。その羽の音まで聞こえてくる。夏は蝉の鳴き声もすごいですし、ジョギングは体力づくりの側面もありますが、こうした季節の音を聞くのが本当の目的かもしれません。
 今年の夏はものすごい暑さでしたけど、それでも時間があればジョギングに出かけていました。家にいるとジョギングに行きたくてソワソワしてしまう。もう中毒ですよ(笑)。いつものコースを走っていると、たまに同じジョギング中毒のランナーとすれ違うんです。「お互いに好きですね」なんて会話をしたりして(笑)。この前は、ジョギングの途中で畑作業をしているご年配のご夫婦と仲良くなって、野菜をいただきました。走っているだけですけど、けっこうコミュニケーションって生まれるものなんです。
原田龍二
癖のある役は
演じていて楽しい。
 最近はジョギングのついでにゴミ拾いもしています。人様のためというよりも、僕が気になっちゃうんですね。気になったのなら拾おうかなと思ったのがきっかけです。家の近くならまだしも、僕のジョギングコースは割と広範囲なので、家から離れた場所でゴミを拾っていたら、おばあさんから「どこからいらっしゃったの? 偉いわね~」と缶ジュースをもらったりもしました。けっして善行を積もうとしているわけではないんですけど、人に感謝されて、体力づくりにもなるなら止める理由はありません。
 昔、石井竜也さんが監督した『河童』という映画で、藤竜也さんと共演したんですけど、藤さんもよく走ってらっしゃるそうなんですね。やはり役者は体が資本だから、走らないとダメなんだなと思ったのをよく覚えています。
 僕も俳優としてのキャリアがそこそこ長くなりましたけど、自分の活動の中で、戦争を題材にした映画に携わることができたというのは、ここ数年の中で大きなトピックかもしれません。8月8日に公開された『ハオト』は、太平洋戦争末期の日本が舞台の映画で、僕は元エリート海軍兵の水越を演じています。戦争を題材にした映画ではあるんですけど、ファンタジックな部分があったり、くすっと笑えるシーンがあったりもします。他の戦争映画とは少し異なる視点で描かれた作品で、そこが大きな魅力なのかなと。監督・脚本・プロデュースを務めた丈さんの熱量も高かったですし、スタッフとキャストが全力で取り組んだ映画なので、多くの方に劇場へ足を運んでいただきたいですね。
 最近は映画の他に、FODショートの『サラリーマン山崎シゲル』と、タテドラの『ズバッと派遣!姫華』というショートドラマにも出演しています。『ズバッと派遣!姫華』は、セクハラ上司の役なんですけど、癖のある役は演じていて楽しいです(笑)。僕の経験上、ああいう役は「ちょっとやりすぎかな?」と思うくらいオーバーに演じるのがコツなんです。監督から「もう少し抑えてください」と言われたら、そこからギアを落としていけばいい。逆に、低速のギアから入って、だんだん上げていくほうがエネルギーを使う。こういうテクニックもキャリアを重ねたからこそなのかなと思っています。『サラリーマン山崎シゲル』も、古屋呂敏さんの演じる山崎と小手伸也さんの演じる部長のやり取りを酒の肴にする居酒屋の常連客という変な役どころです(笑)。どちらも興味のある方は、ぜひご覧になってみてください。