映画監督の白石和彌が、現在手掛けている
映像作品について語る連載の第23回。
撮影/野呂美帆
映画監督の白石和彌が、現在手掛けている
映像作品について語る連載の第23回。
映画『碁盤斬り』が公開されておよそ2ヵ月。これから“おいごばん”する人たちに向けて、白石監督はこんなメッセージを送る。
「登場人物がそんなに多くはないですが、いろいろと人間関係が張り巡らされているので、きっと新しい発見があると思います。あと、囲碁ファンの方もけっこう映画館に来てくれているそうなんですけど、囲碁の盤面がわかるとより楽しめるかもしれません」
イタリアで開催されたウディネ・ファーイースト映画祭では、批評家によって選出されるブラック・ドラゴン賞を受賞し、フランスでの配給も決まるなど、その勢いは国内だけに留まらない。
「フランスの配給会社に行ってあいさつをした後、ウディネの授賞式に参加しました。みんなサムライが好きなんでしょうね。会場が満席で、翌日も街を歩いていたら、“サムライムービーのサムライディレクターだ”とよく声をかけられました」
今の時代でも
いけるんじゃないか
と思ったのがはじまり。
『碁盤斬り』に続き、11月1日には映画『十一人の賊軍』が公開される。まずは、企画の成り立ちについて教えてもらった。
「『十一人の賊軍』はもともと1960年代に脚本家の笠原和夫さんが戊辰戦争時の新発田藩の裏切りに着想を得て、脚本まで書いた企画だったんです。でも、結局は映画にならなかった。脚本も破棄されていて。その話を僕が『昭和の劇』という本で知って、もちろん調整しなきゃいけない部分はあるけど、今の時代でも全然いけるんじゃないかと思ったのがはじまりです」
残っていたプロットをもとに、一から作り上げた本作は、山田孝之と仲野太賀がW主演を務める。
「山田さんとは『凶悪』以来ですけど、最近は監督やプロデューサーもされていて、表現者としてより大きくなりましたよね。僕は今年で50歳になるんですけど、ある意味、『凶悪』で監督人生がはじまったみたいなところがあるので、節目のタイミングでご一緒できて、いい人生の再スタートが切れたかなと思っています。
仲野さんとははじめてだったんですけど、気持ちが強くて、真面目な方でした。本人が山田孝之に憧れて役者になったみたいなことを言っていて、この熱量のある2人とできたのは映画としてもすごく良かったなって。見てもらったら、きっとテンションが爆あがりしますよ」
そして、もう1本。総監督を務めたNetflixシリーズ『極悪女王』の配信も控えている。
「5月15日に最終ダビングが終わって、作業はこれですべて終了です。いや、本当に完成まで長かった……。ゆりやんレトリィバァさんを筆頭に、レスラーを演じたみなさんがすごく頑張っていたし、中にはキャリア史上ベストアクトなんじゃないかって人もいるので、そこはすごく期待してください。間違いなく、魂が震える出来になってます」
資金集めの労力を
より映画の内容や
海外への営業に向けられる。
少し前には、こんな出来事もあった。
「ゆりやんさんやダンプ松本さんと飲んだんですよ。『碁盤斬り』の完成披露舞台挨拶の前日に、中目黒にある鈴木おさむさんの店で。一席だけ予約が入っていて、貸し切りにはできなかったんですけど、実はその席を予約していたのが、草彅剛さんのファンの方たちだったんです。店がSMAPファンの聖地になっていて、そのファンの方たちも“あ、白石監督だ。明日、舞台挨拶に行きます”みたいな感じで。終盤にはおさむさんも合流して、楽しい夜でした」
12月に活動の拠点をアメリカに移す予定のゆりやんは、映画監督への挑戦も表明しており、5月にはカンヌで映画製作ファンド「K2P Film Fund I」の記者会見に参加。同ファンドは『孤狼の血』のプロデューサーでもある紀伊宗之が立ち上げたもので、白石監督もその趣旨に賛同している。
「閉鎖感のある日本の映画界の状況を打開するために、紀伊さんが立ち上がったということです。今って映画がいくら当たろうが、興行収入が100億円いこうが、クリエイターには1円も入ってこないんです。その状況がいつまでもスタンダードで果たしていいのかなと。昔からそういう構造が続いていて、現場はめちゃめちゃ疲弊しています」
ファンドは国内外の投資家による日本映画産業への参入と、クリエイターへの利益の還元を目的としている。
「ファンドが上手く循環すれば、プロデューサーもクリエイターも資金集めの労力をより映画の内容や海外への営業に向けられると思うんです。今の日本映画は製作委員会の各社の都合にクリエイターもプロデューサーも労力を使い過ぎています。あと、映画の企画はさまざまな成り立ちがあるので、権利が生じるのだとしたらグラデーションがあってしかるべきなんです。映画会社が企画や脚本を作って最後に監督を呼ぶケースと、監督が企画を立てて映画会社に持ち込むケースで、取り分が一緒でいいのかというと、それは違うと思うんです。いろんなパターンがあっていいはずなんですけど、それもこれもひっくるめて現状は何もないので。ファンドが回れば、ちゃんとお金をかけて若いクリエイターがデビューできる環境を整えることもできますし、ぜひ成功してほしいですね」
白石和彌 しらいしかずや 映画監督。1974年生まれ、北海道出身。2010年に長編映画監督デビュー。近年の監督作品に『孤狼の血LEVEL2』『死刑にいたる病』『仮面ライダーBLACK SUN』、プロデュース映画に『渇水』など。映画『碁盤斬り』が公開中。Netflixシリーズ『極悪女王』の配信と、映画『十一人の賊軍』の公開を控えている。
撮影/野呂美帆