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白石和彌

白石和彌

白石和彌

撮影/野呂美帆

映画監督の白石和彌が、現在手掛けている

映像作品について語る連載の第14回。

 全10話からなる特撮ドラマ『仮面ライダーBLACK SUN』の配信がはじまって3ヵ月。すでに全世界で多くの人に観られているが、2周目をより楽しむための視聴ポイントを白石監督に聞いてみた。

「回想シーンの一部は16mmや8mmのフィルムカメラで撮っていて、画面の質感が全然違うので、そこはちょっと注目してほしいですね。あとはやっぱり怪人。冒頭でデモをしている怪人たちが、実は少し色を変えて後半にゴルゴムの上級怪人として登場したりするので、そういうところを気にして観ていただいても面白いかもしれないです。よく探せば、同じ形の怪人がいたりするので」

 リアリティのある怪人は本作の大きな魅力だが、撮影時にはこんな苦労も。
「人が着て動くものなので、怪人の造形物はできるだけ軽くしなきゃいけないんですね。ただ、海中のシーンがあるんですけど、軽すぎると水に沈みづらくて大変でした」

政治や社会への

強いメッセージが

込められていた。

 主人公の南光太郎と秋月信彦は仮面ライダーBLACK SUNと仮面ライダーSHADOWMOONに変身するが、その前段階となるバッタ怪人の造形にも注目してほしいという。

「あの造形は原作の石ノ森章太郎先生の漫画に登場するものに近くて、まずはこれを出したいというのがありました。どのタイミングで次の段階に変身するかというのは、脚本の段階でかなり話し合いましたね」

 作品全体を通して貫かれているのは、原作へのリスペクトだ。

「ネットでも“政治色が強い”とは言われているんですけど、石ノ森先生の漫画を読んでもらえば、それこそショッカーが政権の手先だったり、社会問題に踏み込んでいたりと、政治や社会に対して強いメッセージが込められていることがわかるんです。とても問題意識を持って描かれていた方ですし、そこにすごくシンパシーはありました。また叩かれるかもしれませんが、そういう意味でいうと、先生のやっていたことと我々がやったことに、そんなに差異はないかなと思っています」

白石和彌

 場面でテイストが異なるのも特徴の一つ。

「カニ怪人が迫ってくるシーンなどは怪奇モノの雰囲気がありますし、葵と俊介のシーンはジュブナイル感がある。特撮というジャンルではあるんですけど、その中でいろんなことができたのは、撮っていても楽しかったです」

 最終話のあるシーンでは、白石監督本人もカメオ出演。ほんの遊び心だったという。

「僕の隣にはカメラマンや照明マンもいます。ちょうど年末の最後の撮影で、お疲れ様の意味を込めて、みんなで出る?と」

 そして、もう一つの話題作であるNetflixシリーズ『極悪女王』の進捗も気になるところ。週刊誌では、撮影中に主演のゆりやんレトリィバァが負傷したと報じられたが。

「報道にあったような頭から100回落ちたとかいう事実は一切なくて、普通にドロップキックのシーンで、後ろ受け身を取るのを失敗してしまったんですね。そのときに頭を少し打って、ゆりやんさんは撮影中は全然大丈夫ですと言っていたんですけど、夜になって頭痛がして病院に行ったという経緯です。書かれていたような脳の損傷もなくて、診断した医師からはプロレスの練習もはじめていいよと言われているんですけど、様子を見てちょっと時間を置こうということになっています」

 ゆりやんのパートの撮影は、タイミングをはかった上で、仕切り直して行われるという。

「怪我をさせてしまったことには当然責任を感じていますし、今後はより安全な方法として何ができるのかを考えていかなければいけないと思っています」

完成に向けて、

スタッフもキャストも全員が

力を注いでいる。

 現場ではアクシデントが起きないように細心の注意が払われ、万全の体制が取られていた。

「撮影を進めていく中で、これは難しいなという技は吹き替えでプロにやってもらいました。基本的な技でも、出演者の彼女たちを一から指導している長与千種さんがちょっとやめておこうと言うものはやらないですし、みんなにも、試合のシーンを撮る前に不安があったり、体調がよくなかったりしたときはすぐに言ってほしいと。できない部分は変えるし、吹き替えにすることもできると伝えていました。 それでも、本人たちは言えなかったりもするから、看護師さんが撮影日の朝にメディカルチェックをしたり、トレーナーがマッサージをしたりして、体の不調を拾える体制にはなっていました。今回はそこからこぼれてしまいましたけど、報道にあったような強引に撮影したということはなくて、体制としては現状でやれる限りのことをやっている中で起きた事故だということです」

 該当のシーンは、ゆりやん扮するダンプ松本こと、松本香がプロテストに挑む場面。

「プロテストなので、ドロップキックやボディスラムといった基礎的な技しかやりませんし、頭から落とす技もないです。ドロップキックはアクション部が直前にテストを行い、これだったら大丈夫だろうと確認してから、本番で5回ほどカメラを回しました」

白石和彌

 事実と異なる報道に憤りを覚えることもあった。

「当然いい気分はしませんでしたし、スタッフの中にも傷ついた人が多くて、今後どういうテンションでやればいいのかみたいなこともあったんですけど、今は切り替えて完成に向けて、全員が力を注いでいます。あと、さまざまな媒体に、僕やプロデューサー、長与さんなどを取材してもらって、きちんと事実を伝えていくのが良いかなと。ゆりやんさんとも彼女が退院したときに話したんですよ。あれだけ事実と違うことを書かれてひどいと言っていて。でも、不倫記事とか告発記事とか、当事者ではない記事のことは本当だと思えるんですよねと言っていて、ちょっと笑っちゃいました」

白石和彌

白石和彌 しらいしかずや 映画監督。1974年生まれ、北海道出身。2010年に長編映画監督デビュー。近年の監督作品に『凪待ち』『ひとよ』『孤狼の血LEVEL2』『死刑にいたる病』など。『仮面ライダーBLACK SUN』がプライム・ビデオで配信中。その他、『極悪女王』の配信やプロデュース映画『渇水』(監督:高橋正弥)の公開が控えている。

撮影/野呂美帆